「興覇先輩、煙草の種類変えましたか?」
「あ?んだぁ?急に。」
今飲んだばかりのブラックコーヒーの缶を、
片手でベコッと音を立てて潰しながら、興覇先輩が言った。
あの缶をまるで紙コップみたいに簡単に片手で潰せてしまう先輩の握力には、
毎回本当に恐れ入る。
って言うか、先輩の場合、あるのは握力だけじゃないんだけど。
「メンソールの臭いがするから。いつもは違うでしょう?」
「ああ、それでか。実はいつものヤツがこの辺の自販機じゃ売り切れてやがってよ、
仕方ねぇから試しにメンソール買ってみたって訳だ。
つーか、オメェよく気付いたな。」
説明をしつつ、興覇先輩は潰した缶を私たちから少し離れたゴミ箱へ勢いよく投げ入れる。
ガコンッ。
缶は見事にゴミ箱の中へ収まった。
「自分が煙草吸わないせいか、臭いに敏感なんですよ。
それに・・・・・・・・・・あ、やっぱり何でもないです・・・。」
「んだよ?途中で言うの止めんな、気になるじゃねぇかよ。」
「ああ、えっと、大した事じゃありませんから。」
しまった!
と言う顔をした私自身が、しまった!だった。
煙草の種類が変ったのに気付いた理由なんか、最初のひとつで十分。
なのに要らないもう一つの理由まで、口にしようとした私。
咄嗟に赤くなる私の頬。
言ったら、先輩は絶対私をからかうに決まってるから。
「おい、そう言う面されっと余計気になんだけどな?
大した事じゃねぇなら別に言ってもいいんじゃねぇか?」
「じゃあ、大した事じゃないから聞かなくてもいいでしょう。」
うんうん、と、一人頷いて見せて、私は先輩の傍から離れようとする。
訂正、逃げようとした。
「なぁーんか気になるな、おう、待ちやがれ、!」
興覇先輩が、離れていこうとする私の腕を掴んで自分の方へとまた引き戻す。
「なっ!?何!?もうホント、大した事じゃありませんって!」
「んな事言ってさっきから話が進まねぇとこが気になんだよ。」
「・・・煙草の種類変った事に気付いた理由なんかどうだって良くないですか?」
「そのどうだっていい理由を頑固に言わねぇってのが気になるってんだ!」
このガキ!!!
と、思わず怒鳴りそうになる。
でも、私も人の事は言えないけど。
きっとこのまま言わなかったら、興覇先輩はこの手を離してはくれないだろう。
私は小さく溜息を吐いた。
「言います、先輩。だから、腕、離してください。」
「おめぇが言ったら離してやってもいいぜ?」
「・・・先輩、貴方って人は・・・、本当に子供みたい。」
「あぁ?おめぇもな、。」
何でこうなんだろう、興覇先輩って。
思いつつ、もう私が素直になる他仕方ないのは分かってた。
私は今度は深く、大きく、溜息を、吐く。
「・・・・さっき・・・・・・。」
「おう。」
「さっき、キス、した時に・・・いつもと味が違ったんです・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・言いました、先輩、離し・・・・っ・・・!」
グイッ。
唐突に、私の腕を掴んでいた興覇先輩の手に力がこもって、
その肌蹴た胸の下の刺青の竜に押し付けられる。
その途端、メンソールの煙草の香りが私の鼻腔に広がった。
「先輩・・・、!理由言ったら離すって・・・!それに人が来るかもしれませんから・・・!」
半分、予想はしてた事。
だけどこんな、こっちが体を離す隙も与えてくれない素早さで、
自由を奪われるなんて思ってもみなくて。
「おめぇがそんな俺の事挑発するみてぇな台詞吐くからいけねぇんだろうが。」
「って、興覇先輩?今までの会話を思い出して下さい!私、言わなかったでしょう!?」
「今言ってるじゃねぇか。」
一瞬、その返事に驚いて私は彼を見上げた。
いつの間にか、至近距離にある、興覇先輩の、顔。
「それは・・・っ・・・先輩が・・・!」
「メンソールを吸うのは今日限りだぜ、もっと味合わせてやるって。」
「・・・・・・・っ!」
有無を言わさず、唇を塞がれる。
重ねた唇から、口内に侵入する興覇先輩の舌。
私の舌を簡単に絡めとって、執拗に、ねっとりと、口内を荒らす。
メンソールのスーっとした感覚と、苦味のある煙草の味。
「・・・ふっ・・・・・」
駄目だ。
やっぱり、結局、こうなる。
小さく漏れ出た自分の声で、私は情けなくも自覚してしまう。
先輩には、敵わないんだと。
どんどん加速をつけて激しくなるキス。
溢れそうになるお互いの唾液を、興覇先輩が舌で舐め取る。
「やべぇ・・・、滾っちまいそうだぜ・・・。」
「興覇・・・先輩・・・!だ・・・駄目・・・ンぁ!!」
腰に回されてた腕が、ゆっくりと上に上がった。
大きな掌が、服の上から私の胸元を揉んだ。
「先輩・・・!!」
「ヤりゃしねぇよ・・・。・・・つっても、我慢できるか分からねぇけどな。」
「だっ・・・!!!」
ガチャ。
「「!!!!!!」」
ドアノブの回る音。
固まる先輩。
慌てて彼から離れる私。
そして、姿を見せたのは。
「あたしはやっぱりアップルジュースがいいな♪お姉ちゃんは?」
「わたしは・・・・・、あら・・・・?」
大学内でも美人姉妹と名高い二喬の大橋と小橋だった。
「さん、それから甘寧さんも。」
「あー二人でジュース飲んでたのぉ?やっぱり仲いいんだねぇ。」
無邪気に笑う小橋に、微笑む大橋。
私は咄嗟に曖昧な笑顔を浮かべる。
まさに危機一髪、だった。
「あー、俺はそろそろこの辺でズラかるぜ。帰り、ケータイに連絡入れるからよ。」
「あ、はい。それじゃあ・・・・。」
ケダモノ!!!
なんて心の中で思いながら、それでもどうにか返事をした私。
先輩が居なくなった後も、微かに残る煙草のにおい。
本当は、煙草はあまり好きじゃない。
だけど。
興覇先輩のは好き、なんて口にしたら、どうなるんだろ・・・。
ふっ、と、私は思わず苦笑する。
結局私も、どうかしてるんだ。と、自覚してきた今日この頃。
(終わり)
後書き
久し振りに書いた甘寧夢がパラレル、しかも・・・何してるの?(苦笑)
甘寧相手の場合は色々な意味で苦労してそうなヒロインですね。
では、ここまでのお付き合い、誠に有難うございました!失礼致します!
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