昼間部(デイ・クラス)のみなさんはもう門限ですから自分の寮に帰って!」

宵の刻。
今日も今日とて繰り広げられる昼間部(デイ・クラス)夜間部(ナイト・クラス)の入れ替え時刻。
一番の混乱時間。
は優姫のその一声でハッと我に返った。
少し熱があるのかもしれない、ぼうっとしてしまっていた。
実は今朝から少し体調が優れなかったのだけど、大したことはないだろうと高を括っていた。
今になって少しそれが体に響いてきたのかもしれない。
だけど今ここから離れる訳にはいかなかった。
何故なら、またしてもいつものことながら、零の奴がまだ姿を見せていないから、
がここを離れると優姫一人に彼女たちを抑えて貰う事になる。
は風紀の特別要員的な役割だから週3回くらいしか手伝わなくていいことになっている。
毎日やっている訳じゃないんだからせめてこんな時くらい彼女に手を貸してあげたいものだ。
しかしまぁ、現実的に女子生徒達を抑えるのは本当に苦労する。


「道を開けて下さい!はい、そこ、それ以上前に出ると迷惑するのは夜間部(ナイト・クラス)の皆さんですよ!」


声を上げて彼女たちを制しながら、とにかくこの時間だけは乗り切ろうと思った。
脳内思考は一応23歳。
17歳のコムスメに負けてはいられない。
なんて、自身もそこまで大人だった訳じゃないのは分かっているんだけど。
それにそれ以前に気を緩めるとまたぼうっとしてしまいそうだ。
仕事に集中していればどうにか堪えることもできる。


――ギイイィ・・ィ・・・


そうこうしている内に、ゆっくりと夜間部(ナイト・クラス)の月の寮の門が開いた。
そして、それに合わせて優雅な歩調で彼らが姿を見せる。
彼ら。
一般的にはエリート美形集団として知られている吸血鬼(ヴァンパイア)達。
この一瞬。
この一瞬だけは、毎度毎度、彼女たちも静かになる。


まぁ、理由は分からなくもないけどね・・・。


彼らの周囲は達とは空気が違う。
そう、まさに夜の空気を纏った独特の雰囲気がある。
これだけの人数だと特にそう感じてしまう。
それ程、彼らは達から見れば『特別』なのだ。

「おはようー!女の子たち、今日も会えたね!君達はいつ見ても可愛いよ!」


キャアアアアアアアッッ!!!



大音響の黄色い声。
ステレオモードなんて目じゃない。
有る意味このパワーには圧倒される。


なんて感心してる場合じゃないか・・・。
って言うか、英・・・毎回毎回混乱を大きくするの止めて欲しいんだけど…!


「そこ!押さないで!夜間部(ナイト・クラス)の皆さんの邪魔になりたくないのなら道を空けて下さい!!」
「うぬう〜!!押さないで下さいー!!」

の向かい側では優姫が必死に頑張っている。
相手は女の子ばかりと言えども、この数となると相当の力を必要とするものだ。
それでもいつもならこの位はどうにか抑えることも可能だった。
だけど今日のの状態だと辛いものがある。


「・・・っあ、ヤバ・・・!」


―――ク ラ リ。


ほんの一瞬。
目眩で足もとがふらつく。
その瞬間を突くみたいに、女生徒達は雪崩のようにの先に踏み込んだ。


キャアアアアアアアッ


「ちょ、ちょっと!!」
さん!!大丈夫ですか!?」
「大丈夫、優姫はそのままそっち抑えてていいから、こっちはが・・・。」


言いかけたその時。


「てめーら!いい加減キャーキャー騒ぐな!!さっさと寮に戻れ!!
これ以上人の手煩わせてんじゃねーぞ!」


ヒーローは遅れてやってくる、とは言え、遅れすぎて登場した零。
それでも女の子は彼の迫力に蜘蛛の子を散らすようにして逃げて行く。
同時に優姫がの側まで駆け寄ってきてくれた。

さん!大丈夫ですか?
―――零!!あんた来るの遅すぎ!どうせどっかで昼寝でもしてたんでしょう!タコ!」
「うるせぇ、結果的にアイツら追っ払ったのは俺だからいいだろ。
それより・・・、お前どうしたんだ?いつもなら優姫並のバカ力であいつ等抑えてるだろ。」
「ぜぇ〜ろ〜!あんたねぇ!もっと他に言い方があるでしょう!」

優姫はそう言って怒ってくれたけど、零の言葉を完全に否定できないとこが悲しい。
『優姫並』と言うのは置いといても、こっちの世界の吸血鬼(ヴァンパイア)と対抗する為だったのか、
運動神経も並み以上にいいし、体力だってあるのだ。
そのおかげで腕力も以前よりあるみたいで、体調が万全なら彼女たちを十分抑え込めてたのも事実。

「顔色がよくないね、ちゃん。」
「・・・え?」

不意に掛けられたその声に、視線を上げる
すると、の右隣にいつの間にか夜間部(ナイト・クラス)の副寮長・一条拓麻が立っていた。
それに気付いた優姫が声を上げる

「あ!一条センパイ!」
「・・・あんた達、まだ校舎に入ってなかったのか。」

零は不機嫌に眉間にしわを寄せている。
気付けば、もう既に校舎内に向かったとばかり思っていた夜間部(ナイト・クラス)の生徒達が数人、その場に残っいた。


「へぇ、お前みたいな女でも体調を崩すことがあるのか。」
「・・・体調の優れない女の子に向かってそう言う事を言うものじゃないよ、藍堂。」
「う、すみません・・・、玖蘭寮長。」


え?あれ?、まさか・・・。
・・・これはもしかして、・・・のせいで・・・皆ここに残ってくれてる、とか・・・?


そんな。
まさか、あの彼らが、優姫ならまだしもの為に、なんて。
ぼんやりとその様子を眺めているの不意をついたように、
今度はひんやりとした大きな手がの額に押し当てられた。

「っ!?」
「・・・お前、熱があるんじゃないのか?熱いぞ。」
「暁!」
「あー架院、ズルイんだ〜、そう言うことは僕がちゃんにしてあげようと思ってたのに。」

ぶーぶー。
とばかりに口を尖らせる一条。
どうやらこれは、やっぱりが原因でここに皆残ってるらしい。
信じられないけど。

「ご心配掛けて申し訳ありません、ですがは大丈夫ですから、皆さんは早く授業に向かって下さい。」

言って、出来る限り平気だと言う表情を装う。
は昔から、そう言うのは得意だった。
顔色が悪いってのは計算外だったけど、それでも今日一日、この時間が来るまでは誰にも気づかれずに済んだのだ。
実を言うと今は頭の芯がぼうっとしていて頭痛がしてなくもないんだけど。


「あの、さん、後は私と零で――――。さん・・・!?」
「・・・・・・・・・・・・・。」


あ、まただ・・・や、ば・・・・・・・・・・・



―――グ ラ。


足元がふらついたと同時に体が傾き、そのまま崩れ落ちそうなる
瞬間。
誰かの腕がの体を素早く抱きとめてくれた。
それが誰なのかを確認する前に、はそのまま何かに吸い込まれていくみたいに意識を失った。
その一瞬、を腕に抱いてくれたその人が、小さく呟いた気がする。



「ほらやっぱり・・・ちゃん、君は無理をし過ぎちゃうから心配だよ・・・。」

「こんなになってまで笑ってるなんて、やっぱり馬鹿なんじゃないのか、お前・・・。」

「まったく、これだからお前からは目を離せないんだ・・・、。」



アトガキ
上から一条、藍堂、架院です。台詞だけで分からなかったら夢書きとしては致命的なんですが、
分からなさそうだと踏んで補足してみました(可哀想な人がここに)
実を言うと零も選択肢に入れようかと悩んだんですよね。
因みに零の場合はかなり片思い色強くなるでしょうけど(苦笑
本当は瑠佳も(選択肢の中ではなくて)一言入れ込みたかったんです。ふふ、実は彼女の事も好きです。
ではでは、ここまでのお付き合い誠に有難うございました!貴重な姫様に深く感謝しつつ、失礼致します。