ズ・・・キュゥ・・・・ン。
ズォォン。
ド・・・ゴォォォン・・・

月明かりだけを頼りに狙う的の中心。
暗闇に連発する銃声音。
それら全てが見事に命中した事を物語る如く、
的の中央の弾によって打ち抜かれた穴は唯ひとつ。
は遠く離れた的に向けていた銃口をゆっくりと下ろし、小さく息を吐く。

「やるねぇ、さすがは孫市殿の妹君だ。」

背後からそう声を掛けられ、彼女は声の主の居る方へと身体を向けた。

「これは左近殿、お褒めに預かり光栄ですわ。
ですが、私の腕が立つのと兄上とは別だと捕らえて下されば、
もっと素直に喜べたのですけど。」

整った紅い唇に艶やかな笑みを浮かべ、彼女はそう口にした。
左近はの傍まで歩を進めながら、苦笑をしてみせる。

「そりゃあ、悪かったな。確かに、アンタの銃の腕は一級品だ。
孫市殿の妹君だと言うのを差し引いてもな?」

答えた彼の台詞には大げさに満足そうに頷く振りをした。

「有難う。」
「相変わらず面白い娘さんだ。」
「ところで左近殿、こんな時間、こんな所に何の御用かしら?
確か城では今夜宴が開かれているはずだわ。行かなくていいの?」

彼女は訊ねながら片手にある銃を太腿の革袋へと収める。
その刹那、チラと月明かりを浴びて見えたしなやか彼女の脚に、
左近は思わず目を奪われた。
散々見慣れている筈の、尚且つたった一瞬見えただけの女の肌。
それに心臓が跳ねた気配さえする。
まるで10代の若造の様な反応を示した自分自身に心の内で苦笑しながら、
彼はの問いに返答した。

「今日の宴の主役には始まる前に挨拶したさ。ま、宴自体にもちょいと顔を出す位はしたがね。」
「お酒好きの左近殿が『ちょいと』で済ませたの?勿体無い。上物のお酒も出たでしょうに。」
「へっ、そう言うはどうなんだ?噂じゃあんたも相当イケる口らしいじゃないか。」
「フフ、バレてた?」

微笑して答えたは肩をすくめる。
そして彼女はそのまま先を続けた。

「だけど今日は何だか飲む気分じゃなかったのよね。と言うか、宴と言うのが普通に苦手なのよ。」
「ほぉ、そりゃ大人数で飲む酒は苦手って意味かい?」
「そうね、嫌いじゃないけど・・・・どちらかと言えば少人数か一人で飲む方が好き。」
「なら丁度いい、ここで二人で酒盛りと行こうや。」

言った左近が何処に隠していたのか酒瓶を取り出し、掲げてみせる。
更に空いた片手にはいつの間にか杯が2つ握られていた。
は一瞬驚いた様な表情で彼を見る。

「呆れた・・・。もしかしてその為にわざわざここまで来たの?
宴に出れば綺麗どころも揃えられてたでしょうに。」
「言ってくれるね。だが、あんたも十分綺麗どころの内に入ってるぜ?」
「そうね、それは否定しないわよ。」
「クッ・・・本当に面白い娘さんだ。」

会話を交わしながら、二人は先程の場所から少々離れた所に揃って腰を下ろした。
左近が杯を彼女に渡し、すぐにそれに酒を注いだ。
同時に芳醇な酒の香りが彼らの周囲を満たす。
なみなみと注がれた酒に、夜空の半月が反射して煌いた。

「実は飲むのはかなり久し振りなのよ。あー、いい香り。」
「そりゃそうだろう、あんたの言ってた上物の酒を拝借して来たんだ。
久し振りに口にするには丁度いいだろうぜ。」
「拝借・・・ね・・・。フフ、左近殿に感謝しないと。」

二人は互いに杯を軽く掲げ、それを同時に口に運ぶ。

「それにしても・・・左近殿も物好きね・・・。」

ぼそり。
と、半ば独り言の様には呟いた。
左近は酒を一気に飲み干した後、隣の彼女に目を向ける。

「物好き?俺がかい?」
「そうよ。知ってるわ、貴方が存外女性に人気があること。
それから今日の宴、さっきも言ったけれどかなりの綺麗どころが揃っていたはずよ。
何も夜に戦でもないのに硝煙の臭いさせてる女を選ぶこともないのに。」

言い終えると、は彼と同じくグイと酒を喉へ流し込んだ。

「存外ってのが気になるが、ま、俺ほどの男だ、確かにそれなりに慕われちゃいるさ。
だが物好きってのはないだろう。
、俺も今し方口にしたが、あんたも綺麗どころの内に十分入るぜ。」
「それは否定しな・・・・・って、さっきと同じやりとりになってるわ。」

彼女は苦笑し、手元にある酒瓶を持ち上げて彼の杯を酒で満たした。

「そりゃあんたが同じ質問振ってくるからだろう。」
「そうね。ただ、ちょっと気になったの。」

今度は左近がの手から酒瓶を受け取り、彼女の杯へ酒を注ぐ。

「気になる?」
「傭兵風情の私相手に何を望んでいるのかと。」
「男としての興味ってのは却下かい?あんたは十分魅力的だぜ。」
「・・・そこよ。」

短く口にし、はジッと彼を見つめた。
そして杯の酒を一口飲んだ後、また先を続ける。

「兄上もそうだけれど、毛並みの違う女を見つけてそれを落として喜ぶのが男の常。
・・・・・・・・・・・・左近殿、貴方も・・・・・・そうなの?」
「ははは!ま、確かに若い時分にそう言う事をしなかったかと言われれば、否定は出来んがね。
今の俺はそれ程冒険家でもないぜ?地に足を着いたやり方でしか、女に興味を持ったりせんさ。」

ふぅん?と、は曖昧に答え、再び杯に口を付けた。

「私も興味がない訳ではないのよ。
遊郭遊びにも慣れていて、城内外の女性にも人気がある貴方の・・・。」

そこで彼女は言葉を切り、不意にその細い片腕を彼へと伸ばしてきた。
そして、桜貝を思わせる爪先で左近の唇に軽く触れる。

「巧みであろう技に?」

クス。
と、笑んだ口元はこの上なく妖艶で、月明かりはそれを十分に引き立てていた。
左近はその指先に吐息を吹きかける如くしながら、口を開く。

「何なら、試してみるかい?俺としちゃ、大歓迎だがね。」

ニヤリ。
彼が唇に薄い笑みを浮かべた。
は無言のまま彼を見つめ続け、やがて彼の唇に乗せている指先で、つ、と、その淵をなぞった。
左近はその白い手に大きな掌を重ね、ゆっくりと地面へと下ろす。
徐々に彼女の長く艶のあるまつげが伏せられた。
沈黙は続き、彼がの紅い唇へと自らの唇を押し当てる。
彼女が唇を微かに開くと、左近の舌がぬらりとそこへ入り込んだ。
互いの熱い吐息が重なり合い、舌が絡まり合う。
彼女の舌を締め付けては巧みに口内を蠢く彼の舌は、軟体動物を思わせた。
互いの口内に再びつい先程まで飲んでいた芳醇な酒の味が広がる。

「・・・・・・・・ふ・・・ぅ・・・。」

溜息とも取れる小さな声がの唇から漏れ出た。
いつの間にか彼女の後頭部へと回されていた左近の手が、やがてゆっくりと離れる。
は彼の唇を伝って顎へと流れそうになった唾液を舌で舐め取った。

「こうやって、女性をそのまま極楽浄土へ誘うのね?」

濡れた唇に妖艶に微笑を浮かべ、彼女はそう口にした。

「食えない娘さんだな、たった今俺の意識を持っていこうとしたのはどっちだ?」
「フフ・・・そう?嬉しいわ。
でも・・・そうね、すぐに堕ちてしまう城では・・・軍略家の左近殿には退屈でしょう?」
「さてね、それは時と場合にもよるってもんだが。」

苦笑する左近を前に、は月を背にし、スッ、と、立ち上がる。

「美味しいお酒と、素敵なひと時を有難う・・・・・。」

そのまま踵を返し、彼女は小さく付け足した。

「本当の意味での大人の男には敵わないわね・・・。危ないところだった・・・。」

左近がそれに何か反応を示すより早く、彼女は足早にその場を去る。
彼はその背を見つめた後、手元の杯に視線を落とした。
煌く半月が映り込んだ酒。


「思った以上に手強い相手だぜ。さて、どう攻めるかねぇ。」


独り言を口にし、彼はまた、杯を傾けた。


(終わり)



後書き
あら??あらら??相手キャラが変ろうと、年上だろうと下だろうとヒロイン・・・。
でも私の中ではあくまで左近の場合は彼が優勢だと思っています(苦笑)
しっかし左近も難しい!!!途中で何度も息切れしました。
ではでは、ここまでのお付き合い誠に誠に有難うございます。失礼します。


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