空には暗雲が立ち込め、今にも雨が降り出しそうな状態だった。
その為か朝だというのにえらく薄暗い。
そんな中、呉軍の兵士達は着々と陣を張る準備を行っていた。

「でわ、、昨日話した通り、お前は甘寧と共に東門から攻めあがってくれ!」
「はい、呂蒙殿!」
「任しとけ!呂蒙のおっさん。この俺が居るんだ、この喧嘩、勝ったも同然よ!」

言った甘寧が拳を高々と掲げて見せる。
呂蒙がそれを見て大きな笑い声を上げた。

「ったく、口だけはいつもデカイねぇ、甘寧は。」

突然欠伸まじりにそう言って現れたのは、今は亡き凌操の息子、凌統だった。

「るせぇ!オメェこそ遅れて来といてでかい口叩くんじゃねぇよ!」

甘寧はそう言って今姿を現したばかりの凌統を睨みつけた。
だが、彼が心から怒っている訳でない事には気付いていた。
かすかだが甘寧の口の端が軽く上がっているからだ。
それは彼が親しいものに憎まれ口を放つ時の昔からの癖だった。


・・・この人、まだ紹介されてないけど誰・・・?
この様子だと甘寧とは仲がいいみたいだけど・・・。


「あの・・・・。」

「呂蒙様!!!敵が動き出したとの伝令が参りました!!程なくここに到着する模様です!!!」


が凌統の事について口を開こうとしたのとほぼ同時に、
1人の兵士が馬で駆けて呂蒙に大声でそう伝えた。
その瞬間にその場に緊張が走る。
瞬時にして甘寧と凌統の表情が変わる。


「何ぃ!?クッ予定より早いが仕方ない、凌統!お前も早く持ち場に戻れ!!急げ!!」
「はいはいっと・・・。」


凌統はそう返事をすると、傍に繋いでいた馬に飛び乗った。
馬がヒヒンと小さく嘶き、両の前足を上げる。

「さぁて、そんじゃあ行きますか。甘寧、ヘマるなよ!」
「ハッ!!オメェもな!!!!!」

ニヤリ。
口元を緩めた凌統は、そのまま凄い勢いで馬を走らせ自分の持ち場へと駆けて行った。

「全軍陸遜の指揮に従え!!!甘寧、!!行くぞ!!!」
「はい!!!」
「おうよ!!!鈴の甘寧の恐ろしさ、見せてやるぜ!!」

こうして、が呉軍の一員としての初めての戦が始まったのだった。





激しい攻防が行われた後、呉軍勝利目前と思われたその時だった。
1人の伝令兵士が甘寧達の傍まで来て叫んだ。

「大変です!!伏兵部隊が現れて、凌統殿の部隊が・・崩壊寸前・・っ・・・!」
「!!??」

その言葉を聞いた途端、甘寧の表情がさっと変わる。

「んだと!?チキショウ!!俺が行って・・・「「「「「伏兵だぁぁ!!!!!!!!」」」」

甘寧の台詞を遮るようにして、兵士の数人が大声で叫んだ。
と甘寧は同時に声のした方へ振り向く。
そしてその言葉通り、どこからかわいて出たような兵士達が此方へ向かって来ている様だった。

「チッ・・・・!!!ここは空けられねぇぜ!!!!
チクショウ・・・このままじゃ凌統の奴が・・・・・・!!!」

やり場の無い思いに甘寧が顔をしかめて剣を握る手に力を込めた。
はつい先ほど倒した敵の副将が乗っていた馬に飛び乗って叫ぶ。

「甘寧、私が行く!!!」
「!?おい、!!??」
「あんたの大切な友達を死なせる訳には行かないでしょう!?
あんたはここを離れられない、だったら私が行くわ!」
「・・・よっしゃあ!!!頼んだぜ!!!!!!」

は返事の代わりに大きく頷き、そしてすぐに馬を走らせた。
この馬が赤兎馬であれば、と、は心から思った。



彼女がその場へ辿り着いた時、そこで戦っている呉軍の兵は数える程しか居なかった。
馬で進む事が困難なほどの敵兵の数。
彼女は馬から降りると向かってくる敵兵を二刀の剣で鮮やかにさばきながら、凌統の姿を捜した。

「!!」

明らかに1人の人間を取り囲むようにして立っている敵兵。
彼女はその一団に向かって迷いなく突き進んだ。

「やんなるね、またお前に助けられんのかよ、俺は。」

彼女の剣によって吹き飛ばされた敵兵を見て、凌統が溜息混じりに呟いた。
が、の姿を見て少し表情を変える。

「・・・ふぅん、てっきり甘寧かと思ったけど、どうやら俺の勘違いってヤツですか。」

いつものように緊張感のない声でそう呟き、
愛用のヌンチャクで敵兵を数十人程弾き返す。

「凌統!!私は、甘寧の代わりにあんたを助けに来た者よ!宜しく!!」
「こんな所で『初めまして』か、威勢のいいお嬢さんだねぇ。」

思わず笑いさえ漏らしてしまいそうになりながら、
凌統とは背中合わせのまま敵兵をなぎ倒す。
いつもなら凌統の背中を護るのは甘寧、そして甘寧の背中を護るのは凌統だった。

「さぁて、ま、とりあえず援軍が来てくれたってことで、さっさとかたを付けてやりますか。」
「賛成、先ずはあの拠点を潰すって言うのはどう?」
「仰せのままに。じゃ、行こうか。」

不思議な事に、凌統は初めて共に戦う彼女に親近感のような物を感じていた。
この戦場の中でお互いの背中を預けると言う事は、並大抵の信頼関係では無理だ。
だが、凌統は驚く程自然に彼女を甘寧相手と同じくらい信頼する事が出来ていた。

・・・変な女・・・。

そう思いながらも、彼は彼女の戦いぶりに目を奪われている自分が居る事を認めざる得なかった。
まるで舞うように2刀の剣を振るう
時折その美しい足で繰り広げる蹴りの威力も並みではない。
そしてその太腿に彫られた蝶が生きているように舞っている。

・・・・・・・ただの女じゃなさそうだ・・・。

視界の端で彼女を捕らえた彼は心の内で思った。


やがて雨が降り出した頃、呉軍の勝利は確定した。
は伝令に凌統が無事だった事を甘寧に伝えて欲しいと頼んだ。
冷たい雨が2人の疲れた身体を濡らしていく。

「これから味方の陣まで戻らなきゃいけないのね・・・。」

が少しうんざりしたように言った。
だが、つい先ほどまで隣に居たはずの凌統の姿が見当たらない。

「・・・凌統?」

彼女が彼の名を呼んだその時、彼女の身体にパサリと何かがかけられた。
それは何か大きな布のようなものだった。
どうやら彼女が濡れないように凌統がどこからか持ってきたらしい。

「ま、こんなもんでもないよりゃマシってね。」
「・・・・凌統、有り難う。でも・・・これは何なの?」
「敵さんとこの旗が丁度いい場所に置いてあったんで拝借したって訳だ。」

彼はそう気の無い返事をして歩き出した。
は思わず彼の顔を見て呟く。

「・・・・・・・変な男ね・・・・・・。」

それを聞いて凌統は足を止めて苦笑した。



それは彼が、つい先ほど彼女に感じたばかりの感想だったからだ。




(凌統編 出会い-終-)




後書き
どうにかこうにか2話目(?)書き上がりました。
凌統はあのやる気無さ過ぎなけだるさが良いですね。
でもこの話、序盤甘寧の方が登場率高かったような気がします。

頑張って2人の性格掴もうと右往左往している所ですので、
偽物臭くて本当にすみません。
それでもこの未熟な作品をここまで読んでくださったお客様には大変感謝致します。
宜しければご感想お願いします。でわ、失礼致します。



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