―貴女の様な美しい人と知り合えるなんて、光栄だな。
遠呂智の降臨したこの世界にも、希望が見出される。


雑賀孫市。
無双キャラの中で間違いなく1・2を争う女好き。
初対面での挨拶で彼がわたしに向けて言った台詞。
2次元の登場人物でなければ絶対に口に出来ない、まさに歯の浮くような言葉。
だけど彼は容姿も洋画の俳優だと思えるほど端正で、日本離れしてる。
加えて女慣れもしてるし、何より声にも男の色気がある。
だから現実で言われて鳥肌の立つような台詞でも、孫市の口から聞くと、
様になってないとは言えなかった。
それは、認める。
でも、わたしは彼にこの言葉を向けられたあの時、
その台詞を孫市の口から生で聞けたことにうっとりするでもなく、
かと言って他の無双女武将たちみたいに鬱陶しがったりした訳でもなかった。
わたしは彼の台詞に―――――


大笑いした。


しかも、半端なく、笑ってしまった。
幾ら彼の顔が格好良くても、それが無双の名物であることを知っていても、
あの瞬間、真顔でわたしにあんな挨拶をした孫市に、
わたしはお約束過ぎて笑いを堪え切れなかったのだ。


――今まで初対面であんなに大受けされたのは初めてだぜ。
正直どう対処していいか戸惑っちまった。


とは、孫市と結構打ち解けてから彼に聞いた本人の感想だ。
そして、その初対面時のわたしの対応が吉と出たのか、
わたしは今、彼の中で唯一、口説きまくらない『女友達』的な位置として彼の側に居た。


「フッ、ここの女性は皆、俺に対して恥じらい過ぎだ。
素直に俺の胸の飛び込んでくればいいのに。」
「ッブはっ・・・ちょっと、ゴッホけほっ、
孫市、お願いだからわたしの口の中にものがある時に、ゴホッ、
そう言う発言は控えてくれない・・・っ?」
「‥・・・・・・、お前なぁ、何でそこで笑うんだよ?普通に失礼だろ。」

時刻は夕方過ぎ。
わたしと孫市は、テーブルに向かい合ってお酒を飲んでいるところだった。
この手の会話はわたし達の間では日常茶飯事でもある。

「孫市さ、銃の腕は最高だけど、そっち方面に関しては下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、
みたいな感じよね。わたしは見てて面白いからいいけど。」
「おいおい、面白がるなよ。言っておくが、俺は博愛主義なだけだぜ?
美しい花には手を触れたくなるのが男の性だろう。」
「ほっほっほ!ゴリッパデスコト。」

言って、わたしは手にある杯のお酒に口をつける。
ほんのりとした甘味に、とろりと濃厚な深みのある純度の高いお酒。
口から鼻へ、アルコールの匂いが抜けていく。
下戸の日のわたしなら、間違いなく、匂いを嗅いだだけでダウンしてる代物だ。

「話は変わるけど、孫市ってわたしが下戸の日か上戸の日か分かるの?
いつもタイミング良くお酒飲もうって誘うわよね。」

わたしの両親は母が恐ろしく上戸、逆に父は極度の下戸と言う両極端の家庭。
その両方を受け継いだらしいわたしの体は、日によって上戸の日と下戸の日と、
ころころと変わり、その日になってみないとどっちの日なのか分からない。
なのに孫市は毎回、毎回、上戸の日を狙ったみたいにお酒の誘いをかけてくるのだった。

「女性の体調を気遣うのは男の役目だろ?」
「おっと、まだわたしも女性の内に入れてくれてるんだ?体調ってのは少し違う気がするけど。」
「ああ、ま、一応、な。お前も性別は女だからな。」

ニヤリ。
笑って、孫市はわたしの空になった杯にまたお酒を注いでくれる。
わたしもニヤリと笑い返した。

「体調だけでなく、心情も理解して、星彩達に鬱陶しがられないようにすればいいわ。」
「・・・・・・・・・・・・・、お前本当に容赦のない女だな。
もっと繊細な男心を学ばないと、イイ男をものに出来ないぜ?」
「ご心配なく、孫市以外にはここまで言っておりませんので。」

へぇ、そうなのか。
呟くように返して、孫市は喉を鳴らして手元のお酒を飲みほした。
そう言えば、今気づいたけど、彼ももう結構な量のお酒を飲んでる。
まぁ、孫市はお酒に強いから酔っ払っている所と言うのにお目に掛ったことは、
滅多にないから心配ないとは思うけど。

「相手が趙雲とかだったらこんなこと言う必要性を感じないし。」
「趙雲か・・・、そう言えばは最近アイツと仲がいいみたいだな。」
「え?ああ、そうそう、劉備様の話で盛り上がってる内に結構話すようになったわ。」

わたしの返事に、孫市は不思議そうな顔をした。

「お前、蜀の君子、劉備殿を知ってるのか?」
「うん、ほら、わたしの世界じゃここに居る人たちって、歴史的に有名な人ばっかだから。」

咄嗟にどうにか誤魔化すわたし。
さすがにゲームで何度も見てるからどんな人か知ってる、なんて答えは出来ない。
自然な答えが思い浮かんだので、わたしは心の中で密かに満足していた。

「ってことは、俺もそうなのか。やっぱりな、素敵な男は時を超えても愛される。
未来の女性たちの心までをも虜にしちまうなんて、俺も罪な男だ。」

孫市は孫市で彼のいいように解釈して、一人で満足げに頷いている。
ホンット、幸せな男。

「本当は昨日趙雲に一緒に飲まないかって言われてたんだけど、
昨日はタイミング悪く下戸の日だったのよ。
凄くいいお酒だったらしいけど、結局島津の爺ちゃんが嬉しそうに飲んでたな。」

孫市の台詞は軽くスル―して、わたしは話を続けた。
これも、まぁ、彼とこうして付き合う上では中々必要な技術ではある。

「・・・珍しいな、あいつが女を酒に誘うなんて。」
「そう?今までも何度かあるわよ。」
「夜にか?」
「?夜も夕方も。別に珍しいことじゃないでしょ。」
「珍しいことじゃない・・・か・・・。」

意味深にわたしの台詞をなぞって口にした後、孫市は急にジッとわたしを見つめ始める。
何故か居心地の悪さを感じ、わたしは彼から視線を逸らして、彼の空の杯にお酒を注いだ。

、お前、もしかして趙雲に惚れたのかい?」
「・・・・・・何ですぐそう言う話になるのよ。ま、確かに彼は誠実よね、誰かさんと違って。」

小さく溜め息を吐きながら、わたしは答えた。
何だか話がおかしな方に転がろうとしてる気がする。

「俺だって本気で惚れた女には誠実だぜ。
一人の女を満足させられないようじゃイイ男とは言えない。」
「・・・・ほっほっほ!素敵イイ男論をありがとう。でも―――」

先を続けようとした所で、わたしは言葉を切った。
廊下の奥。
小さく、わたしの名前を呼ぶ趙雲の声がする。

「――殿、殿。」
「おっと、人気者のわたくしにお声が掛っている様子。孫市、ちょっと待ってて。」

言いざま、わたしは立ち上がって趙雲の居るらしい方向に足を向けた。
彼は少し離れた場所に居るみたいだ。

「趙雲、わたしはこっちに―――っンァ!?」

彼に声を掛けようと、声を大きくしたその瞬間。
わたしの頭の左右から手が伸びてきて、そのままその片手で口を塞がれ、
もう片方の手で柱の陰の壁際へグイと引き寄せられる。

「ンン!?ちょ・・・!?」

わたしの後ろに居た人間なんか当然孫市に決まっていた。
彼はわたしの口を塞いだまま、抱きすくめるようにわたしの身体に腕を回す。
その余りの力強さに、わたしは思わず息を飲んでしまった。
しかも、孫市の大きく空いた裸の胸元が目の前にあって、
下手に動くと顔がその部分のぶつかる。
意味が全く分からないままそれでももがいていると、孫市が耳元に唇を寄せてきた。

「少しの間だ、我慢してろ。」

その意味が分からない!

口を塞がれている上に動きを封じられているから、返事をすることも反論することも出来ない。
と、趙雲がわたし達のすぐ側まで近付いてきたのが分った。

「おや?これは孫市殿。殿を見かけませんでしたか?」
「いや、俺は知らないぜ。大方今日はもう眠っちまったんじゃないのか。
・・・・っと、悪いな、趙雲、俺は今ある女性と密会中でね、申し訳ないがここは控えてもらえるか?」

言った孫市が、少しだけ体を趙雲の居る方向に向ける。
瞬間。
石化するわたし。
わたしは心臓が止まるかと本気で思った。
幸い、趙雲に見えたのはわたしの体の一部だけで、わたしが誰だとは気付いていないようだった。

「ああ、こ、これは失礼した。では、私はこれで。」
「ああ、こっちこそ悪いね。またな。」

慌てた様子で廊下を足早に去っていく趙雲の気配がする。
わたしは彼が完全に立ち去るまでの間、ずっと石化し続けていた。


(続く)


後書き
余りに長くなりそうだったので、中途半端にぶった切ってしまいました(いつものことですが
初孫市夢。脇役としてはかなり書き易くてキャラも大好きなんですが、
どうにもヘタレなイメージが拭えない(笑)いい男に書けると良かったんですけど(遠い目)
宜しければ後編もお付き合い下さいますよう、お願い致します。では、失礼します。


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