「ふわー・・・っと、悪ぃ・・・。」

大欠伸をひとつして、策が眠そうに言った。
飽きもせずに木の上の緑の風景を楽しんでいたあたしは振り返って彼を見る。

「仕方ないよ、昨日も軍議だったしね。」
「いや、単にここに来ると眠くなっちまうだけだ、お前は気にすんな。
それより欠伸なんかしちまって悪かったな。」

策はそう言ってくれたけど、
実はここ最近城内の軍師や、尚香を覗いた孫家の人々は徹夜で軍議しっぱなしな毎日だ。
しかも、本当に珍しいことに、策もサボらずきちんと参加していた。
そして今日も軍議で徹夜明けにも関らず、策はあたしの為にこうやって馬でここまで連れてきてくれたのだった。

「いいよ、策。昼寝しよう、昼寝。」
「けど、お前・・・。」
「あたしもここで眠ったら気持ちいいだろうって思ったしさ、ね?」

あたしの提案に策は少しだけ考えて、そして答えた。

「んじゃ、そうすっか!・・・・・・悪ぃな、気ぃ遣わせちまってよ・・・。」
「何言ってんの!気を遣ってんのは策でしょうが。」

策は相当疲れが溜まっていたらしく、横になったかと思うとすぐに規則正しい寝息をたてだした。
緑の清々しい香りを含んだ風が策の前髪を揺らしている。
あたしはそれをじっと見つめながら、暫くそのままでいた。


変な感じ・・・・策の寝顔をこんな間近で見られるなんて・・・・・。


眠っている策はやけに幼く見えて、とても20代後半とは思えない。
木漏れ日がキラキラと策の顔を照らした。
あたしは自分でも気付かない内に、彼の髪に指先で軽く触れていた。

「ん・・・・・・・・。」
「っ!」

起きる!?と思ったけどそう言う訳じゃなく、策は少しだけ身体の向きを変えただけだった。
策の髪に触れていた手を離そうとしたその時、彼の両腕が唐突にあたしの腰に回される。

「っ!?ええ!?策!?」

驚きまくって声を上げたあたしは策に目をむけたけど、当の本人はいびきをかきそうな勢いで眠ったままだ。
あたしはとにかく彼の手から逃れようと身体をずらそうとした。
んだけど、策のヤツさすがと言うべきなのか何なのか、寝ているくせにやたらと力が強くてビクともしやしない。
一瞬声をかけて起そうかと考えたあたしだったけど、ついさっき眠ったばかりの策を起すのはやっぱり気が引けた。


いや・・・でも・・・だからってこの状況はいくら何でも・・・・・・。


「あっ!」

グイっとさっきより更に強く策に身体を引き寄せられて、あたしは彼の胸に思いきり顔を押し付けられた。
ヤバイ!と思っているその間に策が耳元に唇を寄せて言った。

「・・もっとこっちに・・・・来いよ・・・大・・・喬・・・・」

「!!??」


その瞬間、自分でも何をしたのか一瞬分からなかった。
ただ気付いたら掌に軽い痺れと痛みが走って、策が「だっ!!!!」と声を上げていた。
そう言えば、ベシッと音がした気がする。

「いっでぇーー!!何だぁ!?急に!?」
「あ・・・・あれ・・・?」

あたしは自分の掌と策を交互に見つめながら、思わず呆然とする。
つまり、あれだ、自分でも咄嗟のこと過ぎて驚いてるけど、あたしは策をぶっ叩いたらしい。

「お前なぁ!」
「あ、えーっと・・・虫!そうそう、虫が策に止まってて。
ちょっとビビって手が出てさ。ゴメン、ゴメン!」
「虫ぃ!?・・・・そんならしゃーねぇか・・・・。」

策はあたしの無理矢理な誤魔化しを信じてくれたらしく、それ以上何も言わなかった。
て言うか、策自身がやったことについては本当に覚えてないみたいで、さっきのは本気で寝惚けてたらしい。
あたしはそれが何故かまた少しムカついた。
ほんの少ししか眠ってないにも関らず、策は目が冴えたと言ってその後はあたしと世間話をして過した。



「んじゃ、そろそろ降りるとすっか?」
「うん。・・・でも、降りる方が登る時より大変そうだね・・・。」

言いながら、あたしは下を見た。
千年樹なんてよばれるだけあって、横幅の大きさは勿論、高さも並みじゃない。
高いところは嫌いじゃないけど、さすがにこれにはあたしも怯んだ。

「おいおい、降りる前に下見ちまったらそら怖ぇだろ。
とにかく俺が先に下りるからお前はついて来い。何かあっても俺が支えてやるぜ。」
「うん・・・・。」

不安に思いながらも、あたしは頷いて下りることにした。
先に下りる策に何度も声をかけられつつ、ようやく下に辿り着きそうになった時、
気が抜けてホッとした瞬間にバランスを崩す。
あたしより早く地面に着いていた策が素早くあたしの身体を受け止めてくれた。

「おっと、危ねぇ!気ぃ抜くのが早すぎるぜ。」
「はは・・・ごめん・・・・。有り難う・・・。」

そう言って策の腕から身体を離して、あたしはふとついさっきの出来事を思い出した。
寝惚けてあたしを大喬と間違えた策。


・・・何だってあたし・・・策をぶっ叩いたりしたんだろ・・・・・・。
寝惚けて妻の名前を呼ぶなんてベタ過ぎだけど微笑ましいじゃん?
策大万歳派としては結構おいしい話じゃないの?


馬の繋いである場所まで策と並んで歩いている間も、あたしはずっと自問してみた。
策の腕は、力強くてあたしがもがいてもビクともしなかったけど、でもどこか優しさがあった。
腕の中にいる『大喬』が苦しまない程度の適度な力加減。


・・・・・・・・間違えるな・・・馬鹿・・・・・・・・。


これはひがみってヤツなんだろうか。
現実世界でも仲良さ気なカップルが目の前でイチャついてるの見たらムカつくあれと同じで。
でもそれとはやっぱり違う気がする、大体あたしは策も大喬も好きだし、
何よりあの2人はそんなみっともないベタつき方はしてないから。
結局、そんなことをあーだこーだと考えながら、あたしは策と一緒に城へ戻った。



「今日は本当に有り難う。もうゆっくり休んだ方がいいよ、策。」
「ハハ!こんぐれぇ大したことねぇよ。それに俺も楽しかったしな!また行こうぜ。」
「うん。」

城内に入ってそんな会話を交わして廊下を歩いている所に、後ろから大喬が声をかけてきた。

「孫策様、さん。」

その声を聞いた途端に、何故かあたしの心臓がドキリとひとつ、大きく鳴った。
振り向きざまにぎこちない笑顔を彼女に向ける。
何だか妙な罪悪感みたなものが胸の奥にあるようだった。

「大喬、小喬と買いもんに出てたんじゃなかったのか?」
「はい、行って来ました!小喬はもう周瑜様の所です。」

大喬は笑顔でそう答えた。
策は頷くと、いつものように彼女の肩に手を置く。

「そうか、俺たちは今帰ってきた所だ。俺はもう戻るが、お前はどうする?大喬。」
「わたしも孫策様と一緒に戻ります。」

極自然に彼に寄り添った大喬が言った。
見慣れてもいいはずのその光景。

なのにやっぱりまたしてもあたしの胸にチクっと棘が刺さる感触がある。

ここは無双のバーチャル世界、ゲームを体感出来て、しかもキャラを間近で見ることが出来る世界。

どんなにリアルに思えてもこれはバーチャル。


この身体だって借り物だ。


この棘の正体なんか知る必要ない。
この棘の理由なんか知る必要ない。


何よりあたしはあの夫婦が大好きなんだから。



(孫策編 緑 -終わり-)



後書き
孫策編でいつも更新速度が落ちる(苦笑)
3人のキャラで1番キャラ性格が怪しいからだと思います。
マイラブ指数は甘寧、凌統に負けない位高いのですけどね。
策編はとりあえずヒロインが嫉妬に狂わない様に制御します(笑)
そんなドロイメロドラマみたいなもの私も書きたくないですし、
何より似合わない。
では、ここまでこの作品にお付き合い下さったお客様、誠に有り難うございました!
失礼致します。


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