今日は乙女にとって特別力の入るバレンタインデイ。
この黒主学園で言うところの(サン)・ショコラトルデイだ。
本来なら授業のない休日の土曜日。
だけど理事長の計らいで、例年通り月の寮の彼らに陽の寮の女生徒達がチョコを渡す機会が設けられた。
2月に入って早々、彼女達の話題の中心はほぼ(サン)・ショコラトルデイ一色だった。
誰にチョコを渡すのかと言う話に始まり、どこのブランドのチョコがいいとか、
手作りを渡すつもりだとか、プレゼントで差をつけるだとか、とにかく口を開けばバレンタインのことばかり。
まぁそんな訳で、今日はどの女生徒も気合十分。
寧ろ殺気立ってると言う表現がふさわしい位で。
彼女達は明らかに本命チョコだと思われる代物を手に、
殆どひしめき合っていると言っていい状態で月の寮の前で夜間部(ナイト・クラス)の生徒の登場を今か今かと待ち構えていた。
以前は視覚だけでそれこそ二次元(・・・)の出来事として見ていた光景。
それでもこの世界(・・・・)に来てから風紀委員の補佐を務めるようになって、
芸能人の出待ちに近い彼女達に圧倒される様な空気にもどうにか慣れてきていた。
―――――――――つもりだっただが。
今日のこれは、本当に、本当に、シャレに、ならない。
いつもの比じゃない。


さん!大丈夫ですかっ!?ああっ!こらーー!そこからはみ出ないで下さい!駄目ですよ!!」
「優姫、・・・ど、どうにかね・・・。・・・・・・っと、そこ!!フライングしない!!ルールは守って!」
「・・・ったく、面倒くせぇ・・・。・・・おい、それ以上前に出るな、何度も言わせるんじゃない。」

押し合いへし合い状態の女子生徒を3人それぞれの持ち場で必死に抑え込んでいた、その時。



―――ギィ・・・イイイイ・・・・。



月の門がゆっくりと開き、夜間部(ナイト・クラス)の面々が姿を見せる。
いつものように彼らが姿を見せたその一瞬。
女子生徒達はうっとりとした表情を浮かべてシンと静まり返った。
夜の妖しく美麗な独特の空気を纏い、優雅な歩調で彼らがゆっくりとこちらへ近づいてくる。




キャァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!



そして、本気で鼓膜が破れてしまうんじゃないかと思いたくなる程の女生徒達の黄色い悲鳴。
皆お目当ての夜間部(ナイト・クラス)の生徒の名を呼び、
ゲートの前で必死にアピールを繰り広げ始めている。
受け取って貰える確率は渡す相手にもよるけれど、正直かなりの狭き門だと思う。
両手に持てる限りの量なんかたかが知れてるし、普通に考えればそれでも十分な数だとは思うけど、
生憎、今ここに居る人数は普通に考えていいような数じゃないからだ。
おかげで彼女達の興奮は更にヒートアップするし、達の仕事は一層大変になるって訳だ。


「僕の可愛い女の子達!ちゃーんと、皆、受け取ってあげるからね!!」


しかも、英の奴はやっぱり調子こいて彼女達を煽る発言をしてくれるし。
お願いだからそんなお約束通りに行動しないで欲しい。
まぁそして勿論、お約束通り枢の一言で大人しくなった訳だけど。



その後、どうにか無事恒例の(サン)・ショコラトルデイの行事は終了。
殆どズタボロ状態になりながらも、達は月の寮に戻る彼らの背中を見送った。
勿論、零の気遣いにより、優姫は枢にチョコを贈ることに成功していた。

「・・・、・・・・お前は良かったのか?」

興奮冷めやらぬ状態の女子生徒達を陽の寮へと押し戻した後、部屋に戻るその途中。
不意に、零がそう言ってに声を掛けてきた。

「うん?何が・・・?」
「チョコだよ。アイツらの中に、渡したい相手が居たんじゃないのか?」
「ええっ!?そ、そうだったんですか!?さん!
じゃあ、私と一緒に作ったチョコって夜間部(ナイト・クラス)の誰かにあげる為に・・・?」

優姫のその言葉を聞いた途端、零は露骨に顔を顰めた。

「・・・、お前もあの実験に加わってたのか。」
「なっ!何よ!零!実験て!」

が返事をするより早く、優姫が頬を膨らませて抗議の声を上げる。
零は青ざめた表情を浮かべて先を続けた。
しかも芝居なのか、本気なのか、身震いまでして居る始末。

「夜中にもの凄い匂いがしたからな・・・。毒物を製造していたとしか思えねぇだろ。」
「・・・・・・・・・・・・、ああー、うん、、まぁね・・・。
けど色々軌道修正しといたから大丈夫。毒物には至ってないって、うん。」
(零は知らないけど、あの優姫の手作りチョコは最終的に彼の口に入るものだ。
零の健康を思って、正直は相当頑張ったと言える)
「・・・そうか、優姫のおかげでお前も苦労した訳だ。同情する。」
「って、二人して人の作ったチョコを毒物扱いするなーー!」

優姫は声を上げてそう言い、達に向かって拳を振り上げて抗議した。
と零はそれを小走りで避けて笑い合うと、一旦それぞれの部屋に戻ることにした。
優姫の手作りチョコの話題でにチョコを渡したい相手がいるのかどうかという話は曖昧なままになった事に、
は内心ホッとしていた。


本当のところ、渡したい相手なら居た。
優姫の実験に付き合いながら、その合間に同時進行でどうにか作り終えたトリュフチョコは3粒。
あの悪臭と優姫の恐ろしい行動の数々を思えば、3粒とは言えまともに出来あがったことに自分で驚く。
状況的にも立場的にも渡せる訳がないと思いつつ、ラッピングにも力を入れたりして。
結局、もゲート前で興奮して黄色い声を上げていた彼女達と余り変わらないのかもしれない。
とは言え、既に渡す機会は逸してしまってるし、例え渡せるチャンスがあったとしても、
受け取って貰えたとは思えない。
もしも受け取ってくれたとしても、彼女達その他大勢と同じで、そこに特別な感情なんて有る筈もなく。


それでも、渡せないよりはマシか・・・。
どうするかな、このチョコ・・・・・・・・・。


ハァ。
小さく溜息を吐きつつ、はポケットにある手作りチョコを軽く握りしめた。


・・・っと、落ち込んでる場合じゃないか。
そろそろ見回りに行かないと。



支葵 千里ルートへ
架院 暁ルートへ
藍堂 英ルートへ。



アトガキ
思いついたキャラで分岐夢。DSの恩恵に預かり、久々のヴァン騎士夢です。
キャラによって長さに差が出たり、寧ろ多少内容被ったりあると思いますが、
そこは目をつぶって下さると嬉しいです。
それ以前に、キャラ掴めてるかって言う話なんですけどね!!(・・・)