「甘寧や陸遜と逸れるなんて思わなかったわね・・・。」

はぁ。
深い溜息と共には窓際で頬杖をついて言った。
窓越しに見上げる空は濃紺色に美しく染まり、
見事な満月がその静かな光で地上を照らしている。
この世界に『電気』などと言う物は存在していなかったが、
今夜はそんな物は全く不要だと感じさせるに充分な月明かりの強さだった。

「・・・それはつまり俺だけじゃ、不満だと言う意味ですか?」

彼女と同じ室内で寝台の隅に腰掛けていた凌統が尋ねる。
は視線を空へと固定したまま答えた。

「そんなことないわよ。ただ、まぁ・・・あの二人のことだから心配は要らないとは思うけど、
どうしてるのかなって。それにやっぱり、何だかんだで頼りになったし。陸遜も甘寧も。」

そう口にし、彼女は再び、ひとつ、深く大きな溜息を吐いた。
凌統の眉間に僅かにしわが刻まれる。

「・・・・・・・・やれやれ、、あんたさ・・・。」
「でも信長様のとこに来れたのは結構ラッキーだったかもしれないわね。」

何事か口にしかけた凌統だったが、彼女は気づかぬまま、更に話しを続ける。
つい先程までとは違い、の表情は明るくなっていた。

「ラッキー・・・そう、運が良かったのよ。わたし、信長様も渋くて好きだし、
光秀と馬超が揃って廊下歩いてた時は写メ撮りたいって本気で思ったもんな。
美形ってそれだけで目の保養。それに阿国さんも生で見ると益々可愛いし・・・。」

は凌統には理解し難い彼女の世界での言葉を用い、半ば独り言のように語った。
そして彼女が一人、話を進めれば進めるほどに、彼は不機嫌に眉間のしわを深めていく。

「でも一番は・・・・」
。」
「え?」

耳元。
不意に囁かれた彼女の名。
凌統は彼女の知らぬ間にの背後に移動してきており、
そのまま彼女の体を抱きすくめた。

「凌統?」
「気づいてたかい?あんた、さっきから一度も俺の名を呼んでないんだぜ。
しかも・・・話題の中にも全く俺が出てきてないと来てる。」

何処か拗ねた子供の様な口調で彼が呟く。
は僅かに身を動かし、凌統を見上げた。


「でも一番はやっぱり凌統なんだけどね・・・って、言おうとしてた所なんだけど。」


彼女は唇で弧を描いて楽しげに言った。
刹那、と凌統との視線が絡み合う。

殿、もしかして、狙って話してたんですかねぇ。
そして俺はまんまとそれに乗っかったと・・・。」
「ほっほっほ!まっさか、わたし、凌統と違ってそんな捻くれた愛情表現しないわよ。」

芝居染みた笑い声と共にそう告げ、は彼と向き直ると、自ら凌統の体に腕を回す。
彼は苦笑を浮かべながら、更にを抱く手に力を込めた。

「そりゃあ悪かったですねぇ、俺は仰るとおり、根っから捻くれたガキなもんで、
分かりやすい愛情表現をめ一杯して頂かなきゃへそを曲げちまうんですよ。」
「分かりやすい・・・?」
「そう、分かり易い。」
「了解。」

答えたが、踵を上げる。
必然的に重なり、触れ合う互いの唇。
やわらかく、甘い。
幾度も唇を重ねては、離れ、そしてまた口付けを交わす。
やがて彼らは、ふっ、と、同時に笑みを零した。

「どう?分かり易かった?」
「そうだな・・・・、けど、俺は捻くれたガキの上に欲張りなんだ。
悪いけどこれだけじゃ満足出来なくてね。あんたの愛情・・・もっと俺に見せてくれるかい?」
「凌・・・ンっ・・・。」

唇に喰らいつく如く、凌統は再度、彼女に口付けを与える。
彼の熱く湿った吐息が喉を灼くようにしての口内を満たした。
先程の物とは違い、濃厚な口付け。
ぬらぬらとの口内を跳躍する凌統の舌は、軟体動物を思わせる。
やがて重なり合った互いの唇から溢れた透明の液体は、
月明かりに照らされ、キラキラと妖しげにの唇を煌かせていた。
隙間無く密着した体から、熱が生まれ、否が応にも二人の体温が上昇していく。
程なく響く、衣擦れの音。
は視線を上げ、凌統の瞳を見つめた。

「ホントに欲張り・・・・・。」
「お褒めに預かり光栄ってね・・・。」
「褒めてない・・・!・・・でも許す・・・。結局わたし、好きな人には甘いのよね。」
「んじゃ、もっと甘くなって貰いますかね。」

今し方彼自身の手によって露になったの肢体。
屈みこみ、彼がその滑らかな肌に舌を這わせる。


「俺以外の名前・・・口に出来ないように・・・ってね・・・。」


囁かれた言葉に、が微かに笑みを浮かべた。


「もうなってる・・・。」


(終わり)



後書き
おかしい、おかしいぞ・・・もう私の書く凌統はこの道しか用意されてないのかああ(涙
・・・いつか凌統でそっち方面抜きなほのぼのまったりな夢を書いてみたい・・・(遠い目)
ではでは、ここまのお付き合い、有り難うございました。失礼します。


ブラウザバック推奨