抜け忍は死罪。
それが忍びの掟。
それが忍びの定め。
血で真っ赤に染め上げられたと思える程、赤みを帯びた月。
星は少なく、森を照らすのはその月明かりだけだと言っても良かった。
肌を刺すような真冬の冷たい空気。
私は、貴方を待っていた。
掌を数年前まで私と共に戦った彼らの血で濡らして。
握る得物でその肉を引き裂いて。
私はただ、貴方を待っていた。
貴方だけを。
「・・・。」
「・・・やっと、来てくれましたね。佐助様・・・・。」
闇。
それを切り取って現れた様に、貴方は姿を見せた。
私の尊敬すべき、師。
そして、私の愛すべき、死神。
「何で・・・戻って来ちまったんだよ・・・!?」
いつも決して私情を挟む事のない佐助様。
そして極力その心を悟らせる事のない貴方が、
今、私と対峙して如何にも切なげに眉を寄せている。
「佐助様。」
「・・・・こうして出会えば・・・・俺がアンタを殺さなきゃなんないってことは・・・分かってただろ!?」
搾り出すように言って、私を見つめる、貴方の瞳。
分かっています、佐助様。
貴方はずっと、遠くに逃げ延びた私を追わずに居て下さいましたね。
捜さずに居て下さいましたね。
けれどもう、何もかもが遅すぎた。
私の手は、とうとうかつての仲間をも、手に掛けてしまった。
貴方のその、目の前で。
貴方はもう、私を見逃す事が出来ないはず。
「師匠、貴方とこうして合間見える日、長く夢見ておりました。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「いざ!参ります!」
得物を構えて瞬時に移動した私を、
佐助様の瞳が隙を見せることなく捕らえる。
相手の速度、気配、動作。
それらを気取る術を私に教えてくださったのは、紛れもない、師匠、貴方。
覚えていますか?
私を受け入れ、認めて下さったあの日を。
初めて私をその腕に抱いて下さったあの日を。
暗闇に走る閃光。
金属同士のぶつかり合う音と同時に、
手にかかる得物の重み、繰り出される技の素早さ。
佐助様、今でも私は思うのです。
貴方と私、ただの女と男で出会えたら、どんなに良かったのだろうと。
けれど、それが夢物語なのだとも、私はやっぱり分かっていました。
貴方と私、忍びだからこそ、出会えたのだと。
「!退けよ、今なら俺はアンタを見逃してやれる・・・。」
「いいえ、佐助様・・・。それはもう無理だと分かっているはずです・・・!
足元に転がる屍を、ご覧になったでしょう?私が手に掛けた仲間達をご覧になったでしょう!?」
「・・・・・・・何だって・・・こんな事になっちまったんだよ・・・!!??」
悲痛な叫びと共に、それでも私達は攻めるその手は緩めない。
緩める事が出来ない。
数年離れていたとは言え、互いの手の内は知り尽くしている相手。
森を駆け抜け、闇に溶けては現れる。
忍術を駆使して、気配を殺して。
ザシュ・・ゥ・・・・ッ・・・
「くっ・・・っ・・・!!」
飛び散る鮮血。
私の脇腹を冷たく鋭利な刃が、肉を抉るように通過した。
瞬間、全ての音が私の耳から離れ、同時に灼けつくような熱い痛みが襲う。
眼前。
確かに自分の腹から出ているのその紅く、温かい、私の血液に目を奪われる。
思わず苦痛に顔を歪めて、それでも私はその命の欠片に視線を向け続けた。
数え切れない人間の命を手に掛け、かつての仲間をも葬った私。
それなのに、佐助様、私の血は、こんなにも綺麗な 赤・・・。
長い、長い、永遠にも思われたその一瞬。
その赤い鮮血の一粒一粒を確かにこの目にしたその一瞬。
しかしすぐに時は動き始めてしまった。
「っ・・・!!!」
音が戻ったその瞬間に耳にしたのは貴方の声。
両手で脇腹から溢れる赤い血を受け止めて、私は崩れ落ちるようにその場に膝をついた。
そうしながら、私に駆け寄る佐助様に視線を向ける。
「佐・・・助様・・・・。」
「・・・・・・バカが!!何で!?何で戻って来ちまったんだよ!!??」
クス。
唇が、知らず知らず、哀しく、歪んで笑っていた。
私は疲れてしまったのです、佐助様。
逃げ延びることに。
生き抜いて行くことに。
気付けば、ただ考えていました。
師匠、そして最愛の人。
ただの私になった今この時に、貴方の手に掛かって一生を終えるという夢を。
貴方にとっては残酷な。
私にとっては至福の夢。
佐助様、私の命の花弁は、貴方にはどう映っているのでしょう。
この儚く、だからこそ、美しい、こんなにも綺麗な 赤。
(終わり)
後書き
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
以前短編で書いたヒロインと佐助の会話をそのまんまネタ元にして書いてみましたが、
どうだいこれ、痛いとかそれ以前の問題でしょうか・・・。
何かポエムめいてる気もしますし。これ以上は言うまいて・・・。
では、ここまでのお付き合い、誠に有り難うございました!失礼します。
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