「純度の高い酒も、うわばみ状態のあんたにとっちゃ水も同然だね。」
「!!さ、左近っ!」
深夜。
地上を照らす美しい満月。
は城の片隅で一人、月を肴に杯を傾けていた。
そこへ不意に左近から声を掛けられ、彼女は少なからず動揺を示した。
「女がひっそりと酒を飲む姿ってのはそそられるもんだが、
あんたの場合は量が並みじゃない。クック…余り飲みすぎると色気を欠くってもんだぜ。」
「もう、いつから見てた訳?わざわざ見つからないような場所選んで飲んでたのに。」
は半ば拗ねたような口調でそう答え、彼女の側へと近付いてきた左近を軽く睨みつけた。
「ははっ、ま、そう怒りなさんな。見つけたのはつい先刻だ。
あんたの姿が見えなかったんでね、探してたとこだ。」
「わたしを探してた?何か用事があった?」
「ああ、だが俺の用事はもう済んだ。さて、折角だから俺も一杯貰おうか。」
返事をすると、彼は意味深な笑みを浮かべ、彼女の隣へ腰を下ろす。
は怪訝そうな表情で彼を見ていたが、
やがて小さく溜め息をついて盃を左近へと差し出した。
「ひとつしか持ってきてないから、これで飲んで。わたしが使ってたもので悪いけど。」
「おっと、同じ盃で酒を飲む、か。中々色気のある演出だねぇ。」
「演出じゃないから!」
彼の言葉に即座に反論を示す。
左近は楽しげに瞳を細めて笑った。
「・・・・今日はいいの?こんなとこでわたしとお酒なんか飲んでてさ。」
彼に手渡した杯に酒を注いでやりながら、は少々険のある口調で問うた。
左近は酒で満たされた杯をゆっくりと傾け、問い返す。
「ん?何の話だい?」
「孫家の城には美人が多いって喜んでたじゃない。何だかんだで左近ってモテてるし。」
彼女は努めて左近と眼を合わさぬようにして答える。
だが、その表情は明らかに不快感を表していた。
魔王・遠呂智降臨直後からこの世界へ迷い込んだと言う彼女は、
左近が信長の手によって孫策の元へ送られる以前から共に行動をしていた。
その最中、互いに信頼以上の好意が芽生え始めていたことも事実だ。
だが、現在に至るまで、それを明確に表現することを、彼もも何所か避けるようにしていた。
しかしここ数日、左近の周囲に侍ろうとする女人の数は日を追うごとに増えており、
はどうやらそれを見過ごすことが出来なくなっているようだった。
「ほぉ、嬉しいねぇ。、あんた、妬いてくれてるのかい。」
「・・・・・・・・・・・別に、そんなんじゃないけど・・・。」
わたしにはそんな権利もないし。
彼女はぶつぶつと呟くようにして口の中で続けた。
左近はくくっと喉の奥で笑い、自ら酒瓶に手を伸ばすと、手酌で更に酒を注ぐ。
それを一気に飲み干した後、再び言葉を紡いだ。
「美人は確かに好きだが、遠呂智が降臨してこっちそんな余裕はなくてね、
寂しいことに今じゃ独り寝が板についてるとこだ。」
「・・・・・そう、なんだ。」
ぼそり。
安堵した様子では短く答えた。
無意識の内に彼女の手が杯へと伸ばされる。
杯。
左近の手にあるこの場にたったひとつしか存在しない杯に。
必然的にその指先が彼の無骨な手に触れ、は己の行動に驚いた様な表情を見せた。
「あ、ごめん、普通に飲もうとしてた・・・。」
「。」
彼女の名を口にした左近が、同時にその手に更に自らの手を重ねる。
は再度、驚いた様に彼を見つめた。
「俺の自惚れじゃなければ、あんたも俺のことを憎からず想ってくれてる筈だ。
そろそろお互い自分の気持ちに素直になっちゃみないかい?」
「・・・・・・・・・・え?・・・・左近・・・けど・・・。」
虚を突いた左近のセリフに、彼女は咄嗟に戸惑いの表情を浮かべる。
彼の両手に握られているの手が、微かにピクリと震えた。
「、俺はあんたに惚れてるぜ。」
「!」
「状況が状況だからな、
本来なら告げないままで居るのもまた互いの為ってのもあったかもしれないが、
この俺も我慢の限界みたいでね。」
苦笑交じりにそう口にし、彼はゆっくりととの距離を詰めた。
彼女は半ば凝視に近い形で彼を見つめている。
「でも、わたしなんか左近から見たらただの小娘じゃない・・・?
本気で言ってんの・・・?本当にわたしのこと・・・。」
「俺は戦場以外じゃ滅多に嘘は言わないぜ。
、この城に居るどんな美人よりも、あんただけが唯一俺の心を動かせる女だ。」
真摯な眼差しで告げられた左近からの言葉。
即座、の顔が見る間に朱に染まる。
「よくそう言う歯の浮くような台詞口に出来るわよね。」
「ふっ、だが俺の言葉が本気かどうか、あんたになら分る筈だ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・・。」
何事か続けかけた彼女がそこで唇を閉じ、左近の真意を探る如く再び彼に視線を向ける。
静かな左近の瞳の奥。
以前から薄らと感じ取っていた彼女自身と同質の想い。
恋い慕う心。
それでもは現在に至るまで、
心の何所かでそれは自身の自惚れではないのかと疑問に思っていたのだった。
だが―――
絡み合う視線と視線。
彼の瞳は紛れもなくを欲している。
言葉だけではない、心がそれを確かに感じ取っていた。
「わたしも・・・勘違いでやけ酒する位に左近が好き・・・。」
ふっ。
と、苦笑と共に彼女は告白の台詞を口にした。
左近が笑い声を上げて答える。
「ははっ、あんたが一人で酒を飲んでいた原因は俺にあったって訳か。
それは少し嬉しくもあるが、つまり俺がこの城の女とお楽しみだと思ってたってことかい。」
「否定はしない。」
「ククッ、俺も随分と愛されたもんだ。」
言いざま、彼は更にとの距離を詰め、その唇に自らの唇を重ねる。
未だ握り合ったままの手は、互いの体温が溶け合い、熱を生み出していた。
触れ合った二人の唇と唇。
の花唇は小刻みに震えている。
左近の手から杯が転がり落ち、僅かに残っていた酒が床を濡らす。
深く濃厚な口づけを交わし、やがて彼はその逞しい腕の中に完全にを閉じ込めていた。
「今夜はあんたの室に泊めてもらうとするか、。」
「・・・・・・・・・・・・それって決定事項なの?」
「あんたは不満なのかい?」
耳元で囁くように尋ねられ、彼女は更に頬を染めた。
やがて首を軽く左右に振り、少々敗北感を滲ませた口調で左近へと返事をする。
「嬉しすぎて困ってるところよ・・・・・・・・・。」
(終わり)
後書き
酒ネタがいつまで続くのか、これでOROCHI夢酒ネタ4本目!
しかも戦国系は3本とも酒ネタですよ(笑)何ですか、書き易いと言うか、ネタ出し易いです。
気づけば政宗、三成、左近、私の好きな戦国キャラ三人ともネタ出してました。
しかし左近は本当に久々に書いたので感覚が・・・ラブキャラなだけに難しい。
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有難うございました!失礼します。
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