講義が終わって誰も居ない広い教室内。
忘れた資料を慌てて取りに戻った私。
「よぉ、。忘れもんでもしたのかい?」
「あ、島教授。レポート用の資料を。」
言って、私は片手の資料を軽く掲げて見せた。
下からゆっくりと教授が私の方まで上ってくる。
そして、彼は苦笑しながら口を開いた。
「あんたの口から『島教授』ってのはかなり久々に耳にしたな。」
「・・・え!?・・・・だって・・・・。」
驚いて、私は出入り口の傍に視線を向ける。
誰かが立っている様子は無い、教室の周囲も、さっきまでは確か誰も居なかった。
「はは、安心しなって。誰も居ないってのは確認済みだ。」
「誰かが入ってくるかも知れないじゃないですか。」
「残念だがそれもなしだ、俺がここの鍵を持ってるんでね。」
ジャラ。
不意に耳元で聞こえたその音に、私は顔を上げる。
目の前には幾つかの鍵が束になってぶら下がっていた。
「・・・島教授、そんなもの持ち出していいんですか?」
「ま、勿論ちゃんと許可は取ってあるぜ。」
「・・・・・・・・あの・・・何か、距離近い・・・・んですけど・・・?」
「そりゃ気のせいじゃないだろうね。」
ニヤリ。
いつの間にかすぐ傍まで迫ってきている左近教授の唇の端が上がった。
彼の目の下にある傷。
私は一瞬そこに気を取られる。
そんな物にまで色気を感じる自分に、呆れながらも、
どうする事も出来ずに居た。
自然と片手を上げて、その細い傷跡を指先でそっとなぞる。
教授がほんの少し、瞳を細めて私を見下ろした。
「、あんたも男を焚き付ける技ってのが上手いもんだな。」
「・・・え!?そんな・・・!って、ここ、大学内ですよ!?」
「この指先、十分俺の思考を狂わせてくれるぜ。」
「何言ってるんですか・・・!?」
唐突に、教授の傷跡に触れていた私の手が、彼の大きな手に掴まれる。
ごつごつとした教授の指が私の指と絡められた。
そして彼はその手をグイと、自分の方へ引き寄せる。
私はバランスを崩して彼の胸に顔をぶつけるみたいにして倒れこんだ。
「島教授、人が・・・っ・・・「鍵はここだ。」
言いざま、教授が私の唇に噛み付くみたいなキスをする。
開きかけだった唇から、煙草独特の苦味のある熱い吐息が流れ込んできた。
ぬらり、と、口内にねじ込まれた彼の舌が、
咄嗟に引っ込めた私の舌をあっという間に捉える。
それを吸い付くように締め付けて、同時に私の抵抗を緩めさせていた。
クチュ。
溢れた唾液が水音に似た物を作り出す。
小刻みに震える私の手を、絡めたままの教授の無骨な指がギュっと握った。
教授とのキスに夢中になり始めている自分を必死で抑えこもうとした私だったけど、
結局、それは無駄な抵抗に終わる。
私の空いた片手は、無意識にいつの間にか彼の厚い胸板の辺りを弄る様にして動いていた。
教授がほんの少し私から唇を外した瞬間でさえ、追っていくみたいに背伸びをしてしまう始末。
「ククッ・・・まだ物足りないって様子だな?。」
「・・・・・・・・・・・なっ・・・!!からかわないで下さい・・・・。」
「だがあんたもやるもんだぜ、この状況で未だに俺を名前で呼んでないってとこがね。」
言った教授が、ちゅ、とわざと音をたてて私の唇に吸い付いた。
私は思わず目を逸らす。
気付かない間にレポート用の資料は私たちの足元に散らばっていた。
落ちた音にすら気付く事も無いほど、教授のキスに夢中になった自分が情けない。
当の教授は涼しい顔で片手の鍵の束を机に置くと、
手早く資料を拾い上げてくれた上、それを私に渡してくれた。
「俺はそろそろ戻るとしますか。」
ニヤリと笑って、彼は私に背を向けてドアの方へと足を向ける。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
正直、ムカつく。
なんて、やっぱり子供っぽいと思われるだろうか。
だけど、そんな、何も無かったみたいな顔してさっさと私の傍を離れないで欲しい。
そんな事を考えていると、不意に、教授がこっちに振り向いた。
「、今日はあんたの部屋に行かせてもらうぜ。」
「・・・武田教授と飲むって、聞いてますけど・・・・。」
「ま、確かにな。けどよくそんな情報知ってるねぇ。」
「・・・真田が言ってました。三成にも島教授から話したんでしょ?」
「ああ、それでかい。ま、けど明日は大学も休みだ、遅くなっても問題ないだろ。」
つまり深夜だろうと早朝だろうと、私の所に来る、と、教授は言ってるんだ。
思わず、口元が緩みそうになるのを堪えて、私は考えるふりをした。
教授はまた私に背中を向けて、私の答えも聞かずに先を続ける。
「悪いが、あんたがどう言おうと俺は行かせてもらうぜ。このままじゃ不発もいいとこってね。」
「・・・・・・・・・・・・・?不発・・・何がですか・・・・・・・・・・・?」
首を傾げて私は彼の背中に聞き返した。
「そりゃ、今の状況に決まってるだろ。
ベッドで嫌って程俺の名前を叫んでもらうぜ、。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!!」
「ま、そういうこった。後でな。」
片手をひらつかせながら、教授はそう言い残してドアから教室を出て行った。
私はと言えば、馬鹿みたいに顔を真っ赤にしてその場に棒立ち状態。
教授の足音が聞こえなくなるまで、そこから動く事も出来なかった。
・・・く・・・悔しい・・・・!
私は両手で口元を押さえて、眉間にしわを寄せた。
どんなに意地を張ってみても、結局、教授には敵わない。
あんな言葉すら、嬉しくて堪らない自分が居る。
悔しいから、今夜はギリギリまで、教授の名前を呼んでなんてあげない。
ひとつ位、貴方に勝てるものが欲しい。
言った私に、
―あんたが気付いてないだけで、俺はあんたにだけは連敗なんだがね。
と、教授が苦笑して答えたのは、また、別の話。
(終わり)
後書き
私的メイン左近教授(笑)しかしまだ3回目の為一向に書き慣れません。
精進、精進。しかもSSSな長さなのに急展開過ぎて自分で驚いてます。
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有難うございました。失礼します。
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