「どないしはったん?何や今日のはん、おかしいわ。
動きがぎこちないなぁ・・・・。体、悪いん?」

講義が終わっても中々机から立ち上がらない私に、阿国さんが心配そうに言った。
私は思わず声を上ずらせながら、笑って誤魔化しつつ答える。

「え・・・・!!??あ、そっ・・・そうじゃないんだけど・・・ちょっと節々が痛くて・・・。」
「何や、お年寄りみたいな答えやなぁ。筋肉痛にでもなったん?」
「あー、うん、まぁ・・・そう・・・かな。」

私の返事に少し呆れたみたいな顔の阿国さん。
私は視線を泳がせてしまった。
で、その時、タイミングよく阿国さんの大本命、
前田慶次先輩が目に飛び込んできて、私は咄嗟に声を上げる。

「あ!阿国さん!あそこ!!前田慶次先輩!」
「ええ!?慶次様!?」

ハッとした表情で阿国さんが辺りを見回す。
それからすぐに彼女も慶次先輩を発見したらしくて、
顔を輝かせて言った。

「あぁん、ほんまに慶次様や!3日ぶりのお姿・・・、やっぱり凛々しいわぁ・・・。
うちお話してくる。はん、ほなな。」
「OK!またね。」

ウットリ。
と言う表現ピッタリの顔つきで、阿国さんが前田先輩の所へ走っていく。
阿国さんは惚れっぽい事この上ない人なんだけど、
どうやら前田先輩は本当に別格みたいだ。
目の色が、他の人を見るときより、2割り増し位違うから。


って言うか・・・いい加減私ももう立ち上がろう・・・。


私は大きく溜息を吐いて、極力ゆっくり、体を動かす。
ホント、これじゃあ年寄りだって言われても仕方ない。
理由は、口が裂けても言えないけど。

、どうしたんだ?さっきから一向に立ち上がれてないぜ。
良ければ俺が手取り足取り立たせてやろうか。」
「・・・・・まっ、孫市先輩・・・・いえ、結構です!!」

どこから見ていたのか、学内1の女好きと名高い孫市先輩にそう声を掛けられて、
私は頭を左右にぶんぶんと振り回した。

「そんなキッパリと・・・。
ま、でも下手に手出しして左近教授に睨まれても困るしな。」
「先輩!!」
「ハハハ、もしかして今の状況も教授絡みだったりするのかい?」


―ボンッ!


と、顔から火が出るかと思った。
その位、私の顔は先輩の言葉に反応して、突然に真っ赤になったから。
情けないほど、分かり易い私。

「やっぱりな。昨日は珍しく酒が回ってたみたいだったし、
あのまんまの家に向かったんだとしたら、
さぞ熱い一夜になったんだろうとは思ってたが・・・・。」
「先輩!!!!!!!!!」

私は咄嗟に先輩の口を両手で押さえて、また大声を上げた。


なっ・・・何を言い出すのよ!!この人は!!!


「図星か。残念だな、。だけど俺ならもっと優しくしてやれるぜ?」
「って、孫市先輩!!掌にキスなんかしないで下さい!!!」

先輩の口元を押さえていた私の両手を掴まれて、
しかもその掌に柔らかい唇の感触が伝わってくる。
私は焦ってジタバタともがいた。

「おいおい、その辺で勘弁してやってくれよ。」
「・・・・!島教授・・・!!」

聞きなれた声に視線を移すと、苦笑して私たちを見つめる教授の姿。

「おっと、真打ち登場か。それじゃ、残念だが俺は行くか。
、優しくて素敵な男に鞍替えしたくなったらいつでも俺の胸に飛び込んでおいで。」
「・・・・考えときます。」

げんなり。
しつつ、私は孫市先輩に手を振る。
教授はそんな私を声を上げて笑った。
孫市先輩のこんな光景はもう日常茶飯事で、それをどうこう言う気もないらしい。
例え、ターゲットになっているのが私でも、だ。
今更、それがまたムカつくなんて、言ったりはしないけど。

「で?どうやら俺の話をしてたようだが、何かお気に召さない事でもあったかい?」
「・・・・・別にそう言うことじゃ・・・って言うか、ここで話せる事でもありませんし。」

教室内にはまだ学生が数人残っていた。
と言っても、こっちを気にしてる様子はない。
だけど、それとこれとは話が別で、幾らなんでも他の学生が居る場所で、
堂々と教授との関係を知らしめるみたいな会話を続けられる訳もなかった。

「そうかい、じゃ、場所を変えるか。丁度俺は第3資料室に用がある。
あんたは後から来るといいさ。」
「え?そ・・・そこまでしなくても・・・。」
「どうせお互い今日の講義は終わりだ。俺の車で送ってやるよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

送ってやる=お泊り決定。
と、言うのがいつものコース。
特に、明日が休みの場合、これはもう暗黙の了解状態。
それは正直嬉しい。


スゴク嬉しい・・・けど・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「ん?どうした?」
「あ、いえ、じゃあ・・・先に資料室に行ってて下さい。私も行きますから。」
「ああ、そうさせてもらうとするか。」

答えた教授が、私に背中を向けて教室内を出て行く。
私は一人、その後姿を見ながら小さな溜息を吐いた。


ま・・・まぁ・・・泊まるからって・・・いつも『そう言う方向』に流れる訳でもない・・・し・・・。


自分に言い聞かせつつ、私はお泊りコースの場合例外なく『そう言う方向』に、
流れてしまった過去数々の出来事を頭の隅へ押しのけた。
付き合い始めて2ヶ月。
まだまだラブオーラ放出しっぱなしでも許される時期だとは思う。
ハッキリ言って、私だってそれを望んでる。
だけど。
そこまで考えて、私は資料室に行く事にした。
歩くのもツラくて、どうせすぐには着かない。
寧ろ、着けない。
その位、体、ガタガタだ。




―コンコン。


「島教授、です。入りますね。」

教授が中から答えるよりも早く、私は資料室の中に入った。
それに気付いて彼が片手に数冊の分厚い資料を持って出てくる。

「やれやれ、あそこからここまではそう遠くない筈だがね。思った以上に遅かったな。
それともあんたの通った廊下だけが突然距離を増したりしたのかい?」
「違います・・・!って言うより、これ、殆ど教授のせいなんですけど・・・。」

冗談めいた口調の教授に、後半、ボソボソと小さめの声で私は答えた。
教授に聞こえないんだったら、それもいいと思って。
だけどどうやらハッキリきっちり聞こえたらしい彼は、
傍にある机に持っている分厚い資料の束をドサリと置いて、私に近付いてきた。
ニヤリ。
と言う、妖しい笑みつきで。

「俺のせいだって?そりゃどう言う意味だか説明願いたいもんだな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・教授、もしかして、気付いてませんか?」

やけに至近距離に詰めて来た教授を見上げて、私は言った。
彼の口元がさっきよりもっと妖しく笑って見える。

「気付く?ま、俺の頭は冴え渡ってるからな、多少の事は分かるつもりだが、
今あんたが言いたい事を察する程には至ってないってね。良ければお聞かせ願いたいもんだ。」
「・・・・・・・・・・・・本気で言ってますか?」
「当たり前じゃないか。」

答える教授の唇がさっきと同じ形で言った。
少しの間彼の表情をジッと見つめていると、
突然彼の手が私の腰に伸びてきて、そのまま荒っぽく資料棚に背中を押し付けられる。


トンッ。


と、私の背中に色々な資料のでこぼこした感触が伝わった。
それと一緒に、体中にビキビキ痺れが走る。

「イッタい!!教授、これ以上私の体ガタガタにしないで下さい・・・っ、
それでなくとも昨夜私は・・・・!」

思わず声を上げながら、私は両手で彼の胸元を軽く叩いた。
すぐ傍にある教授の顔が、苦笑するみたいな表情になる。

「やっぱりそれが原因かい。昨日は確かにちょいと調子に乗りすぎたからな。
加減する間もなく雪崩れ込んじまったし、お陰で俺は今までより更に良かったがね。」
「なっっ・・・!き、きき教「おっと、余り声を上げすぎるなよ。話の内容が外にまで聞こえかねないぜ。」

顔を真っ赤にして大声を上げそうになった私の口を、彼の大きな掌が塞いだ。
私は小声で抗議する為にその手を両手で軽く握ってずらした。

『教授がこんな所でそう言う話題を持ち出すからでしょう!!』

ヒソヒソ声。
だけど、十分非難たっぷりに言って、私は彼を睨んだ。

「おいおい、まず先に持ち出したのはあんたの方だぜ?」
「それは教授が乱暴に私を・・・・・・・・・・・・・・・・。」

言いかけて、私はすぐに口を閉じた。
大学内の資料室で、何でこんな口論を始めなきゃいけないんだろう。

「乱暴ねぇ・・・。それじゃ、優しく扱うってんなら文句はなしかい?」
「・・・何か、言い方引っかかりますけど。
まぁ、乱暴に扱われるより優しくして貰ったほうが・・・・・・・・・・・・・・・。」

そこまで言って、しまった、と、気付く私。
だけど、時、既に遅し、だった。

「じゃ、『優しくして』やるとしますか。」
「!?って、意味が違・・・・・・・・っ・・・!」

反論しかけた私の唇に、教授の唇が重ね合わされる。
更に、彼の手が私のジーパンのチャックをゆっくり下ろした。

「教っっっ・・・・!!!」

思いっきり声を上げたい所を必死で堪えて、
私は咄嗟に両手で彼の胸元を押しのけようともがく。
だけど、そんなの、彼にとって全く意味を持たなかった。
呆気なく、押さえ込まれる私の腕。


どこが!?どこが『優しい』訳!?


『島教授!いい加減にして下さい!何もこんなところ・・・・でっァっ!』

声を落しつつも抗議する私に構わず、彼の掌が唐突に内股を直に撫で回し始めた。
下着に触れるか触れないかの場所を行ったり着たりとゆっくり滑る。

「・・・ンっ・・・・・!」

危うく妙な声を上げそうになるのをどうにか抑えて、
私はさっきよりもっと激しく教授に非難の視線を向けてやる。
効果なんか、ないのは分かってたけど。

「おいおい、『優しく』してやってるだろ?それともこれじゃ足りないってのかい?
困った娘さんだな、あんたも。」
『だっ・・・!!駄目です・・・っ!これ以上はもっと駄目・・・!!』

私の内股を撫でていた大きな彼の手が移動を始める。
そして、今度はシャツを下から段々と捲り上げてきた。

『!!??』

私がまた何か言いかけたところで、教授の唇が私のものと触れ合わせられる。
その間も彼の手がブラの上から私の胸元を撫でているのが分かった。
いつもみたいにキスが激しくなるより前に、彼が私の耳元に唇を移動させて囁く。

「いつもより荒っぽくないつもりだがね、どうだい?。」
「・・・・・どうって・・・ァっ・・・・・・・・・・・っっ・・・。」

教授の手がまた私の内股辺りを這い回り始めた。
その上、片脚を太腿の下から持ち上げて、彼の腰に密着させられる。
私の思考は、確実に、乱され始めていた。

「教・・・授・・・っ・・・!」
「左近だ、。あんたが呼んだら止めてやるよ。」

やわらかく口にした彼が、私の耳朶を優しく甘噛みする。
ビリビリと、私の脳内におかしな電流が走った気がした。

「左・・・近・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

掠れそうな声で、結局、素直に私は答えてしまった。

「じゃ、離してやるとするか。」

教授は思った以上に満足そうに、そして思った以上に呆気なく、私の体を解放した。
一瞬、余りの切り替えの速さに、私の方が彼を追ってしまいそうになった。
勿論、そんな情けない事は意地でもしたりはしなかったけど。
教授は自分が乱した私の服を何の未練もなさげに整えて、
半分呆然状態の私を見下ろして笑った。

「やっぱりあのまま進んじまった方がよかったって顔だな、。」
「・・・・・・・・なっ!!!ちっ違います!!」
「ははっ、ま、これであんたもその気になっただろ。
例え昨夜の名残でちょっとばっかり体の自由が利かなくてもな。」
「教授!!」

思わず怒鳴る私に、彼はまた声を上げて笑った。


結局、この後私のアパートまで車で送ってくれた教授は、
思った通りうちに泊まって、当然みたいに『そういう方向』に流れた。


私が振り回されて、彼の手の中で転がされて。
全く嫌になる位、毎回同じパターン。


いつか、形勢逆転してやる。


左近の方が、私の行動に、動揺するくらい。
だけど今は、精進、あるのみ。


(終わり)



後書き
執筆に日にち空けたせいか無駄の多い文章になった気が・・・。
でもでも趣味で阿国嬢と孫市とのヒロインの絡みは外せませんでした(苦笑)
私の書く左近には大人の色気が欠如している様に思えてなりません(涙)
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有難うございました!失礼します。


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