執務室。
一人、仕事をこなしていた三成は不意に人の気配を感じ、筆を止めると顔を上げた。

「三成様、です。入っても宜しいですか?」

襖の向こうから聞き慣れた声が聞こえ、三成は筆を置く。

「ああ。」

彼の短い返事と共に、襖が開けられ両膝をついた半ば正座に近いが姿を見せる。
彼女は室内に入ると、また両手で襖を閉めてから三成のすぐ背後まで近付いてきた。

「深夜に及ぶ執務、大変お疲れ様でございます。」
「この程度、疲れの内には入らぬがな。」

三成の答えに、は苦笑する如く微笑んだ。
彼は再び筆を手にする。

「後少しで片付く。、待てるか?」
「はい。」

彼女が頷いたのを確認すると、三成は手元の書状に筆を走らせ始めた。
さらさらと筆が紙を滑る音が静かな室内に響く。
はその背中を見つめながら、不意に口を開いた。

「・・・・三成様・・・私は・・・お聞きしたいことが・・・。」
「何だ?」
「あ・・・・・!いえ、申し訳ありません。お仕事が終わってからで結構です。」

心の内の呟きをうっかり口に出した事に気付き、彼女は慌てて返事をした。
だが、背を向けたままの三成が、先を促す。

「いや、今聞こう。最後の書状だ、すぐに終わるからな。」
「・・・・・・・・・では・・・・・・申し上げます・・・・・・。」

言って、彼女はその後少々間を置いて彼の背中に向けて再度先を続けた。


「三成様は・・・私と一緒に居て・・・楽しいですか?」


ピタリ。
一瞬、三成の筆が止まる。
彼はに背を向けたまま答えた。

「聞きたいこととはそんなことか。下らぬな。」
「・・・・・下らない・・・、ですか?ですが・・・私は・・・。」
「何だ?」
「三成様は、私と居るときより・・・兼続様や幸村と一緒に話をしている時の方が、
ずっと楽しそうに見えるのです・・・。だから不安になる・・・。」

返した彼女の声は小さく、頼りなげな響きを持っていた。

「兼続も幸村も我が同士。掛替えのない友だ、基よりお前と比べる対象にはなるまい。」
「・・・・・そうですね・・・。」

はそう同意の言葉を口にしたが、表情は複雑な物を宿していた。
だが、背を向けている彼はそれに気付いていない。
彼女は三成の背から僅かに瞳を逸らし、そのまま俯いた。
さらさらと書状をしたためる音がまたしても室内を支配し、互いに無言の時が続く。
先に口を開いたのは三成だった。

。」
「はい・・・。」
「お前は先ほど、幸村を呼び捨てにしていたな。だが兼続には敬称をつけていた。何故だ?」
「・・・・えっ?」

は顔を上げ、思わず問い返す。

「何故だと聞いている。。」
「幸村は・・・私の亡くなった兄と似ているのです。それで・・・それを申し上げたら・・・、
呼び捨てにしてくれて構わないと・・・。」
「そうか・・・。」

何処か安堵した様にも聞こえる三成のその声音に、彼女はその背をじっと見つめる。
この状態では互いの表情は全く見て取れず、彼の質問の底にある意味も彼女は気付いていなかった。
三成は筆を硯の側へ置き、書状の確認を済ませると、やがて、の方へと振り向く。

「待たせたな。今日の仕事は終わりだ・・・・どうした?。」
「三成様・・・やはり私は・・・お言葉を頂かなくては不安です・・・。
私は貴方のお側に居ていい女子だと、自惚れてもいいのですか?」

真っ直ぐに彼の瞳を捕らえるの眼差し。
三成は驚いた如くして僅かに目を見開くと、すぐにその視線を逸らす。

「三成様・・・?」
「この俺が・・・愛情も持たぬ女を側に置く筈があるまい・・・、だから下らぬと言うのだ・・・。
俺は・・・・・・・その・・・お前には心底惚れているのだからな・・・・・・・・・・。」

微かに頬を赤くし、語調を和らげた彼がと瞳を合わさず答えた。
その姿は平生の皮肉や曲がった言い方とは違う、まだ大人に成りきれない少年の様にも見える。
三成がちらりと視線を彼女へと移すと、はこの上なく嬉しそうな笑みを浮かべて答えた。

「私も、心から三成様をお慕いしております。三成様だけを。」

笑顔と共に、彼女が三成の手を取り指を絡めてきた。
白くしなやかな指先に微かに力をこめ、は彼を見上げて再び口元をほころばせる。
瞬間、甘やかな華の香りにも似た芳香が、彼の鼻腔をくすぐった。
耐え切れず、三成は空いている片手で彼女を引き寄せる。

「三成様・・・。」
「俺の心も、身体も、ここまで揺さぶりをかけられる女はお前しか居らぬ。
それだけは如何なる時であろうと忘れるな、。」
「はい・・・・・・。」

微笑む彼女の唇に、三成は自身の唇を重ね、深く口付ける。

絡めた互いの指先から、そして唇から、二人は想いが繋がる瞬間を見たのだった。


(終わり)



後書き
三成・・・・・・・・む、難し過ぎる!左近とかやってると以外に可愛い一面とか見れるので、
単に捻くれた性格って訳でもないのだと思うのですが・・・。難しい・・・・。精進あるのみですね。
では、この作品を読んで下さった方に深く感謝しつつ失礼します。


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