「いやー・・・、マジですまねぇな、
お前のこないだの飲みっぷりがあんまり見事だったからよ、
今回も普通にイケるんじゃねぇかと思って無理させちまったぜ。」
「淵のせいだけじゃないから・・・。
今日は下戸の日だって分かってて飲んだのはわたしだし。」

盛大に宴が行われている会場内。
その片隅、人気の少ないその場所で、は横になり、夏侯淵を見上げていた。
元々は体格が良く、どちらかと言うと厳つい部類に入る彼だが、
項垂れて悄然とする姿は、平生より一回り近く小さく見えた。

「そんな落ち込まないでってば、少し大人しくしてれば大丈夫なんだから。
さっきも言ったけど、分かってて飲んだのはわたしだし、自己責任ってやつよ。」

「フン、その通りだ。こうなることを分かっていながら調子付いて酒を口にしたお前が悪い。」

ピシャリ。
言い放たれた一言。
だが、それは無論、夏侯淵の口から発せられた物ではなかった。

「お、三成のお出ましか!」
「三成・・・・。」
「夏侯淵殿、手間を掛けたな、後は俺が引き受けよう。」

石田三成。
一見女人とも見まごうばかりの端正な面立ち。
だが、その鋭く、冷めた瞳が他人を拒絶している様な冷たい印象を受ける。
しかし、彼を深く知る近しい者達は、その淡々とした表面に現れない三成の素顔をよく理解していた。

「何だかんだ言って心配して来たんだろ?へへっ、分かってるぜ!
ま、今回は俺が無理させちまったんだ。あんまり叱らないでやってくれよな。」
「・・・別に、俺は・・・。」
「はははっ!そんじゃ、ま、邪魔者は退散するぜ。、悪かったな!」

豪快な笑い声と共に再び宴の輪へと足を向ける夏侯淵。
三成は少々複雑な表情で彼の背中を見送っていた。

「三成・・・、よく気づいたわね。こんな広い宴会場で。」
「フン、夏侯淵殿がえらく大声を上げて騒いでいたからな。
、貴様は学習能力がないのか?酒が飲めぬならば大人しくしていればいいものを。」

言いながら、彼はゆっくりとの側へ腰を下ろす。
彼女は三成に視線を向けたまま答えた。

「こないだ黄蓋と一緒に飲んでたのを淵が見てたらしくて。
丁度あの日はざるの日だったからがっつり飲んだのよね。
で、今日も淵が飲めってすすめてくれたから・・・あの笑顔につられて、
下戸の日だって分かってたのに飲んじゃった訳・・・。」
「結局はこうなったと言うことか。結果的には己の責任だな。」

彼は再び冷めた口調で言ってのけた。
は僅かに俯き、小さな溜息を漏らす。

「そうね、反省してる・・・。」

彼女は素直に頷いた。
三成はその様子に怪訝な表情を見せる。
平生、素面の彼女ならば、恐らくこうまでしおらしい態度は取っていないだろう。
相手が三成ならばなお更だ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、お前余程酔っている様だな。」

少々長めの沈黙の後、彼はそう口にした。
実際のところ、彼女の頬は薄紅色に染まっており、首筋にも赤みが差している。
彼女が日によって上戸と呼べるほどに底なしに酒を受け入れる日と、
反して一口でさえ拒絶してしまうほどの下戸になる日とがあるという特異な体質だと言うことは、
以前に自身から聞いていた。
そして、先日黄蓋と共に酒を大量に飲んだと言う話も、三成は別の筋から聞き及んでいたのだった。

「そうね・・・、お酒の匂いもちょっと辛いわ・・・。」
「・・・ならば室に戻って早々に休め。・・・・室の前までは付き合ってやる。」

三成の言葉は淡々とした口調ながらも、何処かを気遣う優しさが滲み出ている。
彼女はジッと彼を見上げた後、微かに口元に笑みを浮かべた。
例えるなら悪戯を仕掛けようとしている子供にも似た笑みを。

「三成、お姫様だっこして連れてってくれる?」
「?何だ、そのふざけた名前の物は。」
「こう言うの。」

彼女はそう言い、両手で何かを抱き上げるような姿勢を取って見せた。
瞬時、三成の眉間に深いしわが刻まれる。

「こんな人目の多い場でそんな下らん真似が出来る筈が無いだろう。
大体、自力で立って歩けぬほど泥酔している訳でもあるまい。」
「ほっほっほ!まぁ・・・そうだけど。乙女の夢を実現するいいチャンスだと思ったのに。」

後半、彼女は半ば独り言のごとく呟いた。
彼には理解しかねる我侭を口にし、
芝居がかった笑い声を上げられる所だけは平時のと変わりない。
三成は少々呆れた様な表情で彼女を見つめる。

「立ち上がるのに手くらいは貸してやる。さっさと室で休んでおけ。」
「分かった・・・。」

素直に頷き、彼が差し出す手に自らの手を重ねる
平生と違いそれ以上の言葉を口にしない従順さは、三成に複雑な思いを抱かせた。



長い廊下を歩くの足取りは存外しっかりしている。
だが、不意にふらりと足の動きがおぼつかなくなることもないではなかった。
三成はその彼女の隣で無表情で歩を進めていたが、やがて深い溜息を吐いて足を止めた。

。」
「何?・・・ッ!?」

ふわ。
と、彼女の足元が唐突に空に浮き上がる。
は一瞬、自身が足を滑らせたのかと考えた。
だが、実際は三成によって抱き上げられていたのだった。

「え・・・?」
「周囲に人目はない。・・・下らん真似もしてやってもいいだろう。」
「三成・・・。」

は三成の横顔をジッと見つめ、くすくす、と、小さな笑い声をたてる。
彼の腕の中の少年体系と評される彼女の細い体は、予想以上に軽く、頼りなげなものだった。
酒の入った彼女の体温は熱く、三成の鼓動を否が応にも速める。
至近距離のからほのかに発せられている甘い香りは、瑞々しい果実、水蜜桃を連想させた。

「厄介な女だな・・・。」
「?何か言った?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

彼女の問いには答えず、三成はそのまま真っ直ぐにの室を目指して歩を進める。
この時彼の頬は僅かに赤く染まっていたのだが、彼女は全く気づいて居なかった。


――の自室。
扉の手前で彼女を下ろすつもりで居た三成だったが、自身がそれを許さなかった。
結果、彼はを寝台まで運ぶこととなっていた。

「・・・有り難う、三成。おかげで気分も悪くないわ。」
「フン、酔いのおかげで少しはしおらしくなったかと思っていたが、
男に寝台まで案内させているようではいつもと変わらぬな。」

冷めた口調で返した彼に、は再びあの悪戯を思いついた童女の様な表情を見せた。

「おやすみのキスをしてくれたら今日はもう解放してあげるわよ、三成チャン。」

無邪気を装う芝居がかった口調で彼女は言った。
三成の眉間に幾度目かのしわが刻まれる。
遠呂智降臨の混乱の中、遥か遠い未来から来たと言う彼女は、
しばしば彼らには不可解な言葉を用いた。
三成はこの時の彼女の言葉の意味を確実に理解し得ては居なかったが、
彼にとっては嬉しい話ではないらしいことだけは判っていた。

「下らん軽口を叩くな・・・。この俺が寝台まで運んでやったのだ、感謝するがいい。」

言い放ち、彼はの居る寝台に背を向ける。
刹那―――


ひら。

酔っている者の動きとは思えぬ素早さで、は寝台から彼の目の前へと移動した。
更に、驚きの余りに咄嗟に対応出来ずに居た彼を、そのまま寝台の上へと沈め、
は半ば馬乗りの様な形で彼を見下ろす。
三成が状況を把握した時には、彼は彼らしからぬ表情で呆然とを見上げていたのだった。

「なっ・・・!ふざけた真似をするな!!」

隙を突かれた行動だったと言えど、
女人に寝台に組み敷かれている姿は男としては余りに不名誉な事だ。
三成は声を荒げて身を起こしかけた。
だが。

「ふざけてないわ。」
「・・・・っ!?」

三成の肩口。
彼女はそこに顔を埋めるようにして言った。
僅か、震えて聞こえたの声。

「・・・、酔っているとは言え・・・許容範囲と言う物がある。」

先程よりも幾らか口調を和らげ、彼は返した。
鼻腔をくすぐる甘やかな水蜜桃の香りが、より一層彼の周囲を満たしている。
は三成の肩口に顔を埋めたまま、答えた。

「酔ってない・・・・・・・・・・・・・・・。ううん、酔ってるわ・・・・・、
酔ってるけど・・・自分が何をしてるのか位分かってるし、
それに・・・下戸の日でもざるの日でも記憶がぶっ飛ぶようなことになったこともない・・・。」
「・・・何が言いたい?」
「お酒の勢い借りるなんてどうかと思うけど・・・、どうしても知りたい・・・。」

彼女は先程までと違い、極めて真剣な声音で言った。
が言葉を発する度、三成の肩口が熱を上昇させていく。
頬に触れる彼女の柔らかな髪が、彼の胸元を掴む彼女の手が、
三成の思考をゆっくりと乱していた。


「三成が、わたしをどう思ってるのか。」


続けたが、肩口から顔を上げる。
そして、薄紅色の唇をやおら三成の唇へ近づけた。
だが、先に唇を重ねたのは彼の方だった。

「!」

は不意を突かれた様子で、ビクリと身を震わせる。
その様から、彼女には予想外の展開に違いなかった。
やがて口付けは深く濃いものへと変化し、組み敷かれていた筈の三成は、
を寝台へ沈め、形成は明らかに逆転していた。

「三・・・成・・・」
「この俺が、進んで酔っ払いに近づきたがる訳があるまい。
、どの様に広い会場内であろうとも、俺はお前を見つけることなど造作も無い・・・。
幾人の人間の中に居ようとも、俺はお前を見つけ出してやる。それが俺の答えだ。」

言い終えると、彼はの唇にやわらかな口付けを落とした。



(終わり)





********オマケ??**********
―――翌日。
「甄姫にお礼言わないと・・・。」
「・・・何?甄姫・・・だと?」
「ん〜・・・実は相談に乗って貰った事があったのよ、そしたら―――

『ああ言った殿方は先送りにばかりしていても絶対に進展は見られませんわ。
少々強引にことを進める程度で丁度良いのです。』


って言われたのよ。彼女年齢的にはわたしと2.3コしか違わないんだけど、
さすがに説得力あったわね。」
「・・・・・・・・まさかとは思うが、、この話・・・曹丕は知らぬだろうな?」
「え?・・・・・・普通に側に居たけど・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」



後書き
やっぱりOROCHI設定でなくてもいけた感が否めない夢に(苦笑)
てか最後のオマケ必要なかったかああああ!!(・・・・・・・。
淵ちゃんは私の趣味100%の登場です。いつの日か彼の夢も書いてみたい。
しかし三成は久々に書きすぎて偽者感が濃くて申し訳ないです。
ただでさえ難しいのに・・・ツンツンばっかりでデレ具合が書けなかった・・・!
曹丕VS三成とか書いてみたいけど、今の私じゃ無理だなあ(遠い目)
ではでは、今回はこれにて失礼します。


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