空気を肺一杯に吸い込むと、清々しい緑の香りが胸を膨らませる。
何回でも深呼吸したくなる。
今、あたしは孫策と一緒に馬で森を駆けていた。
空を見上げれば揺れる枝葉の隙間から木漏れ日がキラキラと目に眩しい位だ。
ある意味で、バーチャルだから出来上がった完全な美しさってヤツなのかもしれない。
人工物だと言ってしまえば終わりだけど、体感してる私はそんな言葉では終わらせる事ができない。
「気持ちいい!!最高!」
「ハハ!そら良かったぜ。」
少し先を駆けている策が笑って言った。
最初は馬に乗ることが不安で仕方なかったけど、考えてみればあたしの身体は今、
借り物のエディット武将のもので、当然馬だって簡単に乗れるに決まってたんだった。
実は今日は、あたしが1人で馬に乗った事がないって話をしたのがきっかけで、
こうして策と2人で遠乗りすることになったのだ。
策はビクビク馬に近付くあたしに色々アドバイスしてくれたんだけど、
馬に近づいた途端にひょいっと余りに簡単に馬の背に乗ったあたしを見て、
少し拍子抜けしたみたいな顔をしていた。
あれはあたし自身も普通に驚いたんだけど。
そして勿論、背に乗れただけでなく本当に普通に馬を走らせることも出来た。
これが現実世界だったら訓練やら練習やらあるはずだけど、
ここじゃそんなこと考えるだけ無駄ってヤツ。
『バーチャルだから』の一言で、殆どの非常識が解決できるんだから。
「この森抜けたとこがまた最高でよ、お前も気に入るだろうぜ!」
あたしの方に軽く振り向いて策が言った。
あたしは笑顔でそれに応えて、少しだけ馬で駆ける速度を上げる。
「ねぇ、この森どっちが早く抜けるかやってみようか?」
「お、いいな、それ。って、お前ホントに今まで馬に乗ったことなかった奴の言うことかぁ?
まぁいいか、うんじゃ、いくぜぇ!!!!!」
言うが早いか策は並んで走るあたしを振り切り始める。
あたしは負けじと手綱を握り直して策に言った。
「ああ!!ズルっ!!!普通こういう場合ちゃんと始めの合図とかあるでしょ!?」
「ま、そう堅ぇこと言うなって!早くしねぇとお前の負けだぞ?!」
「まるでガキだね、策は!」
ハハハっと声を上げて笑いつつ、策がまたあたしとの距離を取った。
あたしは半分意地になってスピードを上げる。
策もそれに気付いたらしく、更に速度が上がった。
そんな事を何度か繰り返している内に、突然、目の前の視界がひらけた場所に出た。
森を抜けたその先にあったのは、これまた緑の綺麗な草原。
空の青と、背の高い緑色の草が絨毯みたいに敷き詰められたその光景が何とも言えず、絵になってた。
あんまり突然だったから、あたしは思わず驚いて馬の手綱をグイッと引っ張った。
ヒヒン・・・
馬が嘶いて足を止める。
策はあたしより少し早くその場に居て、満足そうな、それでいて悪戯っぽいみたいな笑顔であたしを見ていた。
「どうだ?すげぇだろ?」
「・・・・うん・・・・・・、すげぇ・・・・。」
言って、あたしは素直にコクッと首を縦に振る。
策はそれを見てまたあたしに笑顔を向けた。
それから馬からひらりと降りて、あたしの方に近寄ってくる。
「こっから先はちょいと歩くか、おら、手ぇ貸してやるから降りろ。」
「え?あ・・・、自分で降りられると思うけど。」
「遠慮すんなって。」
おらよ、と策はあたしに手を差し出した。
2度も断わるのも変だし、あたしはそれに甘えることにして彼の手に自分の手を重ねた。
策の手は想像してたよりずっと大きくて、ごつごつした感触がする。
合わさった部分から彼の温かさを感じながら、あたしはそのまま地面に足を着いた。
「どうも・・・。」
「おぅ!んじゃ、行こうぜ!」
策はあたしが照れてることさえ気付かず、いつも通り威勢良く言って歩き出した。
・・・なんと言うか・・・、凌統とかとは違う意味で女の扱いに慣れてる感じだよ・・・、策は・・・。
そんな事を考えつつ、あたしは策の後を追う。
掌がやけに熱を持った気がするのは、やっぱり気のせいなんだろうか。
手を握る位で緊張する程あたしだって純情乙女って訳じゃない。
けど、策のやるそういう特に何でもないことに妙に反応してしまう自分が居たりする。
・・・他人の旦那相手に何を考えてんだか・・・・・・・・。
ふと大喬の顔が頭に浮かんで、あたしはそれを否定した。
策にだって正室の大喬以外にもきっと側室が何人もいるはずだ、
だけどこのバーチャル世界は無双が基盤。
つまり、彼に堂々と近づけて彼の隣に居られるのはこの世界では彼女だけだってことになる。
それは大喬にとってはこの上なく幸せなことだとあたしは思った。
・・・策を独り占めに出来るんだしね・・・・。
羨ましい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「!?」
羨ましい!?何が!?誰が!?どうして!?
てかそれが策大万歳派の考える事な訳!?
あたしはそこで、ブンブンと左右に首を振り、またそれを否定する。
「おい、、お前さっきから何1人で百面相してんだ?」
「え!?やっ!!何でもない!!!」
「そーか?ならいいけどよ。おら、もうすぐ着くぜ!」
「うん。」
策の言葉に頷きながら、あたしは今の今まで考えたことを更にもう1回否定しておく。
馬鹿みたい!大体ここはバーチャルだし?
無双策大万歳派ならもっとこの夫婦を堪能すべきでしょうが!!
よっしゃ、とあたしがその考えにそこでケリをつけたところで、策がまた声を掛けてきた。
「あのデケェ木見てみろよ、すっげぇだろ!?」
「っ!?うわ・・・・・・・・・。」
策が指差す先に顔を上げてみると、草原の中にこれまで見たこともない位大きな木が1本、立っていた。
それは、いつかテレビのCMで見た森ほどの大きさの巨木に負けずとも劣らなくて、
あたしは思わず息を飲んだ。
これが一本の木だなんて到底信じられない。
本当にあり得ない程大きな木。
「何せコイツぁ千年樹なんて呼ばれちまうぐれぇの木だからな。
俺はこの木の上で昼寝すんのが気に入ってんだ。」
「うわ、うわーーー!ホンット凄すぎ・・・!
ねぇ、策、あたしもこの木に登りたい!!!!」
「・・・この木に・・・、お前本気か?」
策は少し驚いた様にあたしを見た。
「本気、登っていい?」
「ハハ!んじゃ登ろうぜ!」
無邪気な笑顔を浮かべた策が、そう言ってあたしを巨木の下まで連れて行ってくれた。
「策が先に登って、あたしはそれと全く同じにやるから。」
「おぅ、ちゃんとついて来いよな!」
「大丈夫、昔からこういうのは得意。」
自信満々に頷くあたしを見て、策がまたハハハと豪快に笑う。
そしてあたしの頭に手を伸ばして、髪の毛をクシャクシャとかき混ぜた。
「やっぱお前はいいぜ、一緒に居て楽しいもんな。」
「有り難う・・・って!もう、ほら早く登ってよ!」
顔が赤くなるのを策に気付かれない内に、あたしは彼の背中を叩いて追い立てた。
「足元気ぃ付けろよ、落ちたら洒落になんねーからな。」
「大丈夫、有り難う。」
先に登り始めた策を下から観察しつつ、
あたしは彼が登った後をなるべく同じように辿っていった。
途中に何度かあたしじゃ手や足が届かない場所もあったのはあったけど、
そう言うところは策が上手く別の場所を探して誘導してくれたり手を貸してくれたりした。
かなりの苦労をしながらも、あたし達はどうにか2人一緒に巨木を登り終えた。
「うわ・・・、さすがに高い・・・・!でも凄く気持ちいい。」
「だろ?けどお前本当に登りきっちまうとはなぁ、驚いたぜ!」
策はそう言って楽しそうに笑った。
木の上から見える風でなびく広大な草原の草や木がやけに綺麗に思える。
思える、じゃなくて本当に綺麗なんだけど。
「ここで昼寝なんて最高だね、策。」
「ハハハ、だろ。ここは俺の秘密の昼寝場所なんだぜ。こないだ大喬を連れて来たんだけどよ、
アイツは木に登れねぇから下で2人で話てたんだ。」
「確かに大喬って、運動神経とか関係なくこういうこと苦手そうだしね。」
・・・あ、秘密ってことは・・・
「もしかして大喬以外では・・・、あたしが初めて?」
「おぅ、そうだな。まさか登れるとは思ってなかったけどよ。」
策が微笑みがちな顔を見せて、あたしの頭をさっきと同じにクシャリとかき混ぜた。
「まーね、どうせ大喬みたく女の子っぽくもないし?あ、女の子って歳でもないけどさ。」
「いや、お前は充分女だぜ?」
言った策の視線はあたしの露出している胸元に注がれていた。
あたしはすかさずアイツのボディに一撃を食らわす。
ドゴッ
「いでぇっっ!!!、お前な!!!冗談だろ!?冗談!!!」
「ゴメン、ゴメン、あんまりにもスケベ面だったからつい。」
「ついって、お前な!!」
いつか交わした覚えのある会話を口にしながら、あたしは笑った。
本当は大喬も登った事のないこの木の上に策と一緒に居ることが嬉しくて、
ニヤけてしまいそうだったりもしたけどそれは秘密だ。
(孫策編 緑 -終わり-)
後書き
やっぱり長々となったので微妙なとこでぶった切りました。
てか・・・策難しいです。これは策と言うより「策もどき」?
甘寧と口調が被ることがあるにはあるけど、書き分けられてない気がする・・・。
似たとこがあっても確実に違うはずなのにな・・・。
甘寧、凌統中心サイトから孫策も加えようと言う目論みの下、
トリップに策編も入れてみたんですが・・・怪しいよ、これ。
イメトレの成果が反映されてない・・・・。もっと精進します。
では、今回もここまでのお付き合い、誠に感謝致します!
失礼します。
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