、今夜は貴様の室へ足を運んでやる。
掃除でもしてせいぜい俺に不快な思いをさせぬ様気を遣っておくのだな。」
「・・・・・・・・え?」

不意に三成にそう告げられた、その刹那。
は驚いた様に瞳を見開き、問い返した。
その様子に彼は僅かに眉根を寄せ、再び口を開く。

「フン、何だ?その間抜けな顔は。お前への褒賞はまだ与えていなかっただろう。
・・・・・・・俺はあの時の約束を果たしてやると言っているのだ。」

視線を彼女から逸らし、不機嫌な表情そのままに、三成は続けた。
は彼の横顔をじっと見つめ、やがて肩をすくめて苦笑する。

「あんたからその話を持ち出してくれるなんて思ってもみなかったわ、三成様。
それに・・・それはもっと先になると思っていたから、少し意外だったのよ・・・。」

関ヶ原の戦いでほぼ奇跡的な勝利を収めた西軍。
されどその後も天下は安定を見せず、油断を許さない状況にある。
時期、程なく次なる戦が勃発し、それこそが決戦となろうことは誰もが予測していた。


「・・・・今だからこそ・・・俺自ら貴様に声を掛ける気になったのかもしれぬな・・・・・・。」


半ば独り言の如く呟く三成に、は無言で視線を送る。
やがて彼は彼女に背を向けると、今度はハッキリと口にした。

「今夜だ・・・。お前は室で大人しく待っているがいい・・・。」
「・・・ええ・・・・分かったわ。」

三成の陣羽織の背に描かれた大一大万大吉の文字をジッと見つめながら、
彼女は小さく頷いて返事をした。
小雨の降る肌寒い夕刻だった。




深夜。
夕刻からの小雨は雨脚が強まり、本降りと化していた。
三成はの室で足を止め、声を掛ける。

、俺だ・・・入るぞ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・?」

室内からの返事は無い。
だが、襖の内側に彼は確かにの気配を感じとる事が出来た。


―スッ。


片手で襖を開け、室内を見渡す。
その隅で、机に突っ伏す様にして寝息をたてている彼女の姿を捉えた。
手元には杯と徳利が置かれている。
正面にある障子は開いており、雨が降り込んで来ている様だった。

「・・・・だらしのない奴め。」

呆れた口調で漏らし、彼は静かに室の中へと足を踏み入れる。
行灯で照らされたの寝顔は、笑顔を見せたときと同じく、
幼さを残した少女を思わせた。
三成は彼女を起こさぬ様にそっと障子を閉めると、その隣へ腰を下ろした。
未だ目覚める様子の無い彼女の髪へ、彼は手を伸ばし、触れる。
本来ならば契約期間はとうに切れ、この城に居るはずの無い存在。
東軍との戦が開始され、苦境に立たされながら、
三成はへの想いに蓋をしたまま手放す事を決めた。
だが、彼女は自らの意思でこの城に留まる事を選んだ。


・・・お前と言う女は、どこまでが誠なのか・・・・・・戯れなのか・・・、
全く読めぬ・・・・・・・この俺が・・・・・・・・・。


「・・・三成様・・・・?」
「っ!?」

不意に、閉じられていた筈のの瞼が上がり、彼の名を呼んだ。
虚を突かれた三成は、一瞬の後、眉間にしわを寄せて答えた。

「一人で酒宴の上、居眠りとはいいご身分だな、。」
「・・・来ていたのなら、起こしてくれて良かったのよ・・・?」

幾分か拗ねた様な表情で彼女は言い、身を起こす。
三成は僅かに口角を上げて笑った。

「男を待つ女の姿には到底見えぬな、お前は。」
「あら、出迎えて欲しかったのかしら?これでもかなり粘ったのよ。」

はそう言うと、彼を見上げたまま微笑んだ。
同時に艶やかで扇情的な唇が彼を誘う如く弧を描く。
三成は吸い寄せられる様にして、その唇へ向けて身を屈めた。
互いの唇が触れ合った刹那、は彼の後頭部へと腕を回し、
自ら口付けを深いものへと促す。
やがて重なり合った二人の口内の奥から、艶かしい水音が響いた。
三成の手が彼女の帯紐に触れ、ゆっくりと解く。


シュル・・・。


僅かに唇を離したもまた、彼の帯紐に手をかけた。
衣擦れの音と互いの唇を貪る水音が、室内に大きく響く。

「珍しく性急ね・・・?ふふ、情熱的なのは大歓迎だけど。」
「・・・・・・・フン・・・既に息を荒くしているお前がそれを言うのか・・・。」


クス。
が苦笑じみた笑みを零した。
三成が彼女の着物の最後の一枚に手を触れる。
彼自身も彼女の手で衣服を乱され、上半身はほぼ肌蹴させられている状態だった。
白く、繊細なの指先が、つ、と、彼の肌をなぞる如くして滑る。


―ハラリ


三成が彼女の着物を畳へと落した。
刹那、露になる珠玉の肌。
彼はをゆっくりと畳へ押し倒してゆきながら、
その豊満な膨らみに口付けた。
三成がに覆い被さると同時に、彼女の肌へと彼の色素の薄い髪がさらさらと降り注いだ。
はそれに手を伸ばし、彼の頭を抱きこむ如くして髪に触れる。

「羨ましい程・・・綺麗な髪質・・・・・・・・。」
「それは男への褒め言葉にはならぬぞ。」
「ふふ、そう?それは御免なさい・・・。」

は自身の胸元に舌を這わせている彼の髪に指を絡め、小さく笑った。

「・・・随分と余裕だな・・・。」

不機嫌そうな表情と共に、彼は彼女から微かに距離を取ると見下ろす如くして言った。
三成の髪に手を触れたままの彼女は、ジッと彼を見つめ返す。

「・・・緊張しているの・・・と言っても、信じてはくれないんでしょうね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

無言でと視線を合わせる彼に、彼女は再度、笑みを浮かべて見せた。

「あんたには分からないわ、きっと・・・私が・・・どれだけ・・・・、
あんたに触れて欲しくて堪らなかったかなんて。
わたしにとって、この約束の『褒美』に・・・どれだけの重みがあるかなんて。」
・・・お前は・・・。」

何事か言いかけた三成の唇を、不意にが掌で塞ぐ。

「三成様・・・今は何も言わずに、ただ貴方を私に頂戴。
貴方との一夜・・・私に・・・・・・・・・。」

彼女はゆっくりと掌を彼の唇から外し、そして自らの唇を重ねた。
同時に、寸分の隙間も空けぬ程、肌と肌とを密着させる。
の滑らかな肌と柔らかな胸の膨らみが、彼の本能をふつふつと滾らせた。


外では雨が恐ろしい勢いで降りしきっている。

空を走る青白く鋭い閃光。


それは三成との抑えられぬ想いの激しさを表している如くにも見えた。



(終わり)



後書き
な・・・何だか中途半端な感じに終わってしまった!
しかもこんな状況にあっても結局告白シーンとかなしだし(苦笑)
一応ヒロインが言っている、と言えば言ってる・・・か??
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有難うございました!
失礼します!!!


ブラウザバック推奨