『あぁん、凄いわぁ・・・。右を向いても、左を向いても、ええ男はんばっかりや。
こない仰山・・・、うち、よう出雲まで連れていねんわぁ。』
私と同い年の島根県出身の阿国さん。
彼女と初めて大学の食堂で食事をした時、そう言って彼女は瞳を輝かせていた。
確かに、うちの大学は美形揃いかも知れない。
そして多分その中には、私の幼馴染である、彼、石田三成も含まれているはずだ。
大学の広い食堂内、今日はいつもよりもっと人が多くて、
空いてる席を探す事さえ苦労する。
バイキング形式の昼食。
トレイに乗せた所で、私は二人分、座れる場所を探していた。
「・・・うわ・・・、今日はホントに混んでる。
これじゃ座る場所探すのに時間かかりそうじゃない?ねぇ阿国さ・・・・」
振り返って、私はそこに居る筈の彼女に話しかけた。
んだけど。
「・・・阿国さん???」
ついさっきまで私の傍に居た阿国さんは、いつの間にか私から随分離れた場所にいた。
「もーいややわぁ、可愛いやなんてても言わはって。」
「いや、心から思う。可憐で儚い貴女と言う華に出会えた俺は、何て幸せなんだ・・・。」
絶句。
よりによって阿国さんが会話している相手は、大学内でも有名な女好きの雑賀孫市先輩。
そう言う意味では阿国さんも全く引けを取らない訳だけど、
それより問題は二人が会話に夢中になり過ぎている事だ。
あの様子じゃ、多分後30分以上は話こむ事になる筈。
私は大きくひとつ、溜息を吐いて、仕方なく一人でランチを済ませる事にした。
とは言え、さっきと状況は一向に変ってないんだけど。
とりあえず、歩き回って場所を探す。
「ん?ではないか?座る場所を探しているのなら、此方が空いているぞ。」
不意に声を掛けられて、私は足を止めた。
視線を向けた先に、高校からの同級生、直江兼続の姿。
「有難う直江、助かった。と、真田も一緒?・・・・・・・・じゃ、お言葉に甘え・・・・・・・。」
直江の向かい側に居る真田に目を向けて、
それから直江の陰になってるもう一人が視界に入った途端、思わず私は言葉を切った。
「どうなされた?殿。」
急に固まってしまった私を、真田が不思議そうに見つめる。
私は軽く左右に首を振って、真田の隣の席に座った。
「今日は一人か?。あの美しいお嬢さんは一緒ではないな。」
「・・・阿国さんはちょっと野暮用みたいよ。」
私は苦笑しつつ直江の質問に答えて、
そうしながらも、意識は違う方向に向けていた。
私が来てから、まだ、一言も声を発してない彼。
石田三成。
「三成殿、箸が止まっている様だが、食欲がないのですか?」
「それはいかんな、三成、体調を崩しているのではないか?」
「・・・いや、そうではない。心配無用だ。」
「・・・・・・・・・・・。」
久し振りに聞く、彼の声。
私は意識的に三成から視線を逸らした。
三成とは家も近くて、昔はよく一緒に遊んだりもした仲だ。
だけど、中学卒業、そして高校入学辺りから微妙に彼との距離を感じ始めていた。
思春期。
多分一番の原因はそれ。
そして、それにもっと付け足すなら、私の三成への気持ちと、
彼の私への気持ちとの、微妙なズレのせいだったのだと思う。
あの頃、私は三成の事が好きだった。
ただの幼馴染としてでなく、一人の、男として。
彼との距離が離れる速度を少しでも抑えようと必死だったのを覚えてる。
でも、結局それは無駄なあがきで終わった。
子供がどんなにゴネて地団駄踏んだって、
大人の強い力に抵抗出来ずにズルズルひきずられるみたいに。
決定的になったのは、高校最後のバレンタインデー。
今でもハッキリ記憶に残る、あの日。
雪がちらついていた、2月14日。
三成にチョコを渡すのはある意味で毎年恒例で、だけど、その年だけは、
私にとって特別な意味を持っていた。
いつも市販の物で済ませていたチョコを、前日から手作りで用意した。
私はあの日、告白するつもりでいたから。
でも、結局そのチョコが彼の手に渡る事はなかった。勿論、告白なんか問題外。
理由は、私が三成にチョコを渡そうと声をかけようとするよりも早く、他のコに先を越されたからだ。
と言っても、別にこのコの告白が成功した訳じゃない。
その、逆。
彼女が振られる現場を見てしまったから。
―下らぬな、俺をこんな所に呼び出しておいて用事がこれか。
普通に迷惑だ。俺はこんな事にうつつを抜かしている暇などない。
言い終えてすぐ、三成はそのコに背中を向けて離れて行った。
呆然と三成の背中を見つめていた彼女。
それから、その後その場にうずくまって泣いているのが見えた。
その時、私は、彼女と自分の姿を重ねて見ていたのだと思う。
三成は口で言う程冷たい人じゃない事も、単に不器用なだけなのだと言う事も、
幼馴染の私は知っていた。
それでも、私の中に焼き付けられたそのワンシーンは、私に三成にチョコを渡す勇気どころか、
声を掛けるって事さえ出来なくしてしまった。
とは言え、その頃にはもうあまり会話もなかった訳だけど。
「すまんが私と幸村はレポート提出の為に先に立たせてもらう。
一刻も早く、この『義と愛の理想論』を上杉教授にお渡しせねばならんからな。」
「私もレポート提出だけではなく、武田教授に私用がある。お二人はゆっくり食事を済ませるといい。」
「・・・・・・・・・・・・・・え!?」
まったくの不意打ちだった。
食事をしながら世間話をしてた最中、
いつの間にか綺麗に食べ終わってる直江、そして真田。
その上、急にそんな事を言い出すし。
もっと言えば、もう彼ら二人は立ち上がっていた。
「ええ!?二人とも行くの!?」
「ああ。む、悪いな、時間が迫っている。三成、また後でな。行くぞ、幸村。」
「ええ。ああ、殿、良ければ席を此方に移すといい。では、三成殿、後ほどお会いしましょう。」
二人はそれだけ言い残して、そのまま食堂を出て行った。
心なしか、気まずい雰囲気の、私と三成。
「えっと・・・向かい側に・・・移ってもいい・・・?」
「勝手にするがいい。」
「そう、じゃあ・・・そうする。」
私は彼の斜め前と言う微妙な位置から、正面の席に移動した。
その距離感が余りにも久し振りすぎて、馬鹿みたいに、緊張する。
「・・・久し振り、・・・元気?」
ヤバイ、思わず口にした台詞にしても間抜け過ぎた。
そう思った瞬間、案の定、三成が呆れたみたいな口調で返す。
「フン、見れば分かるだろう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
相変わらずの冷たい言い方。
だけどそれが特にムカっとくるかと言うと、そうでもない。
おかしな話、懐かしい気さえしてる。
「じゃ、質問変えるわ。秀吉さんとおねねさんは元気?最近あんまり大学じゃ顔見ないけど。」
「ねね様は胡散臭い探偵業に精を出している。秀吉様はここ1週間程講義を受け持って居ないご様子だが、
来週からはまた何度か顔を見せると仰っていた。」
私の質問にそのまま答える形で、三成はこっちに視線を向けずに言った。
三成がお世話になっている下宿先のご夫婦が秀吉さんとおねねさんだ。
『下宿』とは言っても、ここのお宅は近所でも有名な富豪で、
当初は三成に部屋代も食事代も要らないと言って居た程だった。
だけど三成自身がそれではさすがにって事で、
結局少しだけでもお金を入れる事に収まったみたいだけど。
因みに、おねねさんはたまにこの大学の事務で働いているし、
秀吉さんも講義を受け持ったりする事がある。
聞いた話だと、ここの大学のお偉いさんと懇意だと言うことらしかった。
「・・・食事は済んだ、俺は先に立つぞ。」
スッ。
不意に立ち上がった三成が、言った。
私は慌てて彼を引き止める。
「え・・・!?もう行くの?まだ時間あるんじゃ・・・」
「残ったとてお前と話すこと等何もない。」
「・・・!そんな言い方ないでしょ?久し振りにまともに会話するチャンスだって言うのに・・・!」
ついさっきまで、気まずい雰囲気で二人だけにされてビビッてた、それは確か。
緊張もしてたし、焦りもしてた、それも確か。
だけど、別に嫌だった訳じゃない。
それどころか、実は少し嬉しかったりもした。
それは勿論私の勝手で、三成は三成で思うところもあるとは思う。
そう分かっては居ても、私は思わずそう口にしてしまった。
彼を見上げた視線を逸らして、小さくひとつ、溜息を吐いた。
「ごめん、何でもない・・・。そうだね、話題もないし・・・。じゃあね、三成。」
「・・・・ああ。」
一言、返事をして、三成がそのままそこから離れてく。
相変わらず混んでる食堂の中を、ドアまで突っ切って出て行く彼の背中。
今頃ムカっときてる自分が逆に哂える。
私は手元のコップにあるお茶を一気に飲み干して、勢い良くテーブルにタンっと置いた。
せめてもう少し会話らしい会話してから立てってのよ・・・!
乱暴に椅子から立ち上がって、トレイを持ち上げた。
その瞬間。
―ガタンッ・・・!
パリ・・ーン!!
「っ!!」
呆然。
一瞬、棒立ち状態の私。
足元を見下ろせば、割れたコップ。
周りの学生達が一斉にこっちを向いたのが分かる。
「・・・最悪・・・。」
呟きながら、私はその場にしゃがんでとりあえず大きな破片を拾う事にした。
幸い、って言うのもなんだけど、とにかく幸い、コップの中身は全部飲み干したから床は濡れてない。
それから、偶然傍に他の学生が居なかったから、他人に怪我をさせる事もなかった。
それだけが救いだ、本当に。
「、貴様、一体何をしている?」
「・・・・・・・・え!?」
顔を上げると、私を見下ろす三成の姿。
ついさっき食堂から出て行ったばっかりのはずなのに。
私は思わず、ポカンと口を開けて動作を停止した。
「フン、その間抜け面はお前には似合いだが、向けられる側としては笑えぬな。」
「何よ、それ・・・!大体、どうして・・・・・・・・。」
言いかけて、彼の手元に自然と私の目がいく。
男にしては繊細そうな、だけどやっぱり節くれだったその手に、
ホウキと塵取りが握られていた。
三成に、掃除道具。
似合わなさ過ぎて、思わず吹き出しそうになったけど、どうにか我慢した。
「無暗にグラスの破片に手を出すな。道具を使う頭もないのか、お前は。」
口にしてる台詞は、どう聞いても私を小馬鹿にしてるとしか思えない。
だけど、そうじゃない事を、私はよく分かっていた。
彼がここに居る事が、何よりの証拠。
その後、私は彼からホウキを受け取って、コップの破片の処理を終わらせた。
「三成・・・わざわざ戻って来てくれたのね・・・。」
「フン、勘違いするな。単に俺は、貴様の無様な姿を見るに耐えなかっただけだ。」
そう来たか・・・。
思わず私は苦笑した。
不意に私はおねねさんの言葉を思い出す。
―損な子だね。
本当は、気遣いも優しさも、キッチリその胸に持ち合わせてるくせに、
口に出す言葉はいつも遠回し過ぎて。
不器用な人。
「有難うね、三成。スゴク。」
「・・・フン、大げさな奴だな。」
私がストレートにお礼を言うと、彼は少しだけ眉間にしわを寄せた。
その頬が、ほのかに赤くなってる様に見えるのは、多分、気のせいじゃない。
「はん!あぁん、堪忍どすえ。うちついつい話に夢中になってしもて。」
「あ、阿国さん。」
私の背中から、阿国さんがそう言って声を掛けてきた。
「私こそごめん、先にランチ済ませちゃった。」
私は振り返って彼女に謝る。
阿国さんはほんわりと微笑んで見せながら、不意に、私の後ろに居る三成に目を向けた。
「冷たい目ぇが素敵なお人やわ〜。」
「なっ・・・!ふざけた事を!・・・・・・、俺はもう行くぞ!」
「え?あ、うん。」
軽く頷いて、私は答えた。
そのままスタスタと歩き出す彼に、私は慌ててまた、声を掛ける。
「三成・・・!」
「・・・・・・・・・・・・何だ?」
彼が足を止めて、こっちに視線を向けた。
私はそこで、小さく、深呼吸する。
「また今度、ランチ一緒にしてもいいかな?」
「・・・・フン、好きにするがいい。」
彼が短く答えた。
それからまたさっさとそこから離れようとする三成に、阿国さんが、あの冷たい態度もまたええわ〜、
と、言っているのが聞こえる。
高校最後のバレンタインデー。
あの日、あの頃。
私はやっぱりまだまだ子供で、彼の台詞の裏の優しさに、
実はきちんと気付けずに居た。
だけど今なら分かる。
彼に想いをぶつけたあのコに、未練を残させない為の、冷たい台詞。
「阿国さん、次のランチは5人分の席、確保しなきゃなんないみたいよ。」
言った私に、彼女はまたほんわりと微笑えむ。
「ほな、きばらなあきまへんなぁ。」
もう、あの頃とは違う。
それに気付けた今日この日から、貴方と新しい関係を、築いていこうと思った。
(終わり)
後書き
長っ!!!まさかここまで長くなるとは思いませんでした・・・。
しかも微妙に三成より他キャラの方が出番が多くて申し訳ありません・・・。
更に愛しい阿国嬢の京訛りが中途半端で申し訳ありません。
今度は両思い設定で書きたいな・・・と、思いつつ、予定は未定です(苦笑)
ではではここまでのお付き合い、誠に有難うございました。失礼致します。
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