「あれ?。・・・・・・・・・どうした?こんな時間に。」
「彰!お願いっ!今日はここに泊めて!」

言っては両手を目の前で合せてお願いしますのポーズを取る。
突然のことできょとんとしている彰。
だけどすぐに彼は苦笑して言った。

「お前、何でまた・・・。終電なくなったって時間でもないだろ。」
「定期ごと落としちゃったのよ・・・。
定期あると思ってたから財布すっからかんになるまで使っちゃったし・・・。」
「ははっ、そりゃまた災難だな。まさか仕送り全部使ったのか?」
「まさか!今日友達と遊ぶお金だけ手元に置いてたのよ。
無駄遣いしないようにキッチリ計算したのが裏目に出たわ。」

と会話をしながら、彰が制服のポケットから鍵を取り出す。
ジャラリ。
金属同士がぶつかる音。
再度、苦笑を浮かべて、彼はチラリとに視線を向けた。

「俺の部屋はカプセルホテルじゃないんだけどな。」
「分かってる!ほんっと、いつもごめん!」
「ふっ、仕方ない。追い返すわけにもいかんだろ。入れよ。」
「さすが彰、男前!恩に着るわ。」

ははは、調子のいい奴。
笑ってそう口にすると、彰はドアを大きく開けてを一緒に部屋に入れてくれる。
高校に入学して何度目かのお宅訪問。
彰ととは東京に居た頃からの付き合いの幼馴染だ。
バスケの才能を見込まれて今の凌南高校に入学した彰。
の方はと言えば、最初は神奈川まで出てくる予定はなかった。
だけど彰が東京を出て神奈川に行くと決心した話を聞いた時、本当は寂しくて辛くて仕方なかった。
結局が凌南を選んだのは、彰の何気ない一言。


――お前の顔が見れなくなると思うと、さすがに寂しいもんがあるな。


深い意味なんてないのは分かってた。
幼馴染に対しての言葉であって、それ以上の意味のないこと。
それでもはただ嬉しくて。
神奈川の他校を受けるついでと言う理由で、凌南を受験した。
勿論本命は凌南だったんだけど、照れくさくてどうしても言い出せなかった。
でももしかしたら、彰は気付いていたのかもしれない。
バスケ以外では色々な面でゆるい男だから、
本当のところ幼馴染とは言えイマイチよく掴み切れてない訳だけど。

「俺はシャワー浴びてるから、テキトーにやっといていいぞ。
・・・って、まぁ、言わなくてもお前ならそうするか。」
「うん、既に勝手にミネラルウォーターとか飲んでるわ。」
「勝手知ったるってやつか?ははっ、らしいな。」

言いながら、彰はバスルームへ向かって歩いていく。
はぼんやりとその背中を見つめながら、
冷蔵庫から取り出したばかりのミネラルウォーターをゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。


190センチかー・・・そんな特別デカクなるような物食べてたっけ・・・?


今更ながらそんなことを考えつつ、はソファに寝転がる。
同時に片手にあるグラスをテーブルの上に置いた。
も彰ももう高校2年。
お泊り。
なんて、俗的に考えれば常識外。
だけどと彼の間には、そんな色気のある関係は全く築かれていない。
現に今まで何度もこうして彰の家に泊ってるけど、その手の事は一切ないし。
何より彰は校内でも県内でも超の付く人気者で(男女問わずだけど、圧倒的に女性ファン多数)
昔から知ってるにそんな者は全然求めてないのも仕方ないのかもしれない。


けどやっぱり複雑・・・。女として見られてないって形になってる感じで・・・。
ま、ここに泊ってるってだけで彰ファンから撲殺されても文句言えないんだけど。


幼馴染の特権。
そう思えば、確かに優越感がない訳じゃない。
でも、それは何所か身内に心許している、家族愛に似てる。
それはそれで凄く嬉しい。
だけど今のには、それじゃもう物足りなくなってきていた。

はぁ。

無意識の内に溜め息が零れ出る。
高校2年目にしてようやく自分の気持ちに気付いた。
は――――

「ん?、寝てんのか?」
「ううん、起きて・・・・・る・・・・・・・。」

ソファから顔を上げて彰の声がする方に視線を向けた瞬間。
は一瞬、固まってしまった。
バスルームから出てきたばかりの彼が、上半身裸での方に近付いて来るところだったからだ。
動揺しまくるを余所に、
彰はいつの間にか手にしたミネラルウォーターを一口ゴクリと飲んだ。

「俺は今から借りてきたDVDでも見ようと思ってるんだが、お前はどうする?
シャワー浴びるなら貸してやるぞ。」
「う・・・うん、じゃあ、はお言葉に甘えてそうする。」
「ああ、どうぞ。」

いつも通りの態度でやり取りをする彰に対し、明らかに挙動不審の
彰の部屋には今まで何度か泊まらせてもらってるけど、
シャワー後すぐの姿なんか目にした事はなかった。
大体はが押しかけて来た時にはもうシャワーは済ませた後で、
一緒に夜ご飯を食べて他愛ない話をして眠るという感じだったから。

「あーっと・・・Tシャツ・・・借りていい・・・?」
「ん?ああ、そこの引出しにいつもお前が泊まる時使うヤツが入ってる。」
「・・・分かった・・・。」

ここに泊まる時には大抵交わす内容の会話。
なのに、彰が上半身裸と言うその状況のせいで、いやにいやらしい意味深なものに聞こえる。
きっと、こんなことを考えてるのは私だけに違いないのに。
それは分ってるけど、心臓の音を制御することなんか出来なかった。
は極力彰から目を逸らし、出来るだけ速やかにTシャツを手にしてバスルームに向かう。

。」
「えっ!?」

彼の隣をすり抜ける途中、名前を呼ばれ、咄嗟に視線を彰に向ける。
結果的には何の準備もなく、彼の裸の上半身を直視することになった。


どくどくどくどく。


の心臓がいつもの数倍の速さで鼓動を刻んでるのが分かる。
筋肉質で無駄な肉が全くついてない逞しい胸板。
腹筋は適度に割れていて、触れればきっと硬いに違いない。
半分見惚れるみたいに茫然としていると、彰が急にの方に手を伸ばしてきた。


――ビクッ。


瞬間的に身を縮める
一瞬、彼はきょとんとした様な瞳でを見つめる。

「え、あ、あ!?な、何!?」
「いや、お前の髪の毛にラベルがついてるから取ってやろうとしたんだが・・・。」
「ええ!?ラベル!?嘘!?どこ!?」
「ここだよ、ほら。」

言いざま、の髪に彰の指先が触れる。
そして、の髪に張り付いていたらしい小さなシールを取ってくれた。

「あ、ミネラルウォーターの・・・。」
「そうみたいだな。」
「・・・あ、ありがとっ、じゃあっ、シャワー借りるから!!」

顔から火が出る。
寧ろ炎が出たかもしれない。
は大慌てでバスルームまで走って行き、ドアを後ろ手で閉めた。
そして、ドアを背に、そのままズルズルと床に座り込む。
口元を両手で抑えながら、その手が震えていることに気づく。
彰はの様子を変に思ったに違いない。
意識しまくってるのなんかだけ。
それは分ってる。
分かってるけど。


ドクドクドクドク。


「・・・・少しは気を遣え・・・バカ・・・。」


思わずそう毒づく。
ついさっきまで彰がシャワーを浴びていた空間。
ボディソープの香りが生々しい。
そしてまた思い出してしまう。
今目にしたばかりの上半身裸の彰の姿を。
昔とは全然違う、男の子の体の、彼を。


ドクドクドクドク。


最悪・・・これじゃ欲求不満の男子高校生じゃないか・・・!


ぐしゃぐしゃ。
頭を両手でかき混ぜて、は立ち上がった。
少し頭を冷やす必要がある。
その為にも、シャワーの温度は下げて使おう。

「よし!」

は無駄に気合いを入れて、ようやくシャワーを浴びることにした。

ここから出る時には、平常心を保たなければいけない。
平常心。
平常心。

心の中で、私は何度も唱え続けた。


続く(仙道視点)→