「あんたから誘ってくれるなんざ珍しいねぇ、何かあったのかい?。」
「・・・・いいえ・・・特に何があった訳じゃないけど・・・。
独り寝が寂しい夜・・・と言うのは・・・あるものでしょう?」

そう口にしながら、は身に着けていた最後の着物を自らの手でハラリと畳へ落とした。
そして全裸になった彼女は、さして恥じる様子も見せず、左近の元へと近づいていく。
彼は最近ようやく見慣れ始めた、だが決して飽きることのない、
その艶やかでしなやかな曲線を描く彼女の肢体をジッと見つめた。

「へっ、そうだな。あんたとこうなってからは・・・特に独り寝の辛さを実感してるとこだ。」
「ふふ・・・それはそれは、以前に比べると左近殿も身持ちが固くなられたご様子。嬉しいわ。」

言って、彼女は細い腕を伸ばして指先で左近の頬に触れる。
その手は彼が思っていた以上に冷たく、ひんやりとしていた。

「おっと・・・これは随分と冷え込んじまってるな。俺がすぐにでも温めてやるぜ、。」
「ええ、そうして。」

が妖艶に微笑みを浮かべて答えると、左近はその紅い花弁を思わせる美しい唇に食らいついた。
同時にその華奢な肢体を腕に絡め取り、布団の上へと横たえる。
彼は口付けを徐々に深いものへと変化させながら、手早く自らも着物を脱ぎ捨てていった。
互いに密着させた下腹部は、すでに熱を持ち始め、欲が増幅しているのが分かる。
だが、不意に彼はの表情にいつもの閨でのものとは違う何かを見て取った。
とろりとした生暖かい二人分の唾液をゆっくりと飲み下し、左近は僅かに彼女から身を離した。

「・・・・・・・あんたやっぱり何かあるな?」
「・・・・・・・・・・左近殿・・・この状況で無粋じゃない?・・・と言いたい所だけど、
ふふ、そう、あんたには分かるのね・・・私がいつもと違うんだって。それは喜ぶべきことかもしれないわ。」

はそう口にしたと共に苦笑を浮かべる。
左近は足元にある布団を片手で引き寄せると、それを彼女と自分の体へかけた。

「こう見えて俺が腕っ節だけじゃなく、頭も冴え渡る男だってのを忘れたのかい?
ま、特にあんたに関して言えば・・・何でも見落としたくないってのが本音だがね。」
「・・・・有難う・・・左近殿。」

ふっ、と、の紅い口元が弧を描く。
だが、それは平生の彼女の笑みとは違い、何処か儚く寂しげな印象を受ける微笑だった。

・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・傷が・・・・。」
「ん?」
「傷が・・・・・・疼くの・・・・・・・・・・・・・・・・。」

暫しの沈黙の後、はそう呟く如き小さな声で彼に告げる。
左近は彼女の言っている『傷』が何なのかを、即座に理解した。
それは彼女の体に、そして無論心にも大きく刻まれた恐らく一生消えることの無い傷跡。
彼女の兄である孫市と彼女の故郷、雑賀の村を魔王織田信長に焼かれた日に魔王自らの手で穿たれた傷。
左近の無骨な手が、無意識の内にの腰骨付近にある大きな刀傷に触れた。
彼女はその彼の手に自らの手を重ね、そっと握り締める。

「・・・・忘れることも忘れるつもりもないけれど・・・、
それでもいつもは記憶の奥に制御できる場所に閉じ込めて置くことができる・・・。
なのに・・・どうしてか・・・ふとした時に突然傷が疼く・・・。
ねぇ・・・左近殿・・・私・・・・・・・・・・・・・。」

そこでは言葉を切り左近の胸へと顔を埋めた。
左近は彼女の肩が小刻みに震えていることに気づき、
腰に絡めていた片手でより強く、彼女の肢体を抱き寄せる。


「私は・・・・雑賀の村を・・・守ることも出来ずに・・・、
信長と距離を詰めて居ながら・・・あの男を討つことも出来なかった・・・。」


左近の胸元がの瞳から溢れ出た熱い雫で濡らされていく。
彼はただ無言で彼女を抱きしめ続けていた。
が今この瞬間に欲しているのは言葉などではないと言うことを、彼はよく理解していたのだった。

「左近・・・。」

彼の名を呼び、が涙で濡れた瞳を上げる。
その表情は今まで見てきたどれよりも脆く、頼りないものだった。

「泣く場所が欲しいってんなら・・・いつでも俺のとこに来ればいい・・・。
俺の胸は・・・もうあんた専用だ・・・。だから・・・我慢しなくていいんだぜ。」

彼に囁くように告げられた言葉に、は形の良い眉をより一層歪め、
更に瞳に涙を溢れさせた。
やがて、嗚咽を堪えられなくなった様に、彼女はビクビクと肩を大きく震わせる。


「・・・さ・・・こん・・・・。」


強くしなやかで、そしていつでも何処かつかみ所の無い女。
彼女が他者に弱みを見せたことなど、今まで一度も目にしたことはなかった。
しかし、やはりその華奢な体に、心の内に、彼女は大きな悲しみの傷を背負って生きて来ていたのだ。
誰にも知られず、誰にも知らせずに。
その後彼の腕の中で声を上げて涙を流したを、左近は無言のまま受け止めた。




「・・・・・・・・・・・何年・・・ぶりかしら・・・こんなに泣いたの・・・・。」

ぽつり。
やがて、泣き疲れたように暫くの間押し黙っていた彼女が、呟くように口にした。
その言葉に左近はふっ、と、優しげな眼差しと共に返事をする。

「・・・・何だい?思い出せない程溜め込んでたのかい?・・・だったら今度からは我慢はしないこった。
さっきも言ったが・・・あんたの為に俺の胸はいつでも開けてるぜ。」
「ふふ・・・有難う・・・・。本当に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

言って、は再び左近の胸へと顔を寄せる。
長時間直に触れ合わせ続けた肌と肌とが熱を呼び、互いの体温が溶け合っていた。
彼女はその感覚にこの上なく安堵を覚える。
の全てを包み込む、その腕と厚い胸板、今まで見たどの男たちよりも頼りがいのある逞しい体。
そして無論、それは肉体だけの安心感などではない。

「島左近・・・私・・・貴方に出会えて本当に良かったわ・・・。」

彼女は心からの想いを左近へ告げる。
彼は小さく笑って僅かにから身を放し、彼女を見下ろした。

「・・・そりゃ光栄なお言葉だな・・・。だが・・・・・・・それは俺の台詞だぜ。
あんたみたいないい女は・・・もうこれで最初で最後に違いないってね。
あんたをここに連れてきてくれた大殿には感謝してる・・・。
あんたは間違いなく・・・俺の生涯で最高の女だぜ・・・。」



そう口にした後、左近はゆっくりとの唇に自らの唇を触れ合わせた。
それは唇を重ねただけの極軽い口付けだったが、
今まで幾度も交わした濃厚な接吻よりも、より深く彼らの想いを結びつけるものとなった。



(終わり)



後書き
久々の戦国無双更新は左近でした。・・・エンパが手元にある訳ではないんですけどね(涙)
しかし久しぶりすぎてヒロインの性格がちょっと微妙です。
そして更に本当は微エロ進行で終わる筈だったのがシリアス路線突っ走ったので???なことに。
ここまでのお付き合い、誠に有難うございました。失礼致します。


ブラウザバック推奨