呉軍の士気は今や最高潮に達し、孫権軍は勢いに乗って敵本陣へと進軍を速めていた。
燃え上がる赤い夕日、孫呉の赤。
だが夕日の見える時間とは余り長くはないものだ。
そしてその赤い空が着実に闇の黒へと変化し始めた丁度その頃、
伝令兵士が転がるように前方の坂から飛び出してきた。
「伝令!!!敵増援部隊が凌統殿の隊に接近中です!
徐晃軍団、張遼軍団との知らせが届いています!!!!!」
「!!!!!!!」
「何じゃとぉ!?徐晃に張遼!?」
「クッ!増援部隊が来るのが早すぎたな、皆の者!!急ぎ、敵本陣を叩く!!」
孫権がそう兵士達に大声で告げ、そしてに目を向けた。
「、お前は凌統の救援に向かってくれ!」
「孫権様・・・!ですが・・・・っ。」
はそこで言葉を切った。
彼女とて、今すぐにでも凌統の元へ駆けて行きたい気持ちは大きかった。
だが、総大将である孫権の周りを手薄にする訳にはいかない。
苦しげに眉をしかめる彼女の耳に、低く、そして静かな一言が届いた。
「俺が・・・・孫権様を守る・・・・。」
「周泰殿!」
彼女に声をかけた主は、孫権に絶大な信頼を寄せられている周泰その人だった。
馬上から彼女を見下ろす周泰が僅かに頷く。
尚も躊躇いを見せるに、孫権が大声で叫んだ。
「ここには黄蓋も居る、その上周泰も居れば怖いものなしだ!
、行け!!!時は一刻を争うぞ!!!!!」
「おう!そうじゃ!!!行って来い!!」
黄蓋は言って、自分の得物を大きく振りかざして前方を指し示した。
その先には馬を連れた兵の姿がある。
呉軍内では1,2を争う脚を持った馬だ。
彼女は3人に向かって無言で頭を下げ、そして馬に飛び乗った。
手綱を力強く握り、馬の腹を蹴る。
「!!すぐに程普と呂蒙が其方に追い付く!!それまで何としてでも持ち堪えよ!!」
彼女の小さくなった背中に孫権はそう叫び、そして自らも進軍の足を更に速めた。
お願い、間に合って!!
敵の増援部隊が凌統に追い付くまでに・・・・・・っ!!
風を切り、森を駆け抜けながら彼女は心から願った。
凌統と初めて出会ったあの日の戦、あの時も彼女はこうして彼を助けに馬を走らせた。
まともに会話すら交わしていない彼の為に。
だが今はあの時とは違う。
それが何かは自身まだ分からなかった。
やがて森を抜けたその先に、敵兵が何百何千と現れた。
彼女は構わず馬で敵兵を蹴散らし、
彼女を馬から落としにかかる兵たちを剣でさばく。
一刻も早く凌統の居る場所に辿りつく為には、こんな所で手間取っている訳にはいかないのだ。
の部隊の兵たちも必死で敵の猛攻を凌ぎ、彼女を追ってきていた。
「退きなさい!!!!!」
彼女は気迫と共に大声で叫び、進行を阻む兵たちをなぎ払う。
「張文遠ここにあり!!邪魔する者は斬る!!命惜しくば退けぃ!!」
「!!!!!!」
丁度彼女の前方にある敵拠点からそう声が上がり、
そしてその言葉通り張遼が彼女を目指して馬を走らせて来ていた。
張遼・・・・・っっ!!??
の心の臓が大きく跳ね上がった。
周りの敵兵の数も並みではない、その上現れたのはあの魏の武人として名高い張遼。
まさに最悪のタイミングだった。
着実に縮んでいく彼女と張遼の距離。
張遼は得物を突き出し既に戦いの構えを取っている。
・・・・・・・やるしかない・・・・・・・・・・!!!!!
彼女は心を決めた。
馬から横っ飛びに降り、張遼の武器が彼女を捕らえる1歩手前でかわす。
張遼の馬が嘶き声を上げて両の前足を上げ、脚を止めた。
「張遼殿!!お相手願います!!!」
「女性とて容赦せん!!覚悟!!」
ガキィッ・・・・ン・・ッッ
ガッ・・キン・・・
ゴッ・・・ギンッ・・・・・・
重なり合う得物同士の重み、威力、鋭さ。
そのどれを取ってみても今まで彼女が対峙して来た相手とは比べ物にならない。
一太刀一太刀を必死の思いでかわす。
「ハァーーーッ!!!!!」
「!!??」
ドゴォォ・・・・
は受けた武器の重みに唇を噛み締め、そのままの体勢で半ば吹き飛ばされるように後ろへ下がる。
彼女の息は既に上がっていた。
身体には無数の傷が出来上がり、血が滲んで流れ出ている。
致命傷は負っていないが、それでもかすり傷とは言い難かった。
「女性でありながらその武、見事!此方も全力でお相手致そう!!」
「それはどうも・・・、光栄です!!」
再び両刀の構えを取り直し、が答える。
凌統・・・・・・・、待っていて・・・!!
私は・・・私は負けない・・・!!!!!!!
ますます鋭さを増した張遼の攻撃、
それをかわしつつ彼女も攻撃の手を休めることはなかった。
ビュッ・・・・・・
「っ・・・・!!!!!」
空を斬る張遼の武器の風の音が鋭く響いた。
刹那、彼女の脇腹に熱く燃え上がるような痛みが走り、鮮血が飛び散る。
・・・・・・・・・凌統!!!!!!!!!
は心の内でそう叫び声を上げた。
まるでスローモーションの様に、自分の腹から飛び散る鮮血の雫一粒一粒までがよく見える。
彼女はよろけ、腹を片手で押さえ、そのまま2、3歩後退りした。
視界の隅に張遼の得物が容赦なく振り上げられるのが見える。
避ける事さえ出来ない程の傷の深さ。
足元が崩れていく中、彼女は昨日の凌統の言葉を思い出していた。
『、俺はあんたが気に入ってる・・・。
いや、この際ハッキリ言うが、俺はあんたに惚れてんだ。』
凌統・・・・・・・・凌統・・・・・・
私はまだ・・・・・・・・あんたに何も言ってない・・・・・・・
何も伝えてはいないのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・
皮肉だった。
死に直面して初めて気付く自分の気持ち、想い。
「りょ・・・う・・と・・・・・・っ!」
ギンッ・・・・!!!!!
に襲いかかるはずだった刃が、紙一重、彼らの間に割って入った者によって受け止められる。
張遼が虚をつかれた様に半歩、後ろへさがった。
「よぉ、張遼さんよ。あんた女を見る目はあるみたいだな。
・・・・・・・・・・だが・・・・・・・ちょっとばっかしやり過ぎだ!!!!!」
勢いよくヌンチャクを振りかざし、張遼を睨みつける凌統。
彼の瞳は怒りに燃えていた。
彼の後ろで倒れているは既に気を失っている。
「・・・貴公、徐晃殿を退けたか!?・・・・ならば今度はこの張文遠がお相手致す!!」
「うるせぇ!!!!!!ちぇりゃあぁぁぁー!!!!!!!!!!!」
戯言口にしてる暇なんかこっちにゃないっつの!!!!!
の横腹から流れ出た血が、土を濡らしている。
彼女の顔色は青白く生気がない。
同じだ、と凌統は思った。
父が死んだあの時と。
ふざけるなっっ!!!!!
あんな思いは・・・・・・・・もう金輪際御免なんだよ!!!!!!!!!!!
やがて空が闇で完全に包まれた丁度その頃、戦の決着は着いた。
殆ど痛み分けに近い状態ではあったが呉軍は勝利したのだ。
その後駆けつけた程普の兵が傷つき気を失ったと、同じくぼろぼろの身体の凌統を見つけ、
彼らを本陣へ連れ帰った。
それは星のやけに少ない夜の事だった。
(凌統編 死線-終-)
後書き
あれ?・・・・・私としましては、
連載チックな短編と言う感じで書いてるつもりだったんですが、
今回も普通に続いてしまいました。
しかもまたしても凌統の出番が少ないし(苦笑)
張遼の方が多かった様な・・・。張遼も好きだからいいけど(笑)
でわ、今回も続いてしまいますがそれでも読んでくださると言う有り難いお客様、
心から感謝いたします!!失礼します!
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