「孫市!どう言うつもりよ!」
やっと孫市の腕の中から解放され、第一声、わたしは彼に思いきり怒鳴った。
当然だ。
全く、ちっとも、意味が分からない。
「まぁまぁ、そう怒るなよ。俺だって自分で混乱してるんだ・・・。」
「・・・この状況で孫市が混乱するのはおかしいでしょ。何なの、本当に。」
「そうだな、俺もまさか今になって気づくなんて笑えるぜ。
・・・こんなことは初めてだ。この俺が…。」
「?」
お互いの意思の疎通が全然なっていない。
会話がまともに会話になっていない。
わたしは必死に気持ちを落ちつけてから、ジッと彼を見上げた。
明らかに、いつもの孫市らしくない態度。
そう言えば今日はお酒をかなり大量に飲んでいたな、と思い出す。
彼は確かにお酒には強いけど、今回はその量をもっと越していた。
「・・・・・・・・・孫市。」
「・・・何だい?」
「もしかして、酔ってる?」
酔ってなんかいないさ。
そう返されるのを承知でわたしは彼に訊ねた。
酔っぱらいは大抵自分が酔っているのを否定する。
特に孫市みたいに他人(特に女の人)の前で格好付けたがる男は、
酔っ払っていることを悟られるのは嫌うはず。
だからわたしは彼が否定する事を予想しつつ、彼の返事を待った。
「・・・・・・・・・・・ああ、そうだな。酔ってるのかもしれない。」
「――え?」
予想外の答え。
わたしは思わず聞き返していた。
見上げる先の孫市の視線。
気のせいだろうか、妙に熱っぽい。
彼は苦笑に近い笑みを浮かべて、わたしの両肩を掴んで続けた。
「だから今更気付いて、お前にこんなことをしちまうんだろうな。」
「っ・・・??」
茫然と視線を彷徨わせるわたし。
何が起きているのか理解するのに数十秒もかかってしまった。
孫市の無精ひげでざらついた顎が、頬に押し当てられている。
さっきと同じくらい唐突に、わたしの唇に押し付けられた、孫市の唇。
熱い。
触れ合った唇から、溶けそうな程、熱い。
ついさっきまで彼と一緒に飲んでいたお酒の味が、濃厚に口内に広がって行く。
酒瓶ごとあのお酒を口に含んだ様にして、喉の奥まで熱が満たし始めた。
わたしの胸に密着している孫市の大きく空いた裸の胸元。
そこから感じる、体温。
燃えるような、熱を持っていた。
「ッふ、・・・ァ・・・。」
息苦しさに身悶えした頃、やっと、孫市がわたしから体を離す。
わたしの顎に伝い落ちた、唾液を舌で舐め取って。
「・・・・ま、孫市?自分が今何してるのかわかってるの?」
知らず知らず、わたしの声が震えた。
嫌悪感は全くない。
全然、嫌じゃなかった。
「ああ、分ってるさ。酔ってはいるが、意識はあるし、これは俺の・・・本当の気持ちだ。」
「・・・・・・・・・・・・孫市、告白みたいに聞こえるわよ。」
「…みたいじゃない、告白してるのさ。……、俺が今から言うこと、笑うなよ?」
「え?あ、・・・・う、うん。」
曖昧に頷きながら、彼を見上げた。
孫市がわたしに告白なんて、信じられない。
出会った当初でさえそうだったけど、今の関係では特にそうだった。
女と見れば甘い台詞ばかり口にしてる彼ではあるけど、
わたしの前では趙雲や政宗に接するのと同じくらいの気安さで、
格好付けることを無駄だと思ってるみたいな状態だったから。
そしてわたしも、そんな関係を心地良く思ってた。
嬉しかった。
有る意味では、彼の中のどんな女性よりも、特別に思えて。
特別に。
特別。
「・・・・・・・・・・あ。」
「何だ?まだ何も言ってないぜ?」
「ううん、何でもないわ。・・・・どうぞ。」
咄嗟に苦笑して、先を促すわたし。
孫市は少しだけ眉間にしわを寄せた後、小さく溜め息を吐いてから口を開いた。
「俺も自分の気持ちにハッキリ気づいたのはついさっきだから、
自分でも混乱してるんだが・・・・・・・・・。」
珍しく孫市は言葉を濁した。
だけど視線はしっかりと、わたしを捕えたままだ。
わたしは小さく喉を鳴らす。
軽い眩暈を覚えていた。
おかしい、わたしも酔ってるんだろうか。
そんな筈は、ないはずなのに。
「俺はお前が趙雲と必要以上に親しくなるのが許せない。
俺以上にお前と気軽に話を出来る男が現れるのが許せないんだ。」
「・・・・・・・・・・孫市。」
「俺はお前に惚れちまったらしい。」
フッ。
と、孫市が目を細めて苦笑する。
俺としたことが、普通に情けねぇな。
呟くように言って、わたしの体に両腕を回した。
お互い様か・・・。
思わずわたしも苦笑した。
わたしもたった今、気づいたから。
孫市の中の特別。
そのことに、凄く喜びを感じてたこと。
特別。
「わたしも、孫市のことが好きみたいよ。」
「・・・・・・・・。」
彼と同じような言い回しで、告白する。
胸の奥。
どんどん、熱が、上昇してる。
孫市の腕の力がさっきより強くなった。
「世の女性を泣かせることになるな。」
「・・・・・・・・・っくっ、良く言う。」
わたしは咄嗟に笑って答える。
孫市が至近距離まで顔を近づけてきた。
そして、唇をゆっくりとわたしの唇へと寄せる。
瞬間。
「浮気したら、許さないわよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・、お前な、空気を読んでくれよ。
ここは甘い雰囲気に身を任せる所だろ。」
触れ合わそうと近づいた彼の唇を片手で塞いでわたしは笑顔で釘を刺す。
不満そうな声で抗議する孫市。
わたしはジッと彼を見つめた。
「しないさ、お前が俺を差し置いて他の男と親しくしない限りはね。」
「・・・・・・・ふ、曖昧。」
「お預けはこれまでだぜ、。話は後だ。」
「・・・ン」
言いざま、少し強引に孫市にキスをされた。
喉を灼く様な熱い吐息が口移しで送り込まれてくる。
体中が熱くて、胸の奥に妙な甘ったるさを含んだ疼きを感じた。
世の女性には、この先もずっと泣いたままで居て貰おう。
そんな事を考えてしまった辺り、わたしも相当酔っているんだと思った。
この、甘い状況に。
(終わり)
後書き
後半は前半より短くなりました。しかも孫市の持ち味であるクサイ台詞が殆どない(笑
って言うか、これで酒ネタ三国と合わせて7本目!?寧ろ戦国は酒ネタのみ!?(苦笑
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有難うございました。失礼致します
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