「へぇ、君・・・もしかしてよく噂に聞く闇椿?
話には聞いていたけど、綺麗な顔をしているねぇ。
でも僕には分るよ、綺麗なのは顔だけじゃないって・・・。
うん、凄くいい香りがする・・・。」

怒号と鬨の声の上がる戦場。
刀と刀のぶつかり合う鋭い金属音と、銃声とが入り混じり、
更に戦場独特の空気が周囲を満たしている。
敵も味方も死力を尽くし、文字通り命を削り、命を賭し、鮮血を散らす。
その中では自軍の兵を鼓舞する如く鮮やかに敵兵を捌いていた。
そして、手はず通り敵の拠点の一つを沈める為、
移動を開始しようとしていたその時。
その男が姿を見せたのだった。

「・・・佐々木・・・小次郎・・・。」
「あれ?僕の名前を知ってるんだ?
嬉しいなぁ。お礼に特別綺麗に斬ってあげるよ。」

無邪気とすら言える口調で小次郎は言い、静かに抜刀した。
スラと抜かれた刀身は既に血に塗れ赤く染まっている。
白く透き通る様な彼の面は妖しい程に青白く、
現離れした陽炎の様な殺意が純粋な恐怖と戦慄を煽った。
だが、は臆することなく、一歩、前へと踏み出した。

「いいえ、結構よ。先を急ぐの、そこを退きなさい。」
「いいねぇ、君・・・。うん、凄く綺麗だ。それに強者の匂いがする。
武蔵とは違うけど、凄くいいよ。」


―――シュッ


「っ!!」


喜々とした声音で彼はそう告げると、恐ろしい俊敏さでに攻撃を仕掛けた。
彼女はほぼ紙一重でそれを自らの大剣で受け止める。


ギン。


響く、金属音。
更に、鋭く的確な小次郎の攻撃が矢継ぎ早に彼女を襲う。

「ックッ・・・!」
「その大きな剣でよく僕の攻撃が凌げるよね、フフ・・・凄いよ、ぞくぞくする。
ねぇ、君も可哀相な人たちを助ける為にその剣で人を斬ってるの?
何かに苦しめられて、何かを背負わされて、皆皆可哀相だよね、ねぇ、そう思わない?」

呼吸一つ乱さず、攻め手を全く緩めぬ彼は、に語りかける如くして言った。
小次郎の瞳の奥に見えるは虚空の闇。
吸いこまれてしまいそうな錯覚さえ起こさせる。
は唇を噛み締め、彼に劣らぬ素早さで攻撃を防ぎ続けた。


「私の剣は、支える為にある・・・っ・・・!」


言いざま、は自らの得物を小次郎の脇腹へと突き入れた。
刹那―――

「・・・・おっと、危なかった、ふふ・・・斬り合いって楽しいよね。
君とこうしてると、武蔵とは違う楽しさを味わえるみたいだ…。」


素早く後方へ飛びずさり、彼は同時に微笑する。
は再び体勢を整えた。

「・・・あんたの剣は・・・とても悲しいわね、小次郎・・・。」
「え?僕が?どうしてさ?僕は可哀相な人たちを助けてあげてるんだ。
脆くて弱い皆を助けてあげてるんだよ。
だって剣は人を斬る為のものなんだから、正しく使ってあげなくちゃ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」



――――どうしても倒さなきゃいけねぇ相手が居んだ。
俺の剣の意味を、ソイツに見せつけてやらなきゃいけねぇ。
でなきゃ・・・・でなきゃアイツは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



「――――悲し過ぎる・・・・。」


不意にの胸中に去来する、彼女の友人、宮本武蔵の言葉。
彼女はこの時彼の言葉のその意味を身をもって理解した。
悲しい、哀しい人斬り。
純粋過ぎるが故に、この佐々木小次郎と言う男には、何かが欠如してしまっている。

「ねぇ、君の名前を教えてよ。僕の名前は知っているんだから必要ないよね。」
「・・・・・・・・・・・・。」
・・・か、言い名前だね。ふふ・・・、安心して、僕が綺麗に斬ってあげるよ。」

そう口にしたと共に、再び小次郎が彼女に襲いかかろうと剣を振りかざした、
瞬間――――――――――――――

「・・・!武蔵だ!武蔵の匂いがする・・・!
ああ、嬉しいよ、武蔵。やっぱりここにも表れたね。
あ・・・ごめんね、、僕は行かなくちゃいけない。武蔵と斬り合わなきゃいけないから。」

へと向けた刃をピタリと止め、瞬時にして彼女と距離を取る。

・・・君とはまた会いたいな・・・。ふふ、次を楽しみにしてるよ。じゃあね。」

彼女はただ無言で彼の青白い顔を見つめていた。
やがて小次郎は名残惜しげにその場を後にする。


「可哀相な人・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


小さく一言呟き、は虚空を見つめた。


(了)



後書き
小次郎EDを見てから思いついた話でした。
いやはや、よもや私が小次郎を書くことになろうとは、自分でも驚きです。
実は苦手な部類のキャラだったんですが、ストーリーモードで見方が変わりました。
スランプ気味で文章が思うように書けない状態だったんですが、
どうしても書いてみたくて執筆。
ここまでお付き合い下さって有難うございます。では失礼します。


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