「フン、まったくお前はふらふらふらふらと・・・、
どこをほっつき歩いていたかと思えばまた帽子屋屋敷か。
最近はよく入り浸っている様だな。
あの男の所が気に入ったのならば、滞在場所も変えてしまえばどうだ?」
「・・・・・・・・何、それ。
そりゃ最近ブラッドのお茶会にはよく招かれちゃ居るけど、
別に入り浸ってなんかないし。」
思わずムッとしてはユリウスに言葉を返した。
手元の時計を修理する手を全く止めず、彼が続ける。
「ほぅ?入り浸ってなどいないだと?
だが時間帯が2度変わっても戻ってこなかっただろう。」
「確かにそうかもしれないけど、
今回の夕方も昼もあっという間に終わったし、長時間居た訳じゃないわ。
それに、だったらだってユリウスに言いたいことがある。」
言って、はつかつかと彼の椅子のすぐ隣まで歩いて近づいた。
そこでようやく、ユリウスが仕事の手を止め、眼鏡越しの瞳をに向ける。
「何だ?」
「・・・・・・・・・アリス。」
「?」
呟くように言ったを、ユリウスが怪訝な表情で見上げる。
「アリス、最近よくここに来てるでしょうが。
いや、別にそれはいいんだけど、だってアリスは好きだし・・・。」
「何が言いたい?」
「お互いさまってこと。
が帽子屋屋敷に居る間、ユリウスはアリスと一緒だったんでしょ。」
嫌味な言い方になってる自覚はあった。
それでもどうしても口にせずには居られなかった。
今思えば、もユリウスも妙に苛ついてた。
多分、溜めに溜めたお互いへの嫉妬心のせいだ。
塵も積もれば山となる。
小さな嫉妬が積み重なって、膨れ上がって我慢しきれなくなった。
タイミングがいいのか悪いのか、
もユリウスも同じくらい溜め込んで居たってことだ。
それはまぁ、冷静になった今だから言えることなんだけど。
「フン、下らない。お前と一緒にするな、。
アリスはただ私の仕事を手伝いに来ているだけだ。遊び歩いているお前とは訳が違う。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
冷やかにそう返したユリウスに、は思わずジロリと視線を向ける。
彼はもうの方を見ずに、また仕事の手を動かし始めていた。
プレイヤーであったあの時は、こんな彼の態度を可愛いと本気で思ってた。
って言うか、実際今でもそう思う事がある。
だけど、この時ばかりはそんな風に考える事が出来なかった。
ただただ、ムカムカと、黒い感情ばかりが膨れ上がっていく、そんな感じ。
は無言で足早に部屋のドアに向かった。
「おい、・・・・・どこに行く?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「おい!、聞こえているんだろう、どこへ行く気だ?」
「滞在場所を変えてしまえと言ったわよね、ユリウス。」
「何?」
ドアノブに手をかけ、はジッと彼を見つめた。
再度、仕事の手を止めて、ユリウスがと視線を合わせる。
「安心して、ヒッキー!!お望み通り、出て行くから!!」
「誰がヒッキーだ!!・・・・いや、そんなことより、、お前・・・本気で・・・。」
「・・・引き留めるなら今の内だけど。」
「フン、誰も引き留めてなどいない。大体お前は・・・。」
「お世話になりました、さようなら。」
言いざま、はドアを開け、そのまま部屋を出た。
そして、私の名前を呼ぶユリウスの声を背中で聞きながら、
殆ど全力疾走気味に時計塔から降りる階段を目指したのだった。
そして今現在。
あれからもう4度は時間帯が変わった。
は木の幹に背を預けて座り、
ぼんやりと空を見上げて大きく溜め息をひとつ、吐いた。
ガキっぽい意地張ったな・・・。
ユリウスのあれは、いつものヤキモチだったに違いないのに・・・。
ユリウスが実は何気にヤキモチ焼きだってことは、
ここに来る前から『プレイヤー』の立場で十分理解してた。
そしてある意味それが彼のいい所でもあって、そんな所も好きだった。
それは今でも変わらない。
寧ろリアルに接する様になって『2次元キャラ』としての扱いとは全く違う部分で、
彼のそんなところも好きになっていた。
何だかんだ言っても、ある程度の独占欲は気持ちいい。
だから今まで何度かああ言う台詞を口にされても、
変にからつっかかったりはしなかったのだ。
とは言え、アリスのことが気になってたのもまた事実。
彼女はハートの国に滞在してるけど、最近はよく時計塔にも出入りしてる。
そして当然、ユリウスも彼女を気に入っていて、
だからこそアリスは彼の仕事を手伝えている訳だ。
友人以上の関係が成り立ってないのは知ってる。
アリスが今、誰を好きなのかもは知ってるから。
でもそういう問題じゃなく、割り切れないものがいつもの心に住み着いていて、
それがユリウスと同じく嫉妬心からきてるんだってこともよく分ってた。
はぁ。
はまたしても、深く、大きな溜め息を吐く。
そして何気なく自分の額から後頭部へと掌を移動させた。
瞬間―――――
「・・・・・・・・!?」
ない!!??
一瞬にして青ざめて、は咄嗟に立ちあがる。
殆ど頭を掻き毟るみたいにしては自分の後頭部の髪をかき混ぜた。
ない!?
嘘っ!?
ないないないない!!??
頭を滅茶苦茶にかき混ぜた後、は足元や木の周辺をきょろきょろと見回した。
だけど何かが落ちている様子は全くない。
『何か』
のバレッタ。
正しくは、あの引き籠りユリウスがの為に買ってきてくれたプレゼント。
大きな薔薇の形をした銀色のバレッタ。
仕事で外出した時にに買ってきてくれたもの。
照れくさそうにぶっきらぼうな例の口調で唐突に渡された物だった。
――お前も一応女なんだ、少しは着飾る位したらどうだ。
・・・・・・・・・・これをやる・・・。い、言っておくが、返品は利かないからな・・・。
あの時の彼の表情。
今でも忘れられない。
何より自身が凄く嬉しかったから。
「探さないとっ・・・・!」
とにかく今まで通った場所を徹底的に探すしかない。
そんなに小さな物でもないし、道に落ちてれば目立つ筈だ。
そう、誰かに、拾われていない限りは。
中編(ユリウス視点)に続く