「よぉ甘寧、1人でやけ酒かい?
けど、あれじゃあ何度やっても勝負にならないぜ、そろそろもっと腕をあげちゃくれませんかね?」

いけしゃあしゃあとそう俺に抜かしてきやがったのは、確認するまでもねぇ凌統だ。
俺は思わず舌打ちをし、顔を上げた。

「ケッ!るせぇ!ったくテメェは嫌がらせかってんだよ、毎回毎回。」
「俺は頭を使わない誰かさんの為に、
脳みそ使う機会を与えてやってるだけなんでね。感謝して欲しい位だ。」
「ざけんじゃねぇぞ!なぁにが『感謝』だ!」

手元の酒を一気にあおり、俺は凌統の奴に眼をくれてやりながら言った。
しかもこの野郎、ご丁寧に何勝何敗だとか何だとか一戦一戦記録してやがる。
いやらしいったらねぇ。


ったく、俺に言わせりゃあんなもん男の勝負から程遠いってんだぜ。


杯に手酌で酒を満たしながら、
俺はふと姫さん達と話しをしているに目を向けた。

「おぅ、ところでオメェら・・・明日発つんだって?」
「・・・・ん?ああ、まぁな。やっと孫権様からお許しが出たんでね。」
「・・・クソ親父の墓参り・・・・か・・・・・・・・・・・・。」

無意識に空いている片手が腰の鈴に触れる。
クソ親父の遺品の鈴に。

「・・・俺は行けねぇが・・・ま、宜しく頼むぜ!」
「はいはい、脳みその足りない息子が宜しく言ってましたって、
ちゃーんと言っとくさ。」
「凌統!!テメェ!」

目の前の俺の反応を楽しむように笑いながら奴が立ち上がった。


いつもいつも、口の減らねぇ男だぜ。


「言っとくがな、宜しく頼むってのは、親父のことだけじゃねぇからな。」

手をひらつかせて俺に背を向けて立ち去ろうとするアイツに、
俺は杯を片手に呟いた。
奴が振り返りもせずに答える。

「分かってるよ、妹を宜しく頼むってんだろ?」
「・・・・・・・・・・・おぅ、・・・・・ケッ分かってんだったら最初ッからそう言えってんだ。」
「誰かさんと違って照れ屋ですからね、俺は。」
「へいへい、もう行っちまえ。」

俺はそう言って奴を手で追っ払うようにし、また酒を喉に流しこんだ。
やけに純度の高い酒だってのに、
一向に酔いが回ってくる気配がねぇってのはいくら俺でも珍しい。
柄にもなく妙な感傷に浸っちまっているからだろうか。


・・・・・クソ親父・・・凌統は結構な食わせ者だぜ?
ま、の奴が選ぶ位の男だ・・・心配はいらねぇけどよ・・・・・・・・・・。


空になった杯に、俺はまた無意識に酒を注ぐ。
『妹』・・・の事を純粋にそう思って居たのはいつまでだったのか、今はもう覚えちゃいねぇ。
賊軍生活の中でも、気付いた時にはアイツが俺の中でそれ以上になっちまってたのは確かだ。
いつからかアイツが俺を同じように想って居ることを知った。
滾る胸ん中の想いをただ単純にに告げられればどんなに楽だったかと、
アイツを見る度に俺は考えていた。
兄貴なんかじゃなく、男として接する事が出来りゃどんだけ楽だったか。
けど、それが俺に出来るはずもねぇ。
所詮気持ちを伝えた所で、俺の行く道に、
俺の求める『喧嘩の道』にアイツを巻き込んじまう事は目に見えていた。
それも、あのが酔い潰れてそれを俺に話すまで知らなかったってんだから、
情けねぇにも程がある。

何度注いだか知れねぇ内に、酒が底をついちまったらしい。
傾けた酒瓶からは2、3滴の雫が落ちただけだった。

「チッ・・・終わりかよ。」

思わず顔をしかめて俺は言った。
今の気分じゃ例え酒を後2,3本飲んだところで酔えやしねぇだろう。
分かっちゃいるが、どうにもえらく喉が渇いて仕方がねぇ。

「甘寧、珍しいわね、あんたが1人で飲んでるなんて。」
「・・・・・・・あ?」

顔なんざ上げなくてもアイツだとすぐに分かった。
近付くに連れてやけに俺の鼻をくすぐるあの懐かしい甘い香り。

じゃねぇか、まだ居やがったのかよ。凌統の奴と部屋に戻っちまったかと思ったぜ。」
「フフ・・・そのつもりだったんだけど、あんたがあんまり哀愁漂わせてるから。」

は俺の座っている卓の上に軽く腰掛けて足を組んだ。
その途端に俺の目が自然とアイツの太腿の刺青の蝶へ向く。
賊抜けしたあの夜に見た蝶は、今も俺の目に鮮明に焼きついていた。
最も、俺が覚えてんのはコイツの背中にある方の蝶の印象が強ぇ。
まるで自身の背中に羽が生えちまった様に彫られていたあの見事な蝶の刺青は、
間違いなく今もコイツの身体に画かれているに違いねぇが、
それを拝める人間は今はもう凌統の奴だけだろう。

「?甘寧?何よ?本当にどうしたの?まさか酔ってる?」
「けっ、ざけんじゃねぇ。逆だよ、逆、酔っ払えねぇから困ってんだよ!」
「フッ・・・・・何よ、それは?」

昔に比べて更に色気を倍増させたその唇を緩めて、アイツは笑った。
、オメェは知らねぇだろう、その唇を見る度に、オメェの香りを感じる度に、
この俺が賊抜けで別れた最後の夜のオメェを思い出してることなんざ。


・・・ま、それでいいんだけどよ・・・・・・・・。


「・・・・・、・・・クソ親父にこの酒持って行け・・・。」

俺は卓の隅に避けて置いておいた未開の酒をの奴に押し付けてやった。
今の今まで俺が飲んでいたもんと同じで、純度のクソ高い酒だ。
若い頃の親父ならまだしも、
俺と別れたあの時の親父は飲んだ瞬間イッちまう代物だってこた十分分かっちゃいる。
それでもあのクソ親父なら俺への意地で一気飲みぐれぇはするだろう。
俺はがケチをつける前に、ニヤリとわざとらしく笑って見せた。

「・・・・・・・・・有り難う甘寧、遠慮なく父の墓碑に供えるから。」

苦笑して受取るアイツに、俺は笑ったまんまの顔で言ってやる。

「馬鹿野郎、供えてどうすんだよ?ぶっかけっちまえ、じゃねぇと飲んだ内にゃ入らねぇぞ!」
「・・・・・・・・・父もいい息子を持ったわね?甘寧?」
「ケッ言ってろ。」

は酒を手に立ち上がり、目線を奥の扉の方へ移した。
つられて俺も目を向けた。
視線の先に居やがったのは凌統だった。
の奴が来るのが遅いんでわざわざ迎えに来たってとこか。

「・・・行けよ、。ここでオメェがグズついて、後で嫌味言われるのは俺だぜ。」
「いつグズついたって?まぁいいわ。お酒、有り難う、甘寧。」
「おぅ、クソ親父に宜しくな!」
「了解。」

俺に背中を向けてはそのまんま、真っ直ぐ凌統の野郎の所へ向かった。
が歩く度に耳に聞き慣れた鈴の音が聞こえる。
その鈴の音に合わせる様にアイツの太腿から覗く蝶が、ひらひらと俺の傍を離れた。


・・・・・・鈴・・・・・・・・・か・・・・・・。


アイツが背中を向けちまってる状態でも、
どんな顔で凌統の側へ向かったのかなんざ想像するのも馬鹿らしいほど目に浮かぶ。
好きな男以外には見せない極上の笑みってヤツだ。
それを下手に知っちまっているからか、胸の奥がモヤモヤと鬱陶しいぐれぇに騒ぐ、滾る。
アイツの幸せってのを願って自分から手放したくせしやがって、結局このザマだ。
が好きになったのが凌統だと知っちまった時、
何だかんだ言っても奴なら任せてもいいと本気で思った。
それは紛れもねぇ事実だ。
けど、今もこうして情けねぇ程グダグダと気持ちを引きずっちまってる大きな原因の1つに、
あの銀色の鈴の存在があった。
一体何年前に渡したかしれねぇその鈴を、アイツは今も大事に身に着けてくれている。
あいつにとってみりゃ、単に装飾品の一部なのかもしれねぇし、
そうでねぇにしろ『兄貴』からの貰いモンって事で手放さないだけって事かもしれねぇ。
それでも、俺はあの鈴を目にする度、胸の奥の何処かでホっとしちまっていた。
いい加減、女の腐ったのみてぇにこんな堂々巡りの考えを、頭に浮かべんのも疲れたってもんだが。


そろそろ・・・本気で吹っ切らねぇとなぁ?親父よ・・・・・・・。


心ん中でクソ親父に呟いて、部屋で飲みなおす為に俺は立ち上がった。
俺の動作で揺れた腰の鈴がムカつくぐれぇ沈んだ音で鳴りやがったんで、
俺は思わず親父の鈴を握り締めた。



ざけんじゃねぇ、俺を誰だと思ってやがんだ?鈴の甘興覇様だぜ?
失恋なんざ屁でもねぇぜ!!!!!!


鈴の音がムカついたのなんざ、えらく久し振りだった。


(秘めたる・・・凌統夢,番外編,甘寧編-続く-)


後書き
ややこしいな・・・あの表現↑
でもそれ以外何と書いていいやら分かりませんでした。
しかも甘寧視点かなり微妙・・・。
それはさて置き、大人な方々はお気付きかもしれませんが(笑)
甘寧編だろうと凌統編だろうとヒロインは昔甘寧が好きだったので、
甘寧と別れる最後の夜に彼と過したのは変わりありません。
それっきり会っていないので、凌統編ではそれが最初で最後になった訳です。
一応補足まで。
・・・・本編で甘寧編の完結してないのにこっちから手を出してしまいました。
では、今回もここまでのお付き合い、誠に有り難うございました!失礼致します。


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