「俺の護衛兵だと?そんな話は聞いていないぞ。」
「そうでしょうね、つい先程決まったばかりだから。
それで私がこうして挨拶に来た訳。初めまして、三成様、雑賀 と申します。」
戦場。
持ち場に陣を張っている石田三成の元に突然謁見を求めてきた一人の女。
通常ならばこの状況で彼女の陣内への侵入を兵達が許すはずはない。
だが、彼女は誰に止められることもなく三成への目通りを許可された。
部下達の話によれば、彼女と共に彼等の主君である秀吉の妻、ねねの姿があったと言う。
そしてねねはこのと名乗った女を三成と会わせてやって欲しいと頼んだとのことだった。
「・・・それで、ねね様は俺に何も言わずにお前だけを置いて戻って行ったと言うことか?」
「ええ。自分が居るとあんた・・・・・・貴方は意地でも私をねね様に連れて帰れと言い張るだろうからと。」
「ふん・・・当たり前だ。」
答えた彼の眉間にしわが寄る。
不機嫌そうに彼女を見つめる視線が、ねねの言葉の意味全てを物語っていた。
そしてふと何かに気付いた様にして三成が再び続ける。
「お前、雑賀と言ったな。・・・つまり孫市殿と所縁のある人間だと言うことか?」
「ご名答、妹よ。ここに居るのも、普通にあり、な理由でしょう?」
返事と共に、の艶やかな唇が半円を描き微笑した。
彼女は兄、雑賀孫市と同じくどこか異国の雰囲気を漂わせた端正な面立ちをしていた。
しかしその笑顔は存外幼さを残しており、少女の様にも見える。
「秀吉様と旧知の孫市殿の妹君とあっては・・・さすがに邪険にも出来まい・・・、と言うところか。」
「もう十分邪険だと思うわよ、貴方は。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
沈黙。
それと同時に彼はジロリとに視線を向ける。
彼女は肩をすくめて見せた後、苦笑した。
「貴方の反応、分かりやすくて結構ね。だけどもうこの状態で私を・・・」
が先を続けようとした、その刹那。
兵の一人が慌てた様子で三成の元へと近づいて来ると、大声で彼に告げる。
「三成様!敵陣、動き出しました!秀吉様より、急ぎ、此方も迎え撃てとの伝令が入っております!」
「・・・分かった。」
静かに答え、三成は視線を再度、へと移した。
「こういう状況だ、これだけは言っておく。」
「何?」
問い返すに、彼はその隣を横切る一瞬、言葉を紡いだ。
「足手まといにだけはならぬ様気を付けてくれ。それ以上は望んでいない。」
言い放たれた台詞に含まれた侮辱。
だが、はさして気にした様子もなく小さく頷いて見せた。
程なく戦は開始され、三成等の持ち場である砦にも敵兵が次々と雪崩れ込んできた。
戦いが混戦を極める中、三成自らも奮戦する。
敵兵の殆どが彼に群がり、刃を向け、その首を取る為必死に襲い掛かって来ていた。
「力技で俺の義が揺るぐと思うな、カス共。」
冷静沈着。
微塵の動揺さえ見せず、彼は次々攻め入る敵兵を捌く。
しかし、決して余裕が有るわけではない。
既に彼の周囲は敵兵に取り囲まれている。
「三成様!」
刹那。
彼が名を呼ばれたと同時に銃声の連発音が砦内に大きく響いた。
一瞬にして三成の周りに居た敵兵達が鮮血を散らし、地に崩れ落ちる。
が彼の元へ近付いて来た時には、その場に立っている敵兵は僅かとなっていた。
「あの程度の者共、何と言うこともないがな。さすが孫市殿の妹君、銃の腕は確かと言うことか。」
「普通に凄い、でしょう?悪いけど三成様、雑賀衆の力はこんなものじゃないわ。」
言った彼女の背後に敵兵が襲い掛かる。
だが、は素早く銃口を自らの脇腹辺りから除かせ、
背後の兵に向けて引き金を引いた。
ズ・・・ォン・・・ッ・・・
「ぐっぁ・・・!!!」
弾丸は見事に敵の心の臓を貫通し、飛び散る鮮血と共に事切れる。
彼女は何事もなかったかの如く、再び先を続けた。
「これだけは、言っておくわ、三成様。」
先程の三成の口調そのままに、は言った。
彼の眉が一瞬ピクリと反応を示す。
「この戦で必ず、貴方に『それ以上』を望ませて見せる。
私の腕前、口では語らない、実力で語ってあげる。」
―足手まといにだけはならぬ様気を付けてくれ。それ以上は望んでいない。
今しがた告げられたばかりの三成の言葉。
無論、それを受けての台詞である。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
彼は無言でを見詰めていた。
瞬時。
は三成の背中へ回りこみ、またも襲い掛かる敵兵にその銃声を連発させた。
更に、腰に有る刀を抜き、此方へ迫っている敵武将に目を向ける。
突進する様に駆けて来た武将が大声で叫んだ。
「推して参る!!!」
は得物を構え、機敏な動きで敵の懐へと飛び込む。
不意を突かれながらも相手は刀を振りかざし、彼女に襲い掛かった。
ザシュゥ・・・ッ。
されど動きの鋭さはを上回らず、敵武将の脇腹を冷たい刃が通過する。
彼女は即座に後ろへ飛び下がり、距離を取ると自らへ向けられる攻撃を避けた。
刹那、の物とは違う、別の武将の得物が敵武将の胸元に止めを刺す。
「この程度で誇っていては、俺の軍にはおられぬぞ。」
「あんた、相当性格曲がってるわね。」
返した言葉とは裏腹に、彼女の唇には笑みが浮かんでいた。
三成が鉄扇を前へ突き出し、進軍の合図として声を上げる。
「砦は守り抜いた、次なる敵拠点を占拠する。進め!」
この後、豊臣勢は見事自軍を勝利へと導き、戦は終了した。
「どうじゃ、三成、はいい女子じゃろう?アイツは本当に可愛いしな。」
戦終了と共に秀吉の元へと呼ばれていた三成は、すぐに彼の元を訪れた。
彼を目にした第一声、ニヤニヤと口元を緩めた秀吉が発したのがこの台詞だった。
「・・・・・・・・殿、それは、どう言う意味で仰っているんですか?」
「そのままの意味に決まっとるだろう。アイツは孫市の自慢の妹だからな、
つまりじゃ!儂の自慢の妹分でもあるんさ!三成、だからこそ儂はアイツをお前に預けたいんじゃ。」
そこまで言い、秀吉はまたニヤリと唇に笑みを浮かべて続けた。
「普通にありじゃろ。」
「・・・・・・・・・・。」
三成は半ば呆れたような色を滲ませた視線で彼を見つめる。
そしてその瞳を離さぬまま、口を開いた。
「例えここで俺が断ったとしても、秀吉様だけでなくねね様も許してはくれないと言うことでしょう。
ならば俺はこの話を受けるしかない。」
答えた彼の言葉に、秀吉は満足げな表情を見せた。
「決まりじゃな、今日からは三成の護衛武将として正式に儂らの軍に迎え入れるぞ!」
「あはは!良かったね、お前さん。」
いつの間にかを連れて姿を見せたねねが、嬉しそうに秀吉に向け声を掛ける。
三成は僅か眉間にしわを寄せた。
「ねね様、最初からこれを計算なさっていたんでしょう。」
「うちの人がそう望んでたからね。ふふ、可愛いコがまた増えて、あたしは嬉しいよ!」
ねねはそう言うと、隣のの肩を軽く叩いた。
微笑した彼女が頭を下げて礼を述べる。
「秀吉様、おねね様、誠に有難うございます。雑賀衆頭、孫市が妹、、
必ずやお二人のご期待に沿える様全力でお仕え致します。」
「うんうん。やっぱり可愛いな、は。」
だらしない笑みを零す秀吉に、ねねがジロリと厳しい視線を向けた。
秀吉は慌てて顔の緩みを引き締め直し、再度、に向け口を開く。
「どうじゃ、。三成の第一印象は?」
その問いに、彼女は視線を秀吉から三成へと移した。
それに気付いた三成が、チラリと彼女に瞳を向ける。
は艶やかな唇に苦笑じみた笑みを浮かべた。
「普通に捻てる、と言う所でしょうか?」
彼女の返答を聞いた秀吉とねねが同時に声を上げて笑う。
三成は表情を崩さず、
その会話を耳にしながら心の内で戦中での彼女の台詞を思い出していた。
―貴方に『それ以上』を望ませて見せる。―
不意に、ふっ、と、三成が僅かに口角を上げる。
彼がに『それ以上』を望む日は、
既にそう遠くはないのだと三成自身感じていた。
(終わり)
後書き
・・・・あの、一応これシリーズであって連載じゃないつもりです。
1話完結型にしたい、希望です、願望です。
しかし三成・・・む、難しい!!これから精進を重ねてまいります!
そして今回は三成がまともに名前を呼んでいなくて大変申し訳ありません。
では、これを読んで下さったと言う方、誠に有難うございます。失礼します!
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