「馬鹿めっ!女子の分際でこのわしに挑もうなど100年早いわっ!」
「ほっほっほ!馬鹿めっ!そう言うのを男尊女卑ってのよ。」
宵の内から始められた宴は、夜の帳が下りた後は更に、この上ない盛り上がりを見せていた。
そんな中、唐突に勃発した男女の口論。
奥州の独眼竜で名高い伊達政宗と現代から時空の歪みによってこの遠呂智の降臨した世界へと迷い込んだ娘、。
「大体最初から否定することないでしょう。
わたし、今日だったら島津の爺ちゃんともいい勝負出来る自信があるわよ?」
「馬鹿めっ!あの鬼島津の名まで出しおって、口から出任せもいい加減にしろ!」
「ほっほっほ!!口から出任せとはよく言って下さること!吠え面かかせて差し上げるわよ、絶対に!」
言いざま、は政宗に向けて人差し指をびしと突き出した。
そしてまた、口論に熱が加わる。
「政宗殿、殿、先程から何やら白熱しておられるが・・・いかがしましたか?」
そこへ見兼ねた様子で趙雲が彼らに声を掛けた。
二人の視線がほぼ同時に趙雲へと向けられ、更に彼らは共に口を開いた。
「趙雲!趙雲はわたしの味方よね?見下したりしないわよね?」
「趙雲!お前は器を見極める目を持っているとわしは信じておるぞ!」
半ば詰め寄られるような形になりながら、趙雲は少々戸惑った表情を見せる。
「・・・お二方、まずは事情を話して頂きたいのだが。」
そこで二人はようやくはたと動きを止めた。
が小さく咳払いをし、説明を始める。
「つまり、お酒の話なのよ。わたしの両親て母親が恐ろしい程のざるなんだけど父が極度の下戸なの。
どうやらわたし、その体質を丸々引き継いだらしくて、日によって一口お酒飲んだだけで潰れる時と、
どんなに飲んでも全く平気な時とあるんだけど、今日はざるな感じだから政宗なら降せるかも。
って話をしたんだけど・・・そしたら――――」
「馬鹿めっ!!女子に降されるほど墜ちてはおらぬわ!!」
「・・・と、こうよ。だったら試してみようって言ってんのにそれも駄目だって言うし。」
言い終えると、彼女は大げさに溜息を吐き、肩をすくめた。
そしてはチラリと趙雲に視線を向ける。
「趙雲は信じてくれるわよね?わたしの言ってること。」
「だが殿、政宗殿はかなりの酒豪だと聞き及んでいる、やはり女人が酒で挑むべきでは・・・。」
「よく言った、趙雲!その通りじゃ!、いい加減下らん意地を張るな!馬鹿め!」
彼女を穏やかに諭す如くそう口にした趙雲に対し、政宗は満足げに声を上げて言った。
は僅かに眉間にしわを刻み、政宗を睨みつける。
「趙雲はわたしのことを気遣って言ってくれてるからいいとして、
やっぱこのままじゃ引っ込みがつかないわ。
『馬鹿め!』って生で連呼されるとさすがにムカつくって充分分かったし。」
後半、彼女は半ば独り言のようにそう口にした。
そこへ折り良く彼らの側を島津義久が通りかかった。
は即座に彼の筋肉質な腕に手を伸ばし、引き止める。
「島津の爺ちゃん!グッドタイミング。」
「ん?か、どうした?」
「そっちの手に持ってるお酒、私にもくれない?」
言って、彼女が示した先。
島津の片手には、巨大な酒瓶が握られていた。
蓋がされてはいるものの、そこから漂ってくる香りは芳醇で、外形から見ても純度の高い酒だと推測できる。
「!貴様!」
「殿!」
政宗と趙雲は、即座に声を上げて彼女を咎めた。
しかし、はさして気にする様子も無く、状況を把握していない島津に説明を始める。
その後ことの経緯を理解した島津は、豪快な笑い声を上げた。
「はっはっは!可愛らしいだけの娘ではないと言うことか。
ならばまずは一杯飲んでみるがよかろうぞ。」
快く了承した彼に、趙雲が僅かに表情を曇らせる。
「島津殿、やはり女人にこの酒は強すぎるのでは・・・。」
「ふっ、だが、このまま引き下がる程度の話ならばわしにまで声をかけてはおらんだろう。
この酒は、酒飲みでのうては強すぎる酒だ。一口でも飲めばすぐに結果は出る。」
「島津の爺ちゃんは話が早くて助かるわ。」
弾むような声でそう言い、は何処からか杯を取り出した。
島津は再び笑みを零し、その杯に並々と酒を注ぐ。
濃厚で芳醇な酒の香りが周囲を包んだ。
「政宗、これで私が潰れなかったら、勝負、受けてもらうわよ?」
「フン、一発で撃沈するのが目に見えておるわ。」
「ほっほっほ!見てなさい。」
言いざま、は手にした杯をグイと一気に傾けた。
3人の視線が一斉に彼女へと注がれる。
彼女の白い喉がゴクゴクと音を立てて杯の酒を飲み干していく。
やがては空になった杯を、少々勢い良く床へ置いた。
「殿、気分が悪くなったのならばすぐに私が・・・。」
気遣わしげに彼女に声を掛けた趙雲だったが、そこですぐに言葉を切る。
の顔色。
先程までと全く変わらず、更に意地を張って無理をしている様子でもない。
彼女は唇を僅かに濡らした酒を自らの親指で軽くふき取った。
「確かにかなりのアルコール度数っぽいけど、これ凄く美味しい!」
「ほぉ、この酒の味が分かるか、お嬢!あの見事な飲みっぷりといい、大したものよ。」
島津は半ば感心した口調でそう言い、瞳を細めて小さく頷く。
は勝ち誇った様に唇で弧を描いた。
「ほっほっほ!見なさい、二人とも。さぁ、これで分かったでしょう。
今日の私はざるなの。伊達政宗、勝負しなさい。」
「ふんっ!酒1杯程度で浮かれおって!すぐに終らせてくれるわ!」
不機嫌極まりない表情での差し出す杯を受け取る政宗。
趙雲は既にこの勝負を阻止することを諦め、万一彼女が泥酔した場合に備えて、
ことの成り行きを終いまで見届けることにしたようだった。
かくてと政宗の飲み較べが始まった。
数刻後。
「さてさてこれはさすがに驚いた。」
「私の心配は無用だった様ですね。」
「だから言ったでしょう?ざるなの。今日は、ね。」
決着はつき、にこやかな表情を見せる。
勝者は彼女だった。
「くっ・・・この、まぐれ当たりがっ・・・!」
呻き声と共に、立ち上がる政宗の足元がぐらりとふらつく。
趙雲は素早く彼の体を支えた。
「政宗殿、私が室までお送りしよう。」
「ほっほっほっほ!ゆっくりお休みなさい、政宗様。」
趙雲に支えられ、その場を後にする政宗の背中に、揶揄する如く笑い声を上げる。
その笑い声は忌々しい程に彼の耳にこびり付く。
何より、政宗を降した相手が彼が密かに想いを募らせているだと言う事実が、
更に彼に屈辱感を与えていた。
(続く)
後書き
一応政宗が孫市に仲間に引き入れられた後の話って感じです。
微妙に辻褄が合ってない所が出てきそうですが(特に後半)スルー推奨(涙
宜しければ後半もお付き合い下さいませ
ブラウザバック推奨