最近、城内で耳にする会話の中に、「大平道」と言う言葉が多くなった気がする。
つまりそれは4度目の戦が確実に近付いて居るってことだ。
あたしは自分の部屋でお爺さんが言っていた手鏡を机の中から取り出した。
一見豪華な飾りのついた女性用の綺麗な手鏡にしか見えないけど、
柄の部分に幾つかボタンみたいなものがついている。
でもそれも飾りの一部に見えないこともない。


手鏡に話しかけるって・・・周りから見たら結構ヤバい光景なんだろうな・・・。
ま、部屋でしか使う気ないからいいけど・・・・。


そんな下らない事を考えながら、あたしは柄についている赤い小さなボタンを押した。
その瞬間に、あたしの顔を映していた鏡が虹色に輝き始める。
ちょっとびっくりして見ていると、その奥から聞き覚えのあるしわがれた声がした。

「おぉ、久し振りじゃのぅ。そっちの世界には慣れたかのぅ、嬢ちゃん。」
「・・・・・・・まぁ、それなりには。」

いつも通りののほほんとした声に半分呆れた気分であたしは返事をした。
だって、今あたしの置かれてる状況って恐ろしく特異だと思うし、
しかもその原因はこの爺さんだし。
もっとこう緊張感とかあってもいいものだと思う訳だ。
そんな私の心境を知ってか知らずか、お爺さんはまたのんびりとした口調で言った。

「それで?今日は何ぞ用かの?」
「うん、お爺さんがくれた説明書にあったけど、4度目の戦から敵のレベルが上がるって、あれってどの位?」

敵のレベルが上がると分かってから、
私は予めそれに備えてエディット武将のスキルアップに日々時間を費やしまくっていた。
そのお陰で初陣の時に比べればそれなりに身体も戦に慣れてきてはいる訳だけど、
結局のとこ相手の強さが分からないから殆どがむしゃらにそうするしかなかったとも言える。
ま、それなりに自信もついたから、それはそれでいいんだけど。

「ふぅむ・・・実はな・・・嬢ちゃん・・・、レベルが上がると言う事以外、詳しいことはわしもよく分からんのじゃ・・・。」
「・・・・・・・・・ええ!?って、これお爺さんが作ったゲームでしょうが!」

その答えに驚いて声を上げたあたしに、お爺さんは鏡の向こうで唐突にフォフォフォと笑い出した。

「ノリで作った試作品じゃったからのぅ、実は分からん事の方が多いかもしれん。
勿論大抵のシステムなんかは分かるんじゃが、ランダムで設定しておったり、
しておらんかったりと言う所もあっての。」
「・・・・・・・・・・・何それ・・・、メチャクチャ適当過ぎ・・・・・・。」

あたしは呆れて思い切り顔をしかめた。
鏡の向こうは今も虹色の光が揺らめいているだけなので、お爺さんからはその表情は見えてないらしい。
またしてもフォフォフォと笑う。
あたしは大きく溜息を吐いてから、話題を変える事にした。

「・・・それじゃあ別の質問、ずっと聞きたかったんだけど、『鬼姫』って何?」

ここに来た初日からずっと気になってて、なのに結局今まで聞きそびれてた事。
あたしはやっとそれをお爺さんに聞くことが出来た。

「・・・何じゃと!?こりゃ驚いた!嬢ちゃん既に『鬼姫』の称号を手に入れておるのか!!!???」

あたしの質問に何故かやけに興奮気味の声でお爺さんが叫んだ。
あたしは思わず首を傾げて訊き返す。

「??や、手に入れておるのかって言うか・・・ここに来た時からそう呼ばれてて・・・・。」

あたしがそう先を続けると、お爺さんは更に興奮を高めた様なおかしな声を上げた。
申し訳ないけど、もの凄く形容しがたい変な声で。

「・・・あのー、で、結局何なのか教えて欲しいんだけど?」

手鏡の向こうで1人興奮しまくるお爺さんにあたしは再度、声を掛けた。

「おぉ!そうじゃったな・・・・。スマン、スマン。
・・・実はな、その称号は殆どギャグで作ったようなもんだったんで驚いてしもうたんじゃ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


・・・・・・・ノリの次はギャグかい・・・・。
爺さんあたしを舐めてんのか・・・・・・・・・!!??


と言う内心のツッコミはどうにか抑えて、あたしは続けて言った。

「それで・・・、『鬼姫』って呼ばれることに何か意味があるの?」
「それじゃ、それ。その称号は1兆分の1の確率で出る設定になっておってのぅ、それで・・・」
「ちょっっっっと待った!!!!!!!!!!!!!」

あたしはそこでお爺さんの説明を遮り、鏡に向かって大声を上げた。

「嬢ちゃん・・・いくらわしが年寄りでもそこまで大きな声を出さんで聞こえるんじゃが・・・。」
「そんなことより!!!!あたしの聞き違いでなければ今お爺さん・・・・・・・・・・、
ち・・・・ち・・・ち・・・兆って・・・・・・・・・・・・・。」

あり得なさ過ぎる数字にあたしはどもりながらもどうにかそれを口にする。
『兆』と言う単位が存在することは勿論知ってるし、それより上の単位があることだって分かってる。
だけどまさか自分の人生でそんな単位が絡む話が出てくるなんて、考えもしなかった。


てか・・・・0幾つよ・・・・・!?
・・・・じゃなくって!!!!!!!!!!!


「爺さん!!!つまり1兆分の1の確率で当たるはずの称号が、
試作品初プレイヤー(強制的)であるあたしに一発で当たったって、そうゆうこと!?」
「じゃな、どうじゃ!嬢ちゃんも驚いたじゃろ!?」

何故だかはしゃいだみたいな声でお爺さんは答えた。

「驚いたよ・・・・メチャクチャ・・・・!で、それってただレアな称号ってだけなの?」
「フォフォフォ、それだけじゃないぞぃ。元々この称号は修羅までやり込んだプレイヤー向けじゃからの。
まずは4度目からの戦の難易度が必ず『難しい』か『修羅』のどちらかの設定になる。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい!?」

かなり長めの間を置いて、あたしは爺さんに聞き返した。
今までの3度の戦の難易度がどの位のものだったのかなんか知らない。
だけど、あの様子だと多分『易しい』か『普通』位なんじゃないかと思う。
ゲームで実感したことだけど、『普通』から『難しい』は確実に違うし、
それが『修羅』ともなると一般兵が格段の強さを発揮してくる。
そのおかげでやり込みまくったあたしでも、途中で挫折した回数は結構なもんだ。
なのにこのジジイはこともあろうに、必ず『難しい』か『修羅』設定のどちらかになる、と言いやがった。
つまり、あたしのバーチャル臨死体験率上昇を宣言しやがったことになる。

「ちょっと爺さん・・・・あんたそんなにあたしを・・・・!!!!!!」
「あーーー言い難いんじゃがのぅ、・・・実はまだひとつあるんじゃ。」
「何よ!!!???」

噛み付きそうな勢いで鏡に向かって怒鳴るあたし。
爺さんはもごもごと続ける。


「『鬼姫』の称号に釣られて、・・・呂布が出とる戦では必ずアイツが嬢ちゃん目指して進軍してくるのじゃ・・・・。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


ドッ・・・・


手から鏡が床へ落ちた。
思考回路が停止寸前になり、目の前が一瞬真っ白になる。
それどころか心停止しそうだと言ってもいいかもしれない。


え?え?え??え???
待って、待って、待て待て待て待て!!!!
今何て・・・・、このクソジジイ・・・今何て・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!???
呂・・・・・・・・・・・・・!!??


「冗談じゃないわよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


怒鳴り声が叫び声に変わった瞬間だった。
喉がひりひりする位の声。
床に落ちた鏡を拾おうとも思えない。

呂布奉先。
無双シリーズは勿論、三国志の正史、演義でも最強と謳われた漢。
現実世界でやったゲームでさえアイツに一体何度ゲームオーバーに追い込まれたか覚えてもない。
他の武将の追随を許さないあの型破りの強さ。
確かに4では新キャラ左慈がその強さに並んでは居たけど、それでもやっぱりあの脅威と言ったら・・・。


バーチャル死体験決定じゃないの!!!!!
何が『鬼姫』!!??
姫じゃ、神には勝てる訳ないでしょうが!!!!!


「ああー、ま、落ち着くんじゃ、嬢ちゃん。幸い呂布が絡んでくる戦はまだまだ先の話じゃ。」

「・・・・そうだね、その前に修羅設定だったりしたら今度の黄巾の乱で張角にやられてお終いよね。
ああ、でもあたしは復活しちゃうんだっけ?じゃあかなり何度も臨死体験出来るわ、
貴重な体験用意してくれてマジで有り難う爺さん。」

顔の筋肉が引きつるのが自分でも分かる。
もうお先真っ暗な気分だ。
と、そこで爺さんが思い出した様に言った。

「おおおお!!!そうじゃ!!こんなこともあろうかと、わしは隠しアイテムを用意しておったんじゃ!!」
「何、それ?」

あたしは鏡を拾い上げると、特に期待せずにその先を聞くことにした。


「覚醒印がいつもの3倍の長さ、威力で持続するアイテムじゃ。」
「!!!本当に!!??」


予想しなかったナイス過ぎる情報。
あたしは思わず手鏡に顔を思い切り寄せて次の言葉を待った。

「但し、手に入るのは黄巾の乱以降じゃ。しかも条件がある。ま、これはそう難しいことじゃないんじゃがの。」
「分かった!!この際張角は自力で乗り切る!!だから早く教えて!!!!」

鏡の柄が折れそうな位強く握って、あたしは言った。

「アイテムと言ってもそれは書物なんじゃ、じゃから書物庫に眠っておる。
黄巾の乱終了後に嬢ちゃんと1番親し・・・・・・・・・・・・


プッ・・・・・・・・・・・・・・


「・・・・・・・・・え?ええ!?ちょっと!?プッって切れて・・・・!?爺さん!?
ええええええええええ!!!!????」


爺さんの声は突然に途切れて、鏡は見る間に虹色の光を吸収し、元通りあたしの姿を映した。
慌てて赤いボタンを押しなおした訳だけど、勿論無反応。
結局回線は繋がらなかった。

この先どうなるかなんか、ギャグで、ノリで、
与えられた称号に臨死体験させられるハメになりそうな可哀想なあたしは知る由もない。


(称号の真実 -終わり-)


後書き
少し長ったらしくなった上に、題名変更。
まだ黄巾の乱には入れませんでした(苦笑)
次回は孫策のみ分岐で黄巾の乱ってことになる・・・かな。
3人の相手キャラで唯一策が黄巾の乱参戦してるから。
分かりませんけど・・・予告するといつも話が逸れるし(涙)
では、今回オリキャラオンリーで申し訳ありませんでした!
失礼致します!!!


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