ズ・・ゴォ・・・ン。
響き渡る銃声。
そしてそれと共に打ち抜かれた的の中心。
側で見ていた秀吉が即座に賞賛の声を上げる。
「さすがじゃな、!惚れ惚れする腕前じゃ!」
「俺の妹なんだ、当たり前だろう?」
秀吉の隣に居る孫市はそう言って誇らしげに口元を緩めた。
彼はの側まで近付くと、彼女の肩に手を置き、更に続ける。
「こんなに美男美女の兄弟は滅多にいないぜ。
素敵な男は身内も勿論素敵って訳だ。まさに完璧だな。」
「・・・兄上は相変わらずよく回る口だこと。ま、私が素敵なのは否定しないけど?」
それまで黙って彼等の会話を聞いていたはそう言い、微笑と共に孫市に視線を向けた。
そこへ赤と白、そして背中の大一大万大吉の文字が印象的な、
陣羽織を身に着けた端正な顔立ちの男が彼らの元へ近付いて来る。
彼は秀吉に視線を向け、口を開いた。
「秀吉様、お呼びですか。」
「おお!来たか、三成!」
秀吉は笑顔を見せると、彼の傍まで歩いていき、その肩にぽん、と手を触れる。
「孫市、コイツがの上官じゃ!儂が信頼を寄せとる誇るべき武将と言ってもいい。
三成、もう知っとるじゃろうが一応挨拶しとけ。」
そう言われた三成が視線を孫市へと向け、一礼する。
「お久し振りです、孫市殿。それにしても・・・貴方の妹君は随分と豪気でいらっしゃいますね。」
彼は無表情のまま皮肉とも取れる台詞を口にした。
孫市の眉間が一瞬ピクリと反応を示す。
「おやおや、繊細な美女を前にそれはないんじゃないのか?
秀吉、コイツ前々から思ってたが、普通に口が悪いな。」
「はは!ま、そう言うな。こう見えても三成はを気に入っとるんじゃ。」
笑顔で返した秀吉の言葉に、孫市は更にジロリと三成に視線を向けた。
「気に入ってる?おっと、そりゃ困るな。俺の可愛い妹に手出ししたら痛い目みるぜ?」
「兄上・・・、そういう台詞、三成様に言うのは止めた方がいいわよ。」
は半ば呆れた様な口調で言い、三成を見やる。
三成はフン、と、鼻を鳴らして笑った後、口を開いた。
「俺にも択ぶ権利があると思いますが。」
その答えに、はほらね?と、肩をすくめて苦笑して見せる。
三成の護衛武将として豊臣の軍に加わって数ヶ月、彼女はもう十分彼の性格を把握していた。
「おいおい、それはどういう意味だ?
こんな花も恥らう可憐な姫君とも言える相手に、不満があるって言うんじゃないだろうな?」
「・・・・・兄上、自分で言ってて恥ずかしくないの?・・・反対に私の方が恥ずかしいわ。」
雑賀孫市。
自由と女を愛する彼だが、そこに不可欠となっているのが実の妹であるだ。
事、彼女が絡んでくると、孫市は必要以上に熱を注ぐのだった。
秀吉が三成の肩に置いたままの手で、再度、彼を諭すように軽く2,3度叩いた。
それに対し、三成は軽く溜息を吐く。
「・・・俺には勿体無い、そう言う事ですよ・・・。」
「そうか、ま、そう言う意味でなら許してやってもいいかな。」
満足げに頷く孫市を尻目に、はチラリと三成に瞳を移した。
そして隣の兄に気づかれぬ様に唇だけを動かし、彼に抗議する。
『嘘吐き。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
無表情のはずの三成の眉間が、僅か、ピクリ、と反応した。
だが、秀吉も孫市もそれに気づいては居ないようだった。
「さぁてと、そろそろ仕事の話にしようや!孫市。少し向こうで話すことになるが、ええか?」
「ま、ダチの依頼じゃしゃーねぇか。だが、ビタ一文負けられねぇけどな。」
「承知の上じゃ!思いっきりコキ使ってやるから、覚悟しとけ。」
言った秀吉が、三成の肩から孫市の肩へと手を移し、
軽く小突く様に彼を押した。
「感動の再会が出来て嬉しかったよ、。俺はちょっとコイツと話があるから、また後で会おう。」
「了解。」
は短く返事をし、彼に微笑して見せる。
孫市はだらしなく笑みを返すと、再び三成に瞳を合わせた。
「俺の秀麗な妹を宜しく頼むぜ。勿論、きちんと距離を取った上でな。」
「・・・・・・・・・承知しております。」
三成は無愛想に答えると、小さく溜息を吐いた。
やがて秀吉と孫市は共にその場を後にし、三成とは二人だけとなった。
「兄上を敵に回すと煩いから、上手いこと言って逃げたわね。」
「フン・・・あの場合、ああでも言わなければ秀吉様の機嫌も損ねかねぬからな。」
「ふふ、まぁね。愛されてるから、私は。
だけどあんたが兄上の半分でも女好きでいてくれれば、もっと面白い口喧嘩が楽しめたのに。」」
からかう如くそう言うと、彼女はニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「フン・・・下らぬな。女等にうつつを抜かすほど、俺は暇ではない。」
「はいはい、そうでしょうね。あんたの反応は大体想像ついてたわ、三成様。」
は肩をすくめて言った。
「あんたの事、最初よりは分かってきたから。」
それから再度、彼女は三成に視線を合わせて微笑みを向ける。
半円を描く艶やかな口元と相反し、彼女の笑顔はやはりどこか幼さを残した少女の様だった。
彼女のその笑みを目にする度、三成の胸は不自然な鼓動の速さを生み出す。
だが、彼は今まで決してそれを表に出した事はなかった。
否。
自身の中でそれを認めてはいないのだった。
「唯の数ヶ月で見極められるほど、俺は単純ではないがな。」
三成が彼女に対し口にした言葉はやはり無愛想で何処か険がある。
しかしはさして気にしている様子はなかった。
「それはそうね。別に全ての反応をお見通しになれた訳じゃないから。
あんたのことで、最近少し興味が湧いたことがあるわ。」
「・・・何だ?」
怪訝そうに聞き返す三成に、彼女は辺りを警戒するように視線を回りに走らせた。
だが、秀吉達が去った後は人の気配は感じられない。
はそれを確認すると、未だに僅か眉間にしわを寄せている彼に近づいた。
「?、お前、何を・・・・」
彼の口から紡がれた言の葉は、そこで不意に遮られる。
花弁を思わせる艶やかなの唇が、三成の唇に重ね合わせられた。
刹那。
甘い果実にも似た芳香が、彼の鼻腔を掠める。
そのまま瞳を閉じてその口付けに応えたいと願う衝動に駆られ、彼はそれを抑え付けると、
の肩を掴んで半ば引き剥がす如くして距離を取った。
「・・・貴様、どう言うつもりだ?」
微かに怒りを滲ませた声音で三成はに問う。
彼女はジッと彼の表情を伺うと、紅い肉感的な唇に再び笑みを浮かべた。
「そう。そう言う反応をするのね。」
小さく頷いてそう口にすると、彼女はそのまま彼に背を向けて遠ざかって行こうとする。
「、待て。」
呼び止める三成の声に彼女は振り返ると、微笑を浮かべたまま答えた。
「これからもっと観察を進めさせて頂くわ。」
はそう言い残し、またも彼に背を向け歩いて行く。
三成は彼女の意図を理解することも出来ず、ただその背中を見つめるしかなかった。
ふうわりと彼の体を包む風は暖かく、何処か心地良い。
未だ生々しく唇に残るの甘やかな唇の感触を確かに感じながら、
三成もまた、その場を後にするべく歩き出したのだった。
(終わり)
後書き
・・・えーと、攻めのヒロインか?これは???
何でしょうね、左近とねねの章の三成が印象的でこんな事に。
しかも三成やっぱり凄く難しいし。孫市も何だか微妙だな。でも頑張りました。
という事で、ここまで読んで下さった方、誠に有難うございます。失礼します。
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