天守閣。
その一角で眼下に広がる伊達の敷地内を見下ろしながら、
は吹き付ける冷たい風に身震いをした。

「フン、その様な所でボケっとしおって、風邪など引いても知らんぞ、。」

不意に背後から声を掛けられ、はゆっくりと振り向く。

「政宗様、私はそんなに柔じゃないわ。」

彼女は風でなびいて顔に吹きかかる髪を、片手で耳にかけながら答えた。

「お前は暇があればここに足を運んでいるであろう、そんなにこの場所が気に入ったか?」

政宗は彼女の傍まで近付くと、手すりに手を置き空を仰ぎ見る。
はその彼の横顔を見つめた後、自らも青く澄んだ空に視線を向けた。

「そうね、ここはいつ来ても気持ちいいから。考え事をするにも丁度いい。」
「お前でも思案する事があるのか。」
「少年、あんたはやっぱり普通に失礼ね。」
「なっ・・・馬鹿め!何度言ったら分かる!?わしを少年等と称するでないわ!!」

空から彼女へと瞳を移し、政宗が声を上げる。
は彼の予想通りとも言える反応に、唇に笑みを浮かべた。
兄と同じく異国を思わせる独特の雰囲気を醸し出す彼女の面立ちは、
艶やかさと色香を持つ反面、微笑むと存外幼く、少女の様にも見える。
その笑顔を目にした瞬間、政宗は先程までの怒りを無意識の内にかき消してしまっていた。

「・・・フン、もう良いわ!」

彼はから目を逸らし、胸中の複雑な動揺を押し隠す。
彼女はそんな彼の心の内を知ってか、知らずか、また微笑して見せた。

「・・・ねぇ政宗様、私あんたに聞きたい事があるんだけど。」
「何だ?」

再びと視線を合わせた政宗に、彼女は暫くの沈黙の後、口を開く。

「私を伊達へ迎えると言ったあの初めて会った日・・・、私の返事を聞く前から馬の用意までしてたけど、
私が断るとは思わなかったの?それとも、兄上があんたの所に居るから断らないと思った?」
「馬鹿め!その様な下らん理由でお前の様な女がわしの軍に留まるとは思っておらんかったわ。」
「そう、じゃあどうして?」

真っ直ぐに彼の隻眼を見つめるの色素の薄い瞳は、日の光を受けて金色にさえ見えた。
政宗は真正面からその視線を受け止めたまま、答えを返す。

「・・・お前のその目は心から天下泰平を望み、それを作り上げようとしている者にしか出来ん目だ。
、お前も孫市と同じく、秀吉の天下を望んでおった者の一人であろう。
だが奴が没し、愚か者どもの手に渡った後は物の見事に破綻しおった・・・・。
わしならばお前の望んだ天下をくれてやれる。そしてあの時、お前もそれを感じ取っておったはずだ。」

「・・・だから、私が断るはずはなかった・・・と?」
「皆まで言う必要もなかろうが、そう言う事だ。」

政宗はそう言った後、口角を上げた。
は俯いて足元に目を移すと、不意に顔を上げ、また彼に微笑んだ。

「戦や天下取りについて語るあんたは、全く少年とは遠い所にいるのにね。」

からかう如くそう言って、彼女は今度は声を上げて笑う。
政宗は眉間にしわを寄せると、ジロリと彼女睨み付けた。

「貴様はどうしてもこのわしを子供扱いしたい様だな!
わしにそこまで無礼な口を聞く女は他にはおらんぞ。」
「フフ、それって褒め言葉?・・・だけど『少年』であることは、そんなにいけない事かしらね。
戦や国政ごとに関わっている時は別にしても、仕方ないと思うし、大事にすべきだとも思うけど。」

言いながら、彼女は手すりを両手で握り、眼下を見下ろす。

「フン、一国の主、それもこれから天下人となるわしが、『子供』であってよい筈がなかろう。
それに、お前の口からその言葉を聞くと、単にわしを馬鹿にしているようにしか聞こえんわ。」

政宗の台詞に、そう?と、彼女は肩をすくめて苦笑して見せた。
その刹那。
冷たい風が二人の間を吹き抜け、彼女の髪が耳からはらりと外れる。
そして絹糸の様な薄茶色の髪が、天に向かって舞い上がった。

「・・・。」
「何?」

舞い上がる髪を片手で抑えながら、彼女が短く返事をする。
政宗は不意に、その華奢な肩に手を触れた。

「戦場に置いてだけでなく、わしが十分成人と見なされて然るべき事、
お前のその身で証明してくれるわ。」
「・・・・え?・・・・・・・・・・・っ・・・・・」

瞬間。
問い返すの紅い唇を、政宗が自らの唇で塞ぐ。
咄嗟にびくりと体を震わせた彼女だったが、拒む様子は無かった。
否。
それのみならず、自ら艶やかな唇を誘うように微かに開き、
舌で政宗の唇をゆっくりとなぞる如く這わせる。
煽られたのだと受け取った彼は、の細い体に回す手に力をこめた。
密着した互いの体は、最早風が吹き抜ける隙間さえない。
そして更に口付けが深さと濃厚さを増す。
彼女の発する甘やかな芳香と、その唇に溺れそうになる自身に気付き、政宗はそれをねじ伏せた。
の体に絡めた腕を無造作に引き離すと、僅か弾む息を彼女に悟られぬ様に整える。

「・・・確かに・・・お世継ぎを残す為には、この手の方面も長けていないといけないもの・・・ね?」
「それが口付けを終えたばかりの女子が口にする言葉か、馬鹿め!」

彼女は濡れた唇に笑みを浮かべ、先を続けた。

「竜が発情したんじゃお相手の姫君はさぞかし大変でしょうに。」
「貴様と言う女は!」
「フフ、じゃあね、私はそろそろ兄上と約束があるから。」

そう言い残し、その場を離れようと歩き出した彼女が不意に足を止め、振り返る。

「ああ・・・そうだ・・・さっきの口付けだけど・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ほんの少しだけ、本気になりかけたわ。ほんの少し、だけどね?」
「フン!!」

くす、と、小さく笑い、は再び歩を進めた。
その背に、今度は政宗が声を掛ける。


「ひとつだけ言っておく!!わしはお前の望んだ天下をくれてやると言ったが、
秀吉の作った天下を再建する気はないぞ!わしは、わしの天下を作り、天かける竜となる!!」


彼女は振り返らぬままに政宗の言葉を耳にし、再度、唇に微笑を浮かべた。


「そうでなければ、私もついて来てはいないわ。独眼竜・・・政宗様。」



(終わり)



後書き
三成編と同じくやっぱり微妙にヒロイン優勢・・・。
左近の時はもう少しキャラに頑張って貰えるようにしよう。
そして今回も「馬鹿め!」乱用・・・・・・・。
では、ここまで読んで下さった方に深く感謝しつつ、失礼致します。


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