爪先立ちの足元は、ふら付いてて伸ばしに伸ばした指先はプルプルと細かく震えている。
それでもあたしは椅子も使わずその書物を取ってやろうと、本棚の前で一人、格闘(?)していた。
後1センチ、いや、せめてあと5ミリこの手が伸びれば、間違いなくあの書物に手が届く。
そう思うと何だか意地になってどうしても椅子を使う手間を掛けたくない。

「くっ・・・ちょっとこれ・・・さすがに手がつるかも・・・。」

思わずそんな独り言を口にして、一息吐いた。
そしてまたしても果敢に本棚へ挑むあたし。
指先が再びプルプル震える。
あたしはこれでもう同じ動作を3回も繰り返してる。
そこへ誰かがひょいっと目的の本に後ろから手を出してきた。

「っ!」
「あんたが欲しいのはこれかい?お嬢さん。」

書物片手にニヤリと口の端を上げて笑いながら、凌統が言った。
あたしは驚きすぎて振り向いた瞬間に、バランスを崩す。

「あっ・・・!」
「っと、俺に答える前に倒れ込むなんて威勢がいいね。」

すぐにあたしの後ろに居た凌統があたしの体を受け止めて、また笑う。
突然のことに凌統の腕の中に納まったまま少しの間呆然として、あたしは慌てて彼から身を離した。
心臓が馬鹿みたいに早鐘を打っている。
いちいち心臓に悪い男だ。

「有り難う・・・、それから書物も。」

動揺を凌統の奴に悟られまいと、とにかく平静を装ってあたしは言った。
未だに目の前の凌統は口の端を上げたまま。
女の体に触れることなんか慣れてますって感じでムカつく。

「へぇ、兵法の初歩?呂蒙殿か陸遜にでも薦められたのかい?」
「ううん、ま、次の戦に向けて少しはね。」

あたしはそう曖昧に答えて凌統の手から書物を受取った。
この書物は読むと言うよりは『見る』もっと言えば『眺める』為のものだと言ってもいいかもしれない。
爺さんの説明文によればエディット武将の兵法関係のスキルアップは、
書物に目を通すだけでいいと言うことらしいので、
こうして普段読みもしなければ興味もない兵法関連の書物に手を出しているという訳だ。
ただページ捲るだけでスキルアップ出来るってんだから、さすがバーチャル世界。
これが現実だったらどんなに大学入学、卒業は楽だろうと考えてみたりする。

「それにしてもあんた、さっきはえらく頑張ってたみたいだな。」
「え?」

凌統がそう言ってあたしの顔をじっと見つめ、更に吹き出した。

「・・・・・ちょっと、何よ、その反応は?」

思わず眉間にしわを寄せてあたしは軽く凌統を睨む。
人の顔見つめて吹き出すなんて失礼極まりない。
と言うか、見つめられてまたしても動揺しそうになったあたし自身が馬鹿らしい。

「ああ、悪い、悪い。ただ、ついさっきここで必死に書物に手を伸ばしてた思い出したらつい笑っちまってさ。」
「なっ・・・!見てたの!?いつから!?」
「ん?1回目の挑戦位からかな。」


それは最初っからって言うんです!!!!


心の中でツッコミを入れ、顔が恥ずかしさで赤くなるのが分かった。
助けてくれたのはきっとそのあたしの姿を(ある意味)堪能した後だったからに違いない。

「いい性格・・・・。」
「そりゃどうも。けど、あそこまで意地になって椅子使わないあんたもどうかと思うけどね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

ここの書庫は大きいものから小さいものまで城内に数箇所あって、
今あたし達の居るここはその中でも1番大きいものだ。
書物の数は勿論、出入りする文官達の数もそしてその広さも並みじゃない。
まさか顔見知りの、しかもこの時間鍛錬に励んでるはずの凌統にあんな姿を目撃されるなんて、
不運としか言いようがない。

「さぁて、俺はそろそろ自分の仕事に戻るとしますか。
呂蒙殿に頼まれてた書物も見つかったしな。」
「・・・ん、あ、さっきは本当に有り難う。助かった。」
「いえいえ、俺も色々と楽しませてもらったんでね。」
「・・・・凌統!」

ハハハと声を上げて凌統が笑い、あたしに背中を向けて出入り口の扉へ向かう。
そして不意に此方を振り返って言った。

「ああ、それとここ、一応閉まる時間決まってんだ、夢中になって閉じ込められるなよ。」
「そんな間抜けじゃないわよ。子供じゃないんだから。」

憎まれ口を叩くあたしに、凌統が苦笑する。
そしてそのまま手をひらひらと振って、あたしの側から離れて行った。
あたしは軽く溜息を吐いた後、椅子のある場所まで移動して書物に目を通すことにした。
で、書物を開いて見た訳なんだけど、これが目が痛くなるほどびっしりと細かい文字で色々と書かれている。
たまに絵や図で表してあるものもなくもないけど、その殆どが難し過ぎて理解できない。
これが『兵法の初歩』だと言うんだから・・・・。


無理・・・これを読めって言われても絶対無理だ・・・。
大学のレポート地獄の方がまだマシだわ。


ただ単に純粋に眺めるだけと言う行為にさえうんざりしながらも、
あたしはゆっくりそれを1ページずつ捲った。


耐えろ、あたし。
とにかく次回からは戦の難易度上がるんだから色々精進しとかないと・・・。


半分位眺め回した所で挫折しそうな自分自身に言い聞かせる。


【3度の戦は小手調べ、4度目からが本番じゃ。充分気をつけるんじゃぞ!!】


4度目の戦がいつあるのかは今のところ分からない。
それは説明文にも載ってなかった。
だけどその戦が今までとは確実に違うことだけは分かっていた。
何たって、あの有名な『黄巾の乱』なんだから。
この戦はあたしにとっては初めて敵ボスが顔あり武将の戦闘になる。
つまり、この場合は張角だ。
ゲームでは修羅までやり込んで倒した記憶はあるけど、
あの戦を実際体験するとなると全く別の話。
大体あの炎技な無双を食らった自分なんか想像したくもない。


・・・しかも張角って確か180センチ以上なかった?
・・・・・・あたしが大体163位だから・・・・。
・・・・・・・・・・・・・あり得ない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


身長差だけ考えてもビビってしまう。
そんな大男相手に今まで通りの戦いが出来るのかは激しく疑問だ。
最悪1回はバーチャル死体験をする可能性も大きい。


・・・・考えても仕方ない・・・。
とにかく今あたしがやれることをやるしかないわ・・・。


ページを捲り続けながら、ゴチャゴチャと浮かぶ考えをあたしは必死に振り払った。




(凌統編 白黒 -続く-)



後書き
1話完結のつもりが長々となったので、またしてもぶった切りました。
しかもまた中途半端なところで・・・・。
これから更新速度激落ちなので、
せめてこれだけでも!と思って駆け足で書いてます。(まだ途中)
白黒って題名は本当は灰色イメージでつけました。
なんかあんまりな題名なんで白黒になったんですけどね。
では、ここまで読んで下さったお客様、有り難うございます。
失礼致します。


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