『ねぇ甘寧、私の手、どう見える?』
「おい、オメェ今日はもういい加減にやめとけ。」
その日の深夜、1人庭園を眺めながら杯を傾けていたに、甘寧はそう声をかけた。
彼女の手元には空になった2合瓶が4,5本転がっている。
彼女らしくない飲み方だと甘寧は思った。
はもともと酒に弱い方ではないが、それでも1人で飲む程酒好きな訳ではない。
飲む量もある程度で抑えるのが彼女のやり方だった。
だが今日はまだやめる気はなさそうに見えた。
「・・・甘寧・・・何?いいでしょう、別に。暴れてる訳でもないんだから・・・。」
彼女は少しだけ眉間にしわをを寄せて顔を上げ、甘寧に言った。
そして空になった杯に再び酒を注ごうとする。
甘寧は素早くその杯に手で蓋をした。
「・・・何よ?」
「止めとけってんだろうが!飲みすぎなんだよ、オメェは!」
「・・・放っておいて・・・。」
言って、彼女は甘寧を睨みつける。
あれだけ飲んでおきながら、酔っている様子はない。
甘寧は彼女の瞳を真っ直ぐに受け止め、そして口を開く。
「・・・何があった?今日の戦でよ。」
「・・・・!!」
甘寧の言葉に、の瞳に動揺が走る。
の手が小刻みに震え出したのが、杯に蓋をしたままの彼の手にも伝わってきた。
「おい、何があったってんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・甘寧・・・・・。」
杯をゆっくり手から放し、は自分の震え出した手をもう片方の手で押さえつけた。
その隙に甘寧は杯と酒を彼女の手元から避けるように奥のほうへ移動する。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・玲禅に・・・・・・会ったわ・・・・・。」
が聞き取るのも困難な程微かな声で言った。
その顔に表情はない。
だが、瞳の色は驚くほど沈んでいた。
「んだぁ!?玲禅にだと!?」
玲禅とは甘寧が頭を務めていた錦帆賊の仲間の1人だ。
甘寧達との年齢差は一回り以上もあったが、少年のような彼とは2人共仲が良かった。
甘寧が賊から足を洗うと決めた時、彼も国へ戻って行った。
その彼と再会したと彼女は言う。
甘寧はそこで彼女が何を言いたいのか大体を察した。
は今日の戦で玲禅と再会したのだ、恐らく敵側に彼は居たのだろう。
「・・・・まさか・・・あんな所で出会ってしまうなんて・・・。」
「・・・。」
の瞳のかげりがより一層強くなる。
彼女の脳裏に今日の戦場での出来事が蘇って来た。
いつもの様に敵陣のど真ん中を駆け抜けていた彼女の背中に切り込んできた1人の敵の副将。
この時はお互い相手が誰なのか確認などしてはいなかった。
振り向きざま、彼女がその将の得物である重い金棒を受け止めた、
そこでやっと2人は顔を合わせたのだった。
『!?本当にお前なのか!?』
『玲禅!?』
まるで弾かれたように2人は後ろへ飛び、後ずさった。
両者は共に、信じられないものを見るようにお互いを見つめる。
ここは戦場。
呉軍の人間ならば、の味方ならば赤色の武具を身に付けているはず。
だが彼は・・・・・。
『どうした玲禅!?早くそいつを仕留めろ!!!!!』
遠く離れた所にいる彼の部隊の敵将が叫んだ。
玲禅が一瞬、硬直する。
だがすぐに気を取り直したように自分の武器をゆっくり構えた。
『玲禅・・・・っ!』
『、甘寧の頭の口癖・・・、覚えてるか?』
『・・・・えっ!?』
『敵は斬る、味方は守る。』
『・・・・・・・・・・・・・。』
彼はそこで言葉を切り、そして哀しく口を歪めて笑った。
『つまりそう言うことだ、お前も躊躇うな。これは戦だ、。』
『玲禅・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。』
は少しの間目を閉じ、そして両刀を握る手に力を込める。
指が真っ白になるほどに強く得物を握った。
そして構えの姿勢を整え、玲禅を真っ直ぐ見据える。
彼は何も言わずただ頷いた。
キンッ・・・
ガッ・・・
ドゴォ・・・・・・・ッッ
カキィンドッ
お互いに言葉を発することなく、2人は戦いを始めた。
何度も何度もぶつかり合い、そしてまた斬り込む。
ズゴォォォ・・・
砂埃とすさまじい轟音、やがて決着は着き、立って居たのは勝者であるのみになっていた。
彼女の2刀の剣を真っ赤な血が濡らしている。
は急いで玲禅の元へ駆け寄った。
だが、彼はもう虫の息。
目を開けていることさえ困難な様子だった。
『玲禅!!!!!!!!!』
『・・・・やっぱ・・・り・・強いな・・・・・。』
『・・・・・・・・・・・・・・っ』
『いいんだ・・・これが・・・戦ってもんだろう・・・。』
彼が口を開く間も赤黒い血がその唇から、その傷口から流れ出ている。
は身体を震わせながら、彼女自身が彼に負わせたその傷口を見つめた。
玲禅の背中を抱く彼女の両手にもべっとりと血が付いている。
『玲・・・ぜ・・・・っ!!』
『ああ・・・頭に・・・・もう1回会いたかったな・・・・。・・・伝えてくれ・・・俺は・・・・。』
『玲禅!!??何!!??』
荒い息の中、途切れ途切れに言葉を発する玲禅の最期の言葉。
彼女はそれを聞き取るため、必死で彼の口元に耳を寄せた。
そして彼は最期の言葉を遺すと、安心した様にがくりとそのまま動かなくなった。
『玲禅!!玲禅!!!!!!!!いやああぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!』
「おい、!!おい!」
「・・・・甘寧・・・・・・。」
突然黙り込んだ彼女を心配し、甘寧が彼女の肩を揺らしていた。
の頬には涙が伝っている。
震えはまだ止まっていなかった。
「甘寧・・・玲禅が・・・あんたに伝えて欲しいって・・・最期に・・・。」
「!?」
「『頭の下で共に在れた日を誇りに思う。』と・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
そこで彼女は両手で顔を覆った。
「私が・・・私が殺したの!!!私がこの手で!!!!!!」
「・・・落ち着け・・・オメェのせいじゃねぇ。アイツも分かってたはずだ。」
「仲間だったのに・・・大切な・・・大切な仲間だったのに・・・・。」
溢れ出す涙は顔を覆う彼女の手も濡らしていく。
彼女は震える手を顔から放し、それをじっと見つめた。
今は涙で濡れているこの両手も、数時間前には玲禅の鮮血で染まっていた。
甘寧は彼女が何を思っているのかを悟り、彼女の手を自分の両手で握り締めた。
そうしているだけで彼女の心の慟哭が聞こえてくるように甘寧は思えた。
「眠っちまえ、。今日はもう何も考えんじゃねぇ。」
「甘寧・・・・・。」
半分放心状態に近い表情では彼の名を呼んだ。
甘寧は頷き、彼女の肩を抱くようにして立ち上がらせる。
が既に今のこの記憶を無くしてしまうほど酔っているのを甘寧は承知していた。
それ程彼女は深く悲しみ、そして傷ついている。
全く酔いを感じていないように見えるだが、
実はほぼ泥酔に近い状態だったのだ。
甘寧は立ち上がらせた彼女を自分の肩に寄りかからせ、そのまま抱きかかえた。
シラフであるなら必ず抵抗するはずの彼女も、今は素直に彼に身を任せている。
「ねぇ・・・甘寧・・・・。」
「あん?」
「私の手、どう見える?」
は彼に抱きかかえられて部屋に連れられて行く途中、そう甘寧に訊いた。
「安心しろ、オメェの手は汚れちゃいねぇ。」
甘寧は静かに、だがやけにハッキリとそう答えた。
その言葉には暫くの間自分の手をじっと見つめ、やがて口を開いた。
「うそつきね・・・・・・・・・・・・・・・・。」
(甘寧編 -慟哭- 続く)
後書き
ありがちっぽい話になってしまった気が・・・。
無双4やってたら大量に一般兵が発生しますよね?
それを斬りまくってたら出来たお話です。
それはさておき、無双夢始めてまだ間もないんですが沢山の拍手を頂き、
とてもとても感謝しています。
ほとんど勢いで始めてしかも取り扱っているキャラはたったの2人、
それでもお客様から励ましのお言葉を頂けて、もう私この上なく幸せ者!!
でわ、今回もそんな皆様に心から感謝しつつこれにて失礼します!
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