帽子屋屋敷に帰宅途中。
無茶苦茶珍しい人を見かけた。
っていうか、最初は人違いかと思おうとした位驚いた程だ。
ユリウスだ。
ユリウスが外出してる。
この世界に来て、もうかなりの時間を過ごしてきたけど、
ユリウスと外出先で出会ったのはこれが初めてだった。
あまりにも珍しすぎて、思わずお笑い奥義・2度見までしてしまったくらい。
とにかく彼のヒッキーぶりは半端ない。
きっと何か仕事関係で出て来たんだろうけど、遠目からも仏頂面なのがよく分かる。
元々無表情か眉間にしわ寄せてるかのどっちかが多い彼だけど、
今回は明らかに舌打ちとかしてそうな顔だ。
は改めてユリウスのヒッキーぶりに感心しつつ、
(あそこまで極めるともう天晴れとすら思ってしまう)
彼の側まで走り寄って行った。
「ユリウス。」
「・・・・・・・・・・。」
スタスタスタスタ。
「ユリウス!」
「・・・・・・・・・・・・。」
スタスタスタスタスタ。
おい!!!!!
当然だけど、身長差がある分とユリウスの歩幅はかなり違う。
だから、彼の近くまで走って行ったと言っても、
声を掛けたのは少し距離がある場所からだった。
それは認める。
だけど。
正直、これ、絶対聞こえる距離なんですけど!!!
って言うか、さっきより早足になってないか!?あのヒッキー!!
「ユリウス!ちょっと、聞こえてるくせにシカトぶっこかないでよ!」
「ん?何だ、お前だったのか、。」
とうとう堪え切れずにさっきよりも更に大きな声で彼を呼び止めると、
ユリウスの奴はようやく足を止めての方に振り返った。
「いやいやいや、誰と間違えたのよ?」
「・・・・・・・・・・・・誰でもない。
外で私に声を掛けてくる人間など存在する筈がないからな、
面倒事に関わるのは御免だと思って避けていただけだ。」
「・・・・・まぁ、ユリウスの考えそうなことだけど、それにしたって・・・。」
妙に全力でシカトを決め込もうとしていた感が否めない。
は何故か拗ねたような表情のユリウスを見上げつつ、
ふと、思い浮かんだ考えを口にした。
「アリスと間違えたとかって・・・まさかね?」
「!!??」
図星。
だったらしい。
見る間に色白のユリウスの頬が、赤く染まっていく。
何と言うか、色々と分かりやすい。
いや、でもそれ以前には自分の予想が的中したことに少し驚いてしまった。
「・・・・・・・・ええ!?マジでそうなの!?」
「ちっ、違うっ!違うぞ!私は別にアイツとお前を間違えたりなんかしていない!」
明らかに動揺しまくるユリウス。
おたついているのがこれまたよく分る。
は思わず苦笑してしまった。
「喧嘩でもした?」
「だっ、だから!違うと言っているだろう!人の話を聞け!」
「アリス最近ボリスと仲いいし、ユリウス的には心配だよね。」
「っ!」
「でもまぁ、アリスはしっかりしたコだし、ユリウスが心配するような事は何もないわよ。」
「だからそうじゃないと何度も言っているだろう!」
ユリウスには悪いけど、彼を弄るのはかなり楽しい。
いつもツンツンしてる分、表情が崩れると可愛いと言うか、
その理由がアリスだと言うのがまた何とも彼らしくて、は少し調子に乗り過ぎてしまった。
「何ならユリウスもアリスにヤキモチ妬かせてみる?
が協力してあげてもいいわよ?、ユリウスのこと好きだからさ。」
「っ!?なっ、お、お前はっ・・・・!」
が彼の腕に自分の腕を絡ませて見上げると、
さっきより更に更にユリウスが激しく動揺し始める。
だっ、駄目だ!面白すぎるわ!ごめん、ユリウス!そしてアリス!
実のところ、プレイヤーの頃からこうして彼を弄る事を想像してた経験のある。
冗談100%としか思えないの言葉にこうまで焦ってくれるユリウスが可愛くて仕方ない。
だけど。
だけど。
だけど。
そう、彼を弄るには余りにも場所が悪かった。
――ズキュオォー・・・ン
「っ!!??」
唐突に放たれた、銃声が一発。
ユリウスの蒼い髪を、銃弾が掠めた。
瞬間、凍り付く。
勿論、余りに急な出来事だったってこともある。
でもそれだけじゃなく、は咄嗟にそれが誰の仕業なのか悟ってしまったから。
「、ソイツから離れろ。」
いつもの声より数段低い低音。
真っすぐにユリウスに向けられている銃口。
とユリウスの視線の先。
鮮やかなオレンジ色の髪をした、長いウサギ耳が特徴の長身の青年。
エリオット=マーチ。
ブラッドの片腕で、昔からの因果でユリウスとはかなり仲が悪い。
って言うか、寧ろ、憎み合ってるといっていい。
因みに、これもかなり重要な事だけど、の、恋人でもある人。
あああ!!あああああ!ああああああ!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・最悪!!!!
思わず、は、おお神よ!と、天を仰いで嘆きたい衝動に駆られる。
「フン、嫉妬に狂ってが側に居るにも拘らず発砲したのか。
、私はお前の趣味を疑うぞ。」
「うるせぇ!テメェは黙ってろ。、早くそいつから離れろ!」
「エリオット!誤解だからね!?落ち着いて!落ち着こうよ!!」
いや、この場合ある意味でが一番落ち着かなけりゃいけない。
コイツら、特にエリオットは完全に頭に血が上ってしまってる。
原因は明らかにで、もう何と言うか、自業自得なのも認める。
だけど、それはそれとして、とにかく今の状況をどうにかしなければいけない。
「お前だけは許さねぇ・・・。よりによってにまで手を出しやがって…。
ただ殺すだけじゃ絶対ぇ済まさねぇからな。」
「手なんか出されてないない!!だから銃をしまい―――」
言いかけた所で、スッ、と、の隣に居るユリウスが右手を上げた。
って、ユリウスまさか!!!!???
案の定。
ユリウスの手には銃が握られていた。
は益々凍り付く。
この世界に来てからもう嫌になる程銃は目にしてきたけど、
何度目にしても慣れないし(慣れたくもないけど)、
見るだけでも怖いと思ってるのに、銃撃戦なんかは問題外だ。
「二人とも止めてよ!!てかエリオット!ちゃんと理由を説明するから銃を下ろして!」
「幾らあんたの頼みでも聞けねぇ・・・。しかも相手がソイツなら尚更だ。
絶対許さねぇ・・・!!アンタが時計屋の隣に居るってだけでも胸糞悪ぃ!!」
「ほぉ?それは奇遇だな。
私も役持ちでありながら犯罪者になった人間が目の前に居ると思うと、
胸糞悪くて仕方ないと思っていたところだ。」
「・・・・テメェ・・・・。」
誰か!!!誰か!!!誰か!!!!!
もうこの際誰でもいい!!!誰でもいいから二人を止めて!!!
一触即発。
が少しでもユリウスから離れれば、エリオットは確実に発砲する。
なのに、ユリウスはやけに冷静に嫌味を言ってエリオットを益々挑発しやがるし、
エリオットも簡単にそれに乗りやがるし。
元はと言えばの行動が引き起こしたこととは言え、
この世界の人間の危険思考には全くついていけない。
「・・・あんたたち、何をしているのよ?」
「っ!!あ!」
不意に達3人に向けて声を掛けてきた聞き慣れた少女の声。
には、彼女に後光が差しているようにすら思えた。
ああ!!アリス!!って言うか、救世主!!!メシア様!!!
「アリス!!二人を止めて!ここでヤリ合うつもりなのよ!!コイツら!」
「・・・・・は?何がどうなっているのよ・・・。ああ、もういいわ!
とにかく馬鹿な真似はよしなさいよ、二人とも!!」
言ったアリスが、ユリウスとエリオットの間に割って入る。
二人はかなり戸惑った表情を見せながら、それでも当然、
彼女に銃を向けるようなことが出来る訳もなく、渋々銃を下ろした。
さすがだ。
さすがこの世界のヒロイン。
見事。
「言っておくが、私は何もしていない。
そこに居る男が、勝手に妙な勘違いを起こして発砲して来たんだからな。」
むっつりとした口調で、ユリウスが言った。
エリオットがその言葉に声を荒げる。
「んだと!?」
「もう!エリオット止めてってば!!」
言いざま、はユリウスの側から離れると、エリオットの身体にしがみ付くような形で抑えつけた。
「・・・よく分らないけど、
エリオットはとユリウスが一緒に居た事に怒っている訳ね?」
「そう、って言うか普通に偶然出会っただけなんだけど。」
「ハァ・・・いいわ、とにかく二人を引き離しましょ。」
「うん。」
はアリスに頷いて同意すると、
未だに臨戦態勢に入りそうなエリオットに視線を向けた。
「エリオット、行こう。アリスも居るんだし、
あんただって彼女を巻き込むようなことしたくないよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「エリオット!」
「チッ・・・ああ、分ってるよ!俺だってアリスを巻き込みたくねぇ。」
かなり最大級に不満げな態度ながら、それでもアリスの存在が大きかったのか、
彼はどうにか銃を仕舞い、と一緒にその場を離れることにしてくれた。
アリスとユリウスには、今度絶対きちんと謝らなくちゃいけない。
それにしても、ちょっとユリウスを弄って遊ぶ、程度のつもりだったのに、
本気、シャレにならない状況に陥ったものだ。
アリスには感謝してもしてもし足りない。
は心底心の中でホッとしながら、
とにかく少しでも早くエリオットをユリウスから遠く離してしまおうと必死だった。
だけどまさか、これ以上に最悪で、これ以上に厳しい状況に陥ろうとは、
この時のはまだ、知る由もなかった。
後編に続く→→