「今日の宴はいつにも増して盛大じゃなぁ!綺麗どころも集まっとるし、役得役得!」
「確かにド派手な宴になりそうだ。ま、遠呂智から董卓へ送金される筈だったもんだし、
盛大に使ってやらないとね。」

上機嫌で宴の会場へ足を踏み入れた秀吉。
そしてそれに続き会場をぐるりと見渡した凌統が言った。
兵達の労いも兼ね、この日開かれることとなった宴。
その資金は、遠呂智から董卓へ送金される予定の金を、
信長率いる反乱軍が阻止し、奪った物だった。
金と権力に恐ろしい執着を持つ董卓。
彼らの関係はまさにその醜い欲と業の上に成り立っており、
それを繋ぎとめるために送られていた金は莫大な物だった。

「毎度おおきに、おかげでうちのお社も助かります。」
「これで黄天の同士を増やすことも叶おう!」

参戦した数名の武将の中には、その金を各々の目的に当てた者もあったが、
信長は特に取り沙汰そうとはしなかった。



「右に馬超、左に光秀。美形二人に挟まれるなんて、両手に花ってこう言うのを言うのね。」

信長の座する上座以外は、他の武将達も地位や階級等さして気にすることなく席を決めていた。
そしては自ら選んだその場所に、満足げに頷きつつそう口にしたのだった。

「フッ、殿、それは本来ならば我々の言葉だと思うのですが。」
「そうだな、今宵のお前は珍しく着飾って居るし、美しいぞ。花としては充分だ。」

柔らかな眼差しと共に言った光秀に、馬超が同意を示す。
は少々面映い様な表情を見せた。

「色男二人に面と向かってそう言われるとやっぱり照れるわね。
小喬と女官達に宴なんだからたまにはこう言う恰好もしてみろって、殆ど強制的に着替えさせられて。」
「はははっ!そうだったのか、だが似合っているぞ。」
「ええ、とても綺麗です。」

重ねて彼女に対してそう口にする二人に、は僅かに頬を染めた。
そしてその気恥ずかしさを隠す如く、杯を手にする。

「折角だから飲むわよ!今日はざるの日だから幾らでもイケるし、わたし。」


。」

そこで不意に名を呼ばれ、彼女は声のした方向へと視線を向けた。
彼女の視線の先。
腕組みをし、眉間に軽くしわを寄せた凌統の姿がある。
それに反応し、彼女の眉間にも僅かにしわが刻まれた。

「悪いね、光秀さんたち、ちょっとコイツ、借りて行きますよ。」

ゆっくりと彼らの元へ近づいてきた凌統が、いつもの気軽い口調で二人に声を掛ける。

「これは凌統殿。ええ、どうぞ。」
「ああ、いいぞ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

は一瞬物言いたげな表情を見せたが、口を出すことはなかった。
素直に立ち上がり、二人に軽く詫びの言葉を入れて凌統と共にその場を去る。


「・・・・それで?何の御用ですか?」

宴の会場から少々離れた廊下の片隅。
は先程までとは打って変わって不機嫌な様子で尋ねた。

「――随分と楽しそうな所をお邪魔しちまったみたいで悪かったねぇ、。」

彼はの問いには答えず、彼女と同様、険のある口調で言った。
彼女はそこで凌統から逸らしていた視線を彼へと移す。
そして暫しの間を空けた後、口元に僅かに笑みを浮かべた。

「もしかして妬いてる?」
「・・・そりゃあね、俺との約束を破ってさっさと他の男と席についてりゃ、
焼もちのひとつもやきたくなるってもんだろ。」

答えた凌統の声音は、何処か拗ねた子供のようだった。
くすくす。
が小さく笑う。
凌統に反して彼女の機嫌は徐々に回復していた。

「笑い事じゃないっつの。
あんたが戻ってくるのを突っ立って待ってた俺の気にもなってくれませんかね。」
「突っ立って?そうは見えなかったわよ、だってわたしが呼びに行こうとした時、
凌統は阿国さんと楽しげに話をしてたじゃないの。」

知らないとでも思った訳?
続けられた彼女の言葉は、されど棘のある台詞とは裏腹に、さほど口調は強くない。
凌統は小さな溜息と共に苦笑を漏らした。

「やれやれ・・・あんたの機嫌が悪かった理由、今分かったぜ。
今日だけじゃない、こないだの戦のことも絡んでる・・・そうだろ?」

言いざま、凌統の腕が彼女の腰へと伸びる。
は素直に彼に身を寄せた。

「ほっほっほ!遅いわよ、凌公積。」
「俺と阿国さんが本気で旅に出るとでも思ったのかい?」

ニヤリ。
楽しげに口角を上げる凌統。



――凌統様はお金集めてどないするんどす?

宴の資金元となった先日の戦の最中。
阿国が凌統へと投げかけた問い。
彼は軽い調子で彼女に返事をした。


――そうだなぁ・・・阿国さんと旅にでも行こうかな。


は偶然にもその会話内容を噂から耳にし、機嫌を損ねていたのである。
彼女はその彼の整った鼻を軽くピンっと指で弾いた。

「嬉しそうに言わない!」
「へぇ、やっぱりあんたも妬いてくれてたんだな。」

くくっ、と、彼は小さく喉を鳴らして笑った。
凌統の機嫌も先程までとは違い、上昇し始めていた。

「・・・妬くって言うか・・・、阿国さんも凌統も好きな現代プレイヤーとしては色々と複雑なのよ・・・。」

は俯くと、何やらぶつくさと小さな声で呟いている。
凌統はそれに構わず更に彼女を自らの胸の中に引き寄せた。

「凌統・・・?」
「お互いの誤解も解けたんだ。
、ここは今のあんたの色っぽい恰好を堪能させて貰いたいってね。」
「・・・待って、ここ、廊下よ。」
「大丈夫、宴に夢中でこんな所までは誰も来ないさ。」

返事と同時に彼はの首筋に唇を埋める。
ビクと小さく震えた彼女の体を、凌統は益々自らと密着させた。

「凌統・・・!ヤバイわよ、さすがに・・・!」

明らかに動揺を示し、彼の腕から逃れようと身を捩る
だが、凌統は全く動じている様子も無く、彼女は捕らえられたままだった。

「りょ・・・・・・・・・あ!」

再度、彼の名を呼ぶ為に口を開いた彼女が、そこで何かに気づいた如く、小さく声を上げる。
凌統は彼女の首筋に舌を滑らせ、を抱く腕の力を緩めることなく問い返した。

「何だい?」
「お、お、阿国さんがこっちに来る・・・!」

彼女の答えに、凌統は殊更大げさに溜息を吐いて見せた。

「よりによってその口実はないんじゃないですか?
冗談にしても・・・「冗談じゃないわよ・・・!」

は彼の台詞を遮るようにして言った。
相当に慌てた表情を見せている。
凌統は不承不承に身を放した。
だが、そこで今度は彼の表情が変わる。

「小喬殿・・・!あちゃー・・・あのお人は自分のこともそうだが、
人の色恋に関しても興味津々だからなぁ・・・。」
「右に阿国さん、左に小喬・・・!?どっちも今は厳しいわね・・・。」

二人が会話を交わしている間も、左右から彼女達が迫ってきている。
どうやら未だ、凌統達には気づいていないようだ。

「逃げるなら今しかないわ・・・、でもっ・・・あ!凌統あそこ・・・!」

左右の廊下は逃走経路としては使用できない。
は彼らの後方にある空き部屋に視線を移した。
凌統は彼女の手を取り、素早くその一室へと滑り込む。
その後、小喬と阿国が何事か会話を交わし、その場から去っていくまでの間、
彼らは一言も言葉を発さなかった。

「・・・行った・・・みたいね。」

ほぅ。
と、安堵した様子でが口を開く。

「ああ。」

凌統は短く答え、軽く頷いた。

「・・・咄嗟に見つけた部屋だけど、薄暗くてよく周りが見えない。
ねぇ、凌統はわたしの側に居る?」

彼らが足を踏み入れたその室内は、数本の蝋燭が点されたのみで、
装飾品や家具などは殆ど配置されて居ないようだった。
ゆらゆらと頼りなげにゆらめく蝋燭だけでは、互いの姿を認識することさえ難しい。

「俺はここですよ。」
「っ!」

耳元。
予想以上の至近距離からの凌統からの応答。
言葉と共に背後から抱き寄せられ、彼女は瞬間的に身を震わせた。

「ビックリした・・・。・・・って、凌統・・・ちょっと!?」

彼はの首筋に再び喰らいつき、彼女の衣服の襟元を手馴れた様子で肌蹴させた。
そうして、凌統は状況を把握し切れていないに構わず、そのままするりとそこへ掌を侵入させる。

「っ・・・!何でこう言うことに・・・!」
「ここなら誰にも邪魔されることはないし、
それに元々この室に入ろうと言ったのはあんただぜ、。」

熱を含んだ吐息と共に、彼が囁く如くして言った。
乱した襟元から滑り込んだ彼の冷たい掌が、のなめらかな肌を丹念に撫で回し始める。

「こんな薄暗い所だと分かってたら絶対入ってなかったのに・・・!」
「へぇ、それは『こうなる』ことが分かってたからかい?
俺の性格をよく理解してくれてるってことか、上等上等。」

ククッ。
と、再び喉を鳴らして凌統が笑う。
だが、その間も彼は行為を中断することは無かった。


―シュルリ


の帯紐が腰から抜かれ、床へと落ちる。
更に開かれた彼女の胸元から脇腹にかけてを、凌統の掌が曲線を辿る如く動いた。
徐々にの体温が上昇を始める。

「〜っ・・・!今日の宴・・・絶対いいお酒があった筈なのに・・・。」

半ば喉の奥から搾り出すように彼女が言った。
凌統が彼女の耳朶を甘やかに食む。

「だからだよ、ざるの日のあんたは色々な意味で油断ならない・・・。
いつまで経っても俺の所に戻ってきちゃくれなくなるだろ?
それに、の着飾った姿を堪能するのは俺だけで充分ってね。」

彼女のなだらかな双丘を弄びながら、彼は熱を含んだ口調で囁いた。
の両親は母親がかなりの酒豪であり、反して父親が下戸と言う家庭で、
彼女はそのどちらの血も継いだらしく、
日によって底の見えぬほどに酒を飲むことの出来る日と、
酒の匂いのみでさえ気分が優れなくなるほど酒を拒絶する日とがあるという極端な体質になっていた。
そして、今日。
彼女にとっては折りよく、盛大な宴の開かれると言うこの日に、
酒豪である母の血が目覚めていたのだった。

「・・・会場に返さないつもり・・・?」

乱れ始めた息と同時に、が彼へと問う。
凌統の指先が、彼女の胸の硬い蕾を捉えた。

「ァっ・・・!」

瞬時、甘さを含んだ声がの唇から漏れ出る。
凌統はねっとりと彼女の首筋に舌を這わせ、囁いた。


「この俺が、酒なんかよりもっとあんたを酔わせて差し上げますよ、殿。
宴の会場に戻りたいなんて、口に出来ない位にね・・・・。」



(終わり)



後書き
なにがどうしてコウナッタンダ!!トリップヒロインの意味がイマイチ不明で申し訳ありません。
そうして凌統、お前は私が書くとどうしてもどうしてもそうなるんだな、って感じで・・・(遠い目)
今まで何度ヒロインを襲って来たのか、三国の短編から考えても…。
こ、ここまでのお付き合い、誠に有り難うございました。失礼します。


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