「・・・まいったな・・・。」

ドサリ。
ミネラルウォーターのペットボトルを片手に、
俺は深い溜め息を吐くと、ソファに身を沈めた。
逃げるようにバスルームへ向かった
あれはやっぱ俺を警戒して怯えていたのだろうか。


だったら毎回手軽に俺の部屋に泊まることなんか考えんじゃねぇ・・・。


幼馴染とは言え、俺もれっきとした男だ。
いつ『その手』の間違いが起きるか分からない。
実際、俺はもう限界に近いものを感じていた。
が俺の部屋を訪れて同じ空間を共有する度、理性との激しい葛藤が続く。
こんな所でバスケで培ったメンタル面に感謝する日が来るとは思わなかった。
だが、さっきも言った通り、それももうそろそろヤバいと言える程限界に近い。
分かっていてもアイツが俺を頼って俺の所に来れば、どうしても受け入れてしまう。
彼女に対する想いは、
幼馴染だからと言う理由だけではもう俺の中で足りなくなってしまっていた。
しかし、だからこそ、こんな状況でに手を出すような真似だけは避けたい。
ついさっきの様子から見れば、男として見られてない訳じゃないだろう。
だが、あの過剰な反応からして、少しでも下手な事をすれば傷つけるのは目に見えてる。
が傷つく位なら、俺がしんどい思いをしても、我慢を重ねるべきだ。


ああ、分ってるさ・・・。


今更だ。
そんな確認をしなくてもそれは十分承知している。
俺はもう一度軽い溜め息をつき、ペットボトルの中の水を一気に飲み干した。
限界は確かに近い。
アイツをこの手に抱きたいと言う衝動は、彼女がこの俺の空間に居る間中つきまとう。
周囲に他の人間が居れば抑えられる筈の欲求も、
が俺のテリトリーに踏み込んで来てりゃ加速するのも道理な訳だ。
だが、裏を返せばまだ限界に達しちゃ居ないとも言えた。
ギリギリの線を保っている。
今夜一晩、どうにか耐えるしか俺に出来る事はない。


を傷つけるわけにはいかんからな・・・。


結局いつも同じ答えに辿りつく。
知らず、俺は苦笑した。

「中々にしんどい夜になりそうだ・・・・。」

好きだからこそ、出来る事だ。
他の女の子には、きっとこうはいかないだろう。
すぐに手を伸ばして抱いて終わりだ。
だがにはそんなことは出来ない。
俺の忍耐は今、彼女の為だけにある。
俺の理性は今、彼女の為だけに働いていた。




つい最近借りたSF物のDVDを見ながら、俺はいつの間にかうたた寝をしていた。
台詞や効果音が耳に入ってくるものの、意識は確実に遠のいてきている。

「彰・・・?」

不意に俺を呼ぶの声がした。
寝ぼけ切った頭はまともに働かず、夢心地に聞こえる彼女の声。

「彰・・・寝てるの・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

瞼を開けるかどうかを数秒迷う。


このまま眠っちまった方がお互いの為なのかもしれねぇ。
そうすれば、俺も余計な事を考えずに朝を迎えられるだろうしな・・・。


そんな事をぼんやりと考えていた、その時――――


フッ。


俺の唇に、生温かく柔らかい『何か』が触れた。
同時に、俺のものと同じ、だが、確実に違う、ボディソープの香りが鼻をくすぐる。
俺は咄嗟に瞼を開いていた。

「っ!?」
「・・・・・・・?」
「彰・・・、起きて・・・・・・・っ・・・?」

予想以上に至近距離から俺を覗き込んで居た彼女は、どう見ても動揺していた。
昔から嘘をつけないタイプの彼女だ。
何があってもすぐに顔に出ちまう。
だが、今回ばかりは俺も彼女の事は言えなかった。

「お前、どーしたんだ・・・?」

激しい動揺を隠す為に、わざとどーってことないいつもの顔を取り繕い、彼女に聞いた。
本当のところ、余裕なんか全く無かった訳だが。

「・・・あっと・・・学校居る時と違って髪下ろしてるから、
昔とおんなじ寝顔だと思って・・・、何か、懐かしくて、つい見とれてっ・・・・・・。」

慌てた様子ではそう言いながら、驚く位に顔を赤くしていた。
俺はジッとそれを見つめる。
自然と俺の目は、彼女の唇に向けられていた。

・・・。」
「え!?あ、何!?」


「今、俺にキスしただろ?」
「!!!!」


案の定、俺の質問に彼女は身を硬くした。
分かりやすいヤツだ。
分かり易くて可愛い。


そして、だからこそ、性質が悪い。



「あ、や、・・・あの、彰、・・・っ・・・!」

さっきよりも一層動揺したが、どうにか言い訳しようと口を開く。


ドクンドクンドクン。
どくんどくんどくん。


抑えろ。
抑えるんだ。
自分自身に言い聞かせながら、俺は本当は気付いていた。
とっくに、理性の箍なんか外れちまっていた事を。
彼女に対する想いだけが、俺を抑制していたことを。
だが――――

。」
「っあ!?」


―――ドサリ


をソファに押し倒し、俺は上から彼女を見下ろした。
Tシャツ姿の彼女の体から、俺と同じボディソープの香りがする。
そしてまだ少し湿った髪からは、俺と同じシャンプーの香りがしていた。

「彰・・・!?」
「・・・俺も男なんだぜ。我慢にも限界ってもんがある。」

その限界も、もう超えちまった訳だが。

「え・・・?」

彼女が目を見開いて、俺を見上げる。
今すぐにでもに触れて、ムチャクチャにしたい衝動を俺は必死で堪えた。
彼女は俺の事を好きだ。
幼馴染としてじゃなく。
それは今の彼女の行動で俺の自惚れなんかではないとハッキリ言える。
だがそれは、俺の気持ちと比例するとは思えない。
抑えこんできちまった分、獣の衝動にも近い、この想い。
彼女が受け止めきれるとは到底思えなかった。


「俺の部屋に来るのはもう止めといた方がいい。
でなけりゃ、俺もこれ以上はもう無理だ・・・。」
「彰・・・。」
「さぁ、お前もさすがに分っただろ?いつも通りベッド貸してやるからもう行けよ・・・。」

極力彼女を安心させるように、俺はに笑顔を向けた。
身体を起こしてソファから離れる。
両手に拳を握ってるあたり、笑えねぇ。
だが、随分と頑張ったもんだと俺自身を褒めてやりたい気分だった。

「俺は外で少し頭冷やしてくるから、鍵は掛けといていいぞ。
安心しろ、間違っても寝込みを襲うような真似だけはしない。」

茫然と俺を見つめるに背中を向けて、玄関のドアに向かって早足で歩く。


さっさとこの部屋を出ていかないことには、折角抑えこんだ衝動が爆発しそうだった。


続く(ヒロイン視点へ)→